ガチャ075回目:アイラと仲良くなった

「ではショウタさん、今日も変わらず第二層ですか?」

「うん、その予定。とりあえずウルフから見て行くつもりだけど、問題は他のチームと狩場が重なった時なんだよな……」

「あ、そこは安心していいよショウタ君。その為の飛び級ランクでもあるんだから」

「え? どういう事?」


 2人が言うには、高ランクの冒険者にはいくつか特典があるらしい。

 その内の1つが、下位の冒険者は高位の冒険者に対して、狩りの邪魔をしてはならないというものだ。Cランクすらほとんどいないこの『初心者ダンジョン』であれば、俺のAランクは誰にでもこの権利を振るえるらしい。


 なんだかふわっとした内容に感じるが、簡単に言えば自分より上のランクの冒険者が狩りをしていたら、極力近寄らないようにしましょうね。というものだそうだ。

 狩場についた瞬間「Aランク様のお通りだ! どけどけー!」とか、そういう類のものではないらしい。そこは安心だな。


 ただ、一部の冒険者はそこを履き違えて行動しがちらしい。


「Dランクまでは納品したポイントだけでしか判断されないから、そいつが危険な奴かわかんないのよね~。Cからは所属する支部長や副支部長との面談や素行調査が行われるから、そこである程度弾けるんだけど」

「ふぅん」

「その点、ショウタ君なら安心できるわ」

「つまりこの国では、ランクが高いほど、腕前も人格も、どちらも信頼できる人って意味なんですよ」


 2人に挟まれながら褒められると、嬉しいけど口角が緩む。


 けど、他人が遠慮して近付かないでくれるのなら、色々とやりようはあるな。まずはチームのいない丘陵地帯でレアモンスターを沸かせて、出現地点を確認するのを優先するか。あとは、人がいる丘陵地帯でも、その出現地点を中心に狩りをしていれば、誰も近寄ってきたりはしないだろう。


 他にも特典はあるみたいだけど、俺にはあんまり関係なさそうな内容っぽかったので流してもらった。


「それじゃ、行ってくるよ。アヤネが渡してくれたこれ、冷蔵庫にしまっててくれる?」

「わかりました。あ、ショウタさん。今日から見送り再開しますね」

「だから、途中まで一緒に行きましょ」

「ああ、そっか。正式に付き合ってる事になったもんね」


 2人に挟まれながらダンジョン入り口まで一緒に行動し、俺とアイラはダンジョンへと潜り込んだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇



「ご主人様」


 第二層に到着し、周囲に人がいなくなったタイミングでアイラが話しかけてきた。


「どうした?」

「一つ、お伝えしなければならない事があります。移動しながらで構いません」

「なに?」


 少し速度を落として、アイラと横並びに走る。


「これからお嬢様が戻るまでの間、ご主人様のお供をする事になる訳ですが……。それまでの間に起きた出来事は、報告は不要と命令を受けております」

「それは、アヤネのお母さんから?」

「はい。私とあの方との間に交わした秘密に気付いた、ご褒美との事でした」

「まあ、『直感』が働かなきゃ、普通気付かない事だろうしね」

「その並外れた『運』を持つご主人様には、あの方も期待されていると思います」

「そうか……」


 『直感』は『運』が必要と、ハッキリと理解しているんだな。その人も、アイラも。

 となれば……気になっていたことがあるし、聞いてみようか。


「アイラ、この会話も報告に行かないんだよな?」

「はい」

「そうか。俺の『運』は1000ある」

「!? ま、まことですか」


 いつも真顔なアイラも、これには驚きを隠せないか。


「こんなに『運』がある人間は、アイラは他に見たことがあるか?」

「……いえ、存じ上げません。ですが、『SP』の初期値が10ある者が最初から『運』に全振りし、『SP』が減少してもなお振り続けた者が、600を超えたという風の噂を耳にしたことがありますが……」


 ん? 今、減るって言った??


