ガチャ122回目:苦労した敵も
その後、巨木の最下層を探ったが、他にはもう何もない事が分かった。俺達は螺旋階段を登り、ロープで下ってようやく地上へと辿り着いた。
「ご主人様、ご指示通り帰りのロープは全て回収しました」
「ご苦労様。他の人に入られても面倒だし、もう来ることは無いと思うけど……。もし来ることがあれば、その時はまた宜しくね」
「お任せ下さい」
「じゃあ、ちょっと早いけどお昼ご飯にしようか。ここからは『黄金蟲』と『黄金鳳蝶』との連戦予定だ。英気を養っておこう」
「はいですわ! 旦那様、何処で食べますの?」
「んー。折角だし、すぐ近くに広場があるんだ。そこにしよう」
マップで見る限り、その広場には先客はいないようだ。邪魔される心配はないだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇
昼食を終えた俺達は、さっそく狩りを始め、『黄金蟲』と対峙する。
『シュルル』
「ファイアーボール!」
「ふっ!」
アヤネとアイラが先制攻撃を行った。
経験値を得るには攻撃を与える必要がある。2人の成長のためにも、これらは必要な行動だ。
『シュルルル!』
「ご主人様」
「ああ!」
攻撃を受けた『黄金蟲』が『金剛外装』を張るが、アイラが即座に引っぺがす。そしてガラ空きとなった胴体に、限界まで引き絞られた矢が突き刺さった。
『黄金蟲』はその瞬間硬直し、全身から煙を噴きだした。
「うーん、余裕だな。レベルも上がらなかったし」
「この程度の相手であれば、武技スキルを使うまでも無いようですね」
「流石旦那様ですわ!」
「ほんの1週間ほど前は、苦労してたんだけどなぁ……」
初デートの事を思い出す。あの時はすごい苦労したはずなのに、随分と遠くへ来たものだ。
このアーティファクトが強いというのもあるだろうけど、安全な後方からの『力溜め』による狙撃。このコンボは本当に強いな。
「ご主人様はあのスキルによるステータス増強もそうですが、レアモンスターばかり討伐していますからね。成長速度は他者とは比較になりません」
「だよなー……。自分でも、驚いてる」
「ふふ。では、こちらを」
そう言って、アイラはマスクを配った。今回は緊急事態ではないためか、前回とは異なり特徴的な刺繍入りのマスクだった。
アヤネは可愛らしいリスの刺繍。アイラはシックな柄物。そして俺のには、なぜか金貨が山程入った宝箱が描かれていた。
「……なんで宝箱?」
「ご主人様ですから」
「言いたいことは分からないでもないけど……」
控えめに言っても、めちゃくちゃダサい。
「アイラの好意はありがたいけど、俺にはこの指輪があるからね。使いそうにないから返しておくよ」
「残念です」
「それにしても、何処で売ってたのさ、こんなの」
「手作りですが」
「えっ?」
アイラの手作り? この……どうしようもなくダサい、これが?
「ふふ。その反応が見たいがために作りました」
「なんだ、冗談だったのか」
「ええ。流石にコレを着けて回る人は、私も憐れみの目で見てしまいます」
自分で作っといて、この言い草である。
そんな風に彼女達と雑談をしていると、煙が膨張を始めた。
「湧いたか」
煙の中から湧き出た『黄金鳳蝶』は、鱗粉をばら撒きながら浮かび上がる。その光景は蛹が孵るかのようで神秘的だが、倒す気概は一向に薄れない。それは、アヤネもアイラも同様だった。
よし、魅了の効果は出ていないな。
「2人とも、外装を剥がしてくれ」
「「はいっ!」」
「『紫電の矢』」
2人が攻撃をするさまを眺めながら、『力溜め』で『紫電の矢』の威力を引き上げる。
『黄金鳳蝶』の外装は1枚、2枚と順調に削られていき、狙いすまされたアイラの攻撃により薄い金の膜は消失した。
「そこだっ!」
紫の光が放たれ、寸分違わず『黄金鳳蝶』の中心を貫く。
『黄金鳳蝶』は地面に墜落し、煙となった。
【レベルアップ】
【レベルが58から61に上昇しました】
『金剛外装Ⅲ』は1発ごとに3秒の無敵時間があり、3発まで耐えられる。なので最低でも6、7秒ほどダメージは与えられない。だから、溜めるのに5秒の制限がある『力溜め』とは、かなり相性が良い。
狙えば無駄なく攻撃出来るという目論見だったのだが……。
「作戦通りとはいえ、あまりにも呆気ない」
「一撃でしたわね。弓矢が弱点なのでしょうか?」
「速さと幻惑を得意としたモンスターは、総じて耐久面に難があるものです。近接では難しくとも、ご主人様の遠距離攻撃であれば、この先も楽が出来そうですね」
「あんまり楽を覚えると、後で泣きを見るからほどほどにするけどね」
「そうですね……。ご主人様のおかげで、私達もスキルが充実していますし、あまり頼り過ぎては地力が必要な相手と遭遇した際、後れを取る事になるでしょう。折角ですから、次の『黄金鳳蝶』からはまた剣だけで戦いますか?」
「……そうしよっかな」
今日のところは、弓は封印しよう。弓の強みは、昨日と今日で大体理解できたし。
そして俺達は、目の前に散らばったドロップアイテムの数々を、囲むようにして座った。
「とりあえず、ガチャの前にこのスキルの処理だな。まずはアイラ。『金剛外装Ⅲ』と『風魔法Lv4』を覚えてくれ。アイラが被弾する瞬間というのは想像できないけど、覚えていてくれると俺も安心できる」
「感謝します、ご主人様。しかし、魔法もですか?」
「攻撃手段はあるにこしたことはないでしょ」
「畏まりました」
アイラは『統率』を抜きにしても『魔力』は350ほどある。
『金剛外装Ⅲ』を使っても、攻撃魔法を行使するには十分すぎるだろう。俺達と違って『魔力回復』のスキルはないけど、『魔力』って寝たら全快するみたいだしな。
「アヤネは『魔力回復Lv1』を。俺は『魔導の叡智』を貰う」
「はいですわ! あの、旦那様は『風魔法』を取らないのですか?」
「『元素魔法』とかち合うみたいでね。通常の4属性魔法は覚えられないみたいなんだ」
「残念ですわね……」
「そうだなぁ……。今のところ『元素魔法』を覚えた意味があんまりないんだよな……」
「それでしたら大丈夫ですわ。たしかLv3から専用の魔法が使えたはずですの!」
「あ、そうなんだ? じゃあ、『圧縮』したのも無駄では無かったか」
まあ『圧縮』は、使ったら最後、手持ちのスキルは全部『圧縮』対象にされるから、止めようがなかったけど。でも俺、魔法は昨日覚えた『泡魔法』くらいしかまともに使ってないよな……。
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