ガチャ032回目:返却、そして再提出

「やった!!」

「やりましたね、ショウタさん!」

「これで皆一緒よ!」


 マキが俺の専属になる事を認められ、3人で大はしゃぎしていると、支部長が咳払いをした。


「それから、これはお返しします」


 そう言って支部長は、『迅速』のスキルをこちらへ手渡そうとしてきた。


「え? でもこれはオークションに」

「あれは持ってこさせるための建前です。確かに出品されれば我が協会の評価は上がるでしょうが、所属する冒険者が成長しなければ、なんの意味もありません。まずはこのスキルを使用し、あなた自身が強くなることで、スキルオーブを安全に確保するための下地を作るべきです。オークションに出すのは、二の次で構わないのです。本来であれば、前回の『怪力』も褒められたものではありませんでしたよ? お金が入用と言う訳でもなく、自身で使うわけでも無い。ただ受付嬢に貢ぐためにオークションに出すなどと」

「いやあれは、貢ぐとかじゃなくて」

「日ごろのお礼だとしてもです。もしやあなたは、私の娘たちがいきなり大金を手渡されて、無条件に喜ぶような人間であるとお思いですか??」

「め、滅相もございません」


 マキにお説教された時以上の圧力が、支部長から放たれた。この恐怖はレアモンスターの比じゃない。怖すぎる!

 ……確かに思えば、お礼とはいえあのチョイスは駄目だった気がする。


「……2人ともごめんね、思いつかなかったとはいえ、あんな渡し方をしちゃって」

「びっくりしたんですからね、反省してください」

「そうよそうよ。どうせならデートのお誘いが良かったわ」

「避けられてた姉さんがそれを言うの?」

「むうぅ!」

「こらこら、喧嘩しない」


 2人を宥めたいが、両腕を掴まれていて満足に動かせなかった。


「でも、それはそれとして貯金を使わせちゃったのは事実だから、ちゃんと返させてね」

「はいっ」

「いいわよ」

「というわけなんで、支部長。それは当初の予定通り、オークションに出してしまって大丈夫ですから」

「なんですって? 先ほどの話は聞いていましたか? あなた自身が強くなってからじゃないと」

「その心配は不要です。……よしっと。支部長、『鑑定』してもらって大丈夫ですよ」

「一体何を……!? 『怪力Ⅱ』に『迅速Ⅱ』!? これは一体……」


 支部長が驚く様子を見て、ちょっとした満足感とやってやった感を覚えた。

 それと、多少の疑問を。


「アキさん、まだ伝えてなかったんですか?」

「そりゃ伝えてないわよ。あたしの名義で出すつもりだったもん。一応報告書は作ったから、あとは本部に回すだけだったんだけど、支部長にはマキの心配いらないって文句言いたくて、つい後回しに……」

「それなら仕方ないですね」

「でしょー!」

「……アキ。その報告書、こっちに見せなさい」

「ハーイ」


 アキさんはアプリにデータを入れていたらしく、支部長のアカウントに送信して素直に渡した。協会のアプリ、ほんと便利だよな。そう思っていると、アキさんは『褒めて褒めて』と言わんばかりにこちらを見上げている。しょうがないので頭を撫でてあげる事にした。


「でへへ」

「いいなぁ……。あ、ショウタさん、今のはその……えへへ」


 マキの頭も撫でていると、支部長は報告書を読み終えたようだ。


「アマチさん。『怪力Ⅱ』の効果はあなたが検証を?」

「はい、そうです」

「後日、可能なら『迅速Ⅱ』の検証もお願いします。今日からアキとマキ、この2人があなたの専属です。ですからこの報告書は、2人の連名で提出しておきます。勿論、私も認可しますので、話は通りやすくなるでしょう」

「マキと一緒ならおっけー!」

 

 おお、2人が同列に扱われるのはなんだか嬉しい。


「アマチさん、1つだけお伝えすることがあります。これほどのレアモンスターを連続で狩り、更にはスキルオーブを入手する能力について、私からは言及しません。あなたの管轄は私ではなく、アキとマキにあるのですから。ですが、短期間に複数入手する力はきっと注目を浴びる事でしょう。オークションにスキルを出すと同時に、この報告書を提出するという事は、その危険性を招きます。覚悟は宜しいですか?」

「2人を専属に貰うんですから、それくらい出来ないと。ですよね?」


 冗談っぽく言ってみる。


「フフ、言いますね。ですが、支部長としての専属を認めましたが、母親としてはその関係を認めていませんからね」

「ちょっとお母さん、うちは自由恋愛でしょー!」

「そうですそうです!」


 アキさんは横暴だとブーイングをし、マキもそれに乗っかる様に怒ってみせた。

 この反応……。やっぱり、2人ともで言ってるんだよな? 勘違いじゃないよな? やべ、自分から言い出したことだけど、顔が熱くなってきた。


 それを見ていた支部長は、堅苦しい雰囲気を捨てて母親の顔に戻る。


「確かに昔、似たようなことを言ったわ。けど2人同時となるなら別問題よ! ……そこは、アマチさんの甲斐性次第ね。2人でその人をいい男に磨いてごらんなさい」

「言われるまでもないわ!」

「もっと素敵にします!」


 娘2人の言葉を受けて、支部長は背中を向けた。


「話は終わりよ。イチャつくなら外でしなさい」


 色々と思うところはあるけど、そんな支部長に一礼をし、俺達は部屋を後にした。

 ……そう言えば、ここまで案内してくれたお姉さんはどこに行ったんだろう?



◇◇◇◇◇◇◇◇



「ハナ」

「はい、ミキさん」


 ショウタを部屋に案内した受付嬢、ハナが部屋の陰から現れた。彼女は邪魔にならないよう隠れていたようだった。当然、今の場面を目撃していたため、その顔には満面の笑みを浮かべている。


「アマチさんの討伐情報に嘘は無かった?」

「はい、第二層の戦いの場となった林地帯では、逃げ回っていた痕跡が発見されましたが、調査の結果しっかりその場で討伐出来ていたようです。それと本日は、その林には近付かなかったと、調査員から報告を受けています。補足ですが、ダンジョンの修復システムが働いていたため、明日には林は元通りになっているかと」

「そう、ご苦労様。勘が鋭いのは良い事だわ、不慮の事故に巻き込まれる可能性が低いという事だから。では、彼の評価は正当な物で間違いはないのね?」

「はい。ダンジョン内での活動、及び普段の素行調査。ともに問題ないそうです」

「わかったわ。これ以上の事はあの子達に任せます。彼に対する人員も撤退させて。アキもいるから、マキの心配も不要でしょう。それじゃ、今日の予定を聞こうかしら」


 その瞬間、彼女の顔つきが母親から支部長へと切り替わる。


「この後は3人の冒険者に対する、専属面談が控えています。その内2人は冒険者からの希望で、残り1人は受付嬢からの希望です。また、冒険者からの希望者に1人、マキさんの指名がありますが……」

「一応面談はしてあげるわ。素行と能力に問題なければ、皆にアンケートをして、希望に沿う娘がいるか聞いてみるから」

「……お疲れ様です。普通、ここまで面倒見てくれる支部長なんて珍しいですよ」

「そうかもしれないわね。でも、ここの協会に所属する以上、従業員は皆私の娘のようなもの。変な冒険者を付けて、傷物にされたくないわ」


 そんな支部長を、ハナは心からの敬愛を込めた目で見つめていた。

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今日も3話ですが、明日から2話に戻す予定(2/3)

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