第五章 二度目のデート

ガチャ092回目:家具と種

 食事後、疲労回復のため、マキにお願いして抱き枕になってもらった俺は、翌朝は清々しい気分で目が覚めた。反面、マキは顔が赤かったが。

 マキから潜り込んでくるときはそうでもないのに、俺から頼むと恥ずかしいのか……。乙女心は難しいな。


 その日は完全に休みという事もあって、4人で大型スーパーに買い物に来ていた。

 買うものはもっぱら家具やインテリアで、俺にはよくわからない分野だったこともあり、彼女達が買うものに口出ししたりせず、後ろから見守る事にした。なんでもAランク冒険者特権という事で、家具の運送は最優先でしてくれるらしく、購入した物は今日の夕方には届くんだとか。


 新居は備え付けの家具くらいしかまともに置いてないから、大量購入する事になった。そんな感じで、上客ということもあってか、どこからともなくお偉いさんがやって来て、手を揉みながら彼女達のご機嫌を取ろうと必死だった。けど彼女達は、その程度で気分を良くするような子達じゃないし、むしろ邪魔だったのでさっさとご退場頂いた。

 アキとマキ。それからアイラの家具が着実に増えて行く光景を目の当たりにしていると、ふと気になったことがあった。


「なあアイラ。アヤネの家具とかってどうするの?」

「私が購入したものは、ほとんどお嬢様の部屋に置くものですからご安心を」

「なんだ、そうなのか。さっき買った可愛らしいぬいぐるみも?」

「はい。……ご主人様は、あれが私のだと思われたのですか?」

「いやまあ、違和感そんなにないし……」

「ふふ。さようでございますか」


 アイラは怒るでもなく、笑ってみせた。

 ……うん、やっぱり違和感ないよな。


「ご主人様も何か買いませんか?」

「ん-……。それじゃあ、ちょっと見て回ってくる」

「はい、いってらっしゃいませ」


 普通のインテリアには興味が湧かなかったので、ブラリと各コーナーを見て回る。すると、冒険者愛用と書かれたインテリアスペースに興味が惹かれた。

 特に、無造作に置いてあった『アーマースタンド』に。


 今、見栄えのいい手持ち装備は『ミスリルプレートセット』だけだが、今後は宝箱からも未知の装備が出てくる事もあるだろう。こういうのは何個かあっても良さそうだな。

 あとは刀掛けも良さそうだ。あ、『魔道弓』もあるから弓立てもいるよな。


 むむ。ダンジョンじゃないのに、ちょっと楽しくなってきたぞ。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 買い物を終えた俺達はレストランで食事をとり、日ごろの疲れを取る為に全員でマッサージを受け、帰宅したのは日が暮れる頃だった。家の前には早速、注文した品を届けに大型のトラックがやって来ていた。

 だが、よくみるとトラックの荷台は既に空で、玄関先にも荷物は見当たらない。疑問に思っていると、トラックはすぐに走り去っていった。

 もう中に運び込んだのか? 俺達は外にいたのに、どうやって中に??


 疑問はすぐに解決した。

 玄関を開けると、大量の家具に埋もれる形で、アヤネが寛いでいたのだ。


「あ、旦那様! おかえりなさいですわ!」

「アヤネ、もう戻ってたのか」

「はい、ただいま帰りましたわ!」


 飛びついてくるアヤネを撫でると、子犬のようにじゃれつく。やっぱりアヤネは可愛いな。


「お嬢様、問題はありませんでしたか?」

「大丈夫ですわ。お母様からも、特に要求も無く帰ってきましたの」

「アイラ、読みが外れたね」

「おかしいですね。お嬢様、契約書の件ですが」

「ご安心なさい。アイラの契約主は、しっかりとお母様から旦那様に入れ替えて参りましたわ!」

「え、俺なの?」


 俺はてっきり、アヤネになるんだと思ってたんだけど。

 アヤネはずいっと契約書を見せてくれたが、そこにはデカデカと、俺の名前がアイラの雇用主の位置に存在していた。あとは俺がサインすれば契約は完了するらしい。


「アヤネはそれでいいの?」

「勿論ですわ。わたくしの全ては旦那様のもの。アイラとの契約も、旦那様のものですわ」


 ちらりとアイラを見るも、彼女は妖艶に微笑んでみせた。


「ご主人様、改めて宜しくお願いします」

「……わかったよ。サインするよ。給金とかその辺はよくわかんないから、アキとマキに任せる」

「はい」

「任せて」


 契約書にサインと、判子を押した。

 これでいいのかな。


 アイラは仰々しく契約書を受け取ると、アイテム袋に詰め込んで何事も無かったかのようにアヤネを見た。


「ではお嬢様、サクヤ様は他に何か仰ってましたか?」

「ええ。『中級ダンジョン』への入場許可と、後日歓迎会を開いてくださるそうですの。あとは、禁止区域への、立ち入り許可をしてくださいましたの」

「それは……お三方も同意を?」

「そうですわ」

「……なるほど」


 雇用関係が変わっても、アイラとアヤネは今まで通りで行くらしい。

 まあ、俺がそう望んでいるとくみ取ってくれたのかな。


 彼女達の間で何やら通じ合っているようだが、気になる発言があった。


「禁止区域って?」

「簡単に言うと、レアモンスターや強力なモンスターの出現が確認されているエリアの事ですわ。『中級ダンジョン』ではお母様の管理下にありますから、レベル的に認可されていない冒険者は立ち入りが出来ないようになっていますの」