「アイラ、『SP』って、減るの?」

「はい。『運』に連続で『SP』を消費した際、レベルアップボーナスと『SP』が、目に見えて減少していくそうです。最終的にレベルアップボーナスオール1、『SP』2になるそうです。ご主人様と同じですね」

「へぇ……。まあ、心折れてるようじゃ、生きていけないけどね」

「ご主人様ほどへこたれない精神の持ち主は珍しいですよ」


 まあ、最初からそうだった場合と、天辺から落ちてきた場合とでは、感じ方も違うか。


「ただ、通常のステータスに回せばまた、成長値も『SP』も元に戻りますが、元の数値に戻すには、かなりのレベルを要するそうです」

「ふぅん」


 てことは、強さを維持したまま『運』を上げる事は難しい訳か。本人の火力がないとトドメは満足に刺せない訳だろ。なら、通常モンスターの強さが増す上級ダンジョンなんかじゃ、まともに戦えないんじゃないだろうか。

 ま、成長曲線が戻るだけ救いはあるかもな。


「ご主人様は私のレベルを知って、長い時間を掛けた事に尊敬できると仰ってくださいました。ですが、私はご主人様こそ、尊敬に値する人物だと考えております。誰かの助けもなく、ただ1人で戦ってこられたのですから」

「……ありがと。今日のアイラは、よく喋るね」

「……っ! し、失礼しました」


 アイラはそっぽを向いた。

 アヤネがいないからか、普段とは違うアイラの姿が見られるな。もしかすると、こっちが素の彼女なのかもしれない。

 

「いや、良いよ。俺としてはそっちの方がありがたい」

「んんっ。では、その様に」


 笑いあった俺達は、一度立ち止まり、別の方向へと向かった。


「アイラ、仲良くなった記念だ。軽く『ジェネラルゴブリン』を狩るぞ」

「承知しました、ご主人様」


 マップを開き、現在空いている丘陵地帯を確認する。第二層に到着した時と変わらず、右手前と右奥にのみ、複数の人が表示されていた。その為、俺達は左手前の隅でゴブリンを狩り、『ホブゴブリン』と、続けて『ジェネラルゴブリン』を討伐した。


【レベルアップ】

【レベルが7から18に上昇しました】


【レベルアップ】

【レベルが18から41に上昇しました】


 『ジェネラルゴブリン』が所持していた『怪力Ⅱ』をアイラにプレゼントしたところ、アイラの『怪力』は『怪力Ⅱ』となり、数字無しからの上書きを確認した。

 『怪力Ⅱ(1/3)』などにならず、ちょっと勿体なかったが、知れたのは大きい。


「それにしても、『運』の開拓者は俺だけだと思ってたけど、意外と試してる人も多いんだな」

「そうですね。これは秘密事ですが、協会長から共有の許可が降りていますのでお話します。実は協会は、『SP』の値が8以上のレベル1冒険者と、『運』だけを上昇させるという契約を何度も結んできました。しかし、先ほどお伝えした事象もあり、誰もが成長速度が落ちて行く事に前線についていけず、絶望して引退したそうです。その結果、並行していたプロジェクトはすべて失敗。人道的ではないとの理由もあり、計画は頓挫したそうです」


 何人もの未来ある冒険者が、『運』を上げる苦行に耐えきれず、引退していったのか……。『SP』やレベルアップの成長曲線が高いほど、上級冒険者になれる可能性はいくらでも秘めていた。そんな人たちを無駄に消耗してしまったのだとしたら、計画が打ち切りになっても仕方がないな。

 『レベルガチャ』を除けば、レベルも『SP』も、1度上げたら元に戻せないのだから。

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今日も2話ですが、4章に突入し話数も増えてきたので、そろそろ新規さんが追いつくのも尻込みしちゃいそうなので、明日から1話ずつにします。また何か記念ごとが起きれば複数話になると思います。(1/2)

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