「ふうん……。でも、レアモンスターって大まかに2種類いるって話だよね? その場にとどまるタイプと、湧き地点から動き出すタイプ」


 今まで出会ってきたレアモンスターだが、『ジェネラルゴブリン』が動き回るタイプで、『マーダーラビット』『ボスウルフ』『黄金蟲』がその場にとどまるタイプらしい。

 接敵後逃げ出した場合、前者は階層の切り替え地点まで延々と追いかけて来るらしいが、後者は湧き地点周辺から距離を置くとそれ以上追ってこないんだとか。


「動き出すタイプが湧いた場合はどうしてるの?」

「その場合は、お母様直属のチームが討伐に当たりますわ。ですから、お母様の管理する『中級ダンジョン』ではレアモンスターによる被害は、未確認のものを除けばほとんどありませんの」

「なるほどね」


 ダンジョンによって管理方法がかなり違うみたいだな。


「良く言えば普通の冒険者は安全にモンスターを狩れるけど、悪く言えばレアモンスターを独占している訳だ。そんな話、しちゃっていいの?」

「旦那様だから良いのですわ!」

「そっか」


 アヤネの頭を撫でると、目を細めて頭を押し付けてくる。その姿に、尻尾がブンブン振られているような幻視をしてしまう。

 やっぱりアヤネって、子犬っぽいよなぁ。


「それにしても『中級ダンジョン』か。『上級ダンジョン』でアレだったから、まだ二の足を踏むな……」

「旦那様、『上級ダンジョン』に入られたんですの!?」

「ああそっか、アヤネにも説明しないとね」


 アヤネに昨日の事を話すと目を輝かせた。


「すごいですわ、旦那様! ですがご懸念の通り、わたくしでは足手まといになりそうですわ……」

「そこなんだけど、アヤネにも『金剛外装』を覚えてもらおうかと思っててね」

「あんな高価なスキルを、わたくしに……?」

「値段は関係ないよ。それに、アヤネの安全を思えばそれくらいどうってことない。君には、絶対に覚えておいてほしいんだ」

「旦那様……」


 一瞬の無敵だと複数の攻撃には対処できないから、『Ⅱ』にはしておきたいところだ。

 それにアイラも、今は俺よりも強くてめちゃくちゃ頼りになるし、安心して背中を任せられるけど、その内アイラも苦戦する敵と相対する事もあると思う。だから、彼女にも『金剛外装Ⅱ』までは覚えてもらいたいところだな。

 

「というわけで、明日皆で『ハートダンジョン』にいかない?」

「喜んでお供しますわ!」

「ご主人様のお望みのままに」

「では、明日の為に、お弁当を作っておきましょう。アイラさん、手伝ってください」

「お任せを」

「ねえねえショウタ君。ついでに、第二層にも行ってみない?」

「第二層と言うと……。海岸とビーチがある観光スポットだよね? 水着、持ってないんだけど」

「大丈夫よ。あそこは装備だけじゃなくて、水着の貸し出しもやってるから」

「そうなのか。何でもやってるんだな、あそこは……」

「にしし。それに、マキの水着姿もみたいでしょ?」

「ね、姉さんっ」

「それはまあ……」


 全員の水着姿を思い浮かべる……。

 うん、アキとマキの水着姿というだけでも顔がにやけそうになるが、なんとか抑える。アヤネはまぁ、子供水着しか浮かばないけど、アイラはなぜかメイド姿のままだな。

 メイド服以外のアイラが想像できない。彼女は今日のお出かけですらメイド服だったからな……。



◇◇◇◇◇◇◇◇



 その後雑談をしながら夕食を食べ、届いた家具をそれぞれの部屋に運び込む事にした。

 届いた荷物をいったんすべてアイラのアイテム袋に入れることで、荷運びの工程が丸々すっ飛ばせたのは本当に楽だった。彼女達の家具の設置を手伝い、最後に『アーマースタンド』を設置するために自室の扉を開く。すると、見慣れない輝きが目に入った。


「うおっ」


 何事かと目を向けると、プランターが光を放っていた。そこにはミニサイズの低木がいくつも生え、それぞれが実をなしていたのだ。


「あれって、昨晩植えていた『黄金の種』ですよね?」

「え、いくらなんでもはやくない!?」

「今朝起きたときは何も変化が無かったのに……。24時間で成長を終えるのか?」

「眩しいですわー」


 近付いて見てみると、どうやら輝きは実が放っているようで、そこに手を伸ばせば、自然と手のひらにが落ちてきた。


 それは、見覚えのあるアイテムだった。


『腕力上昇+3』


 まさかの、成長アイテムだった。

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