ガチャ031回目:2人目の専属
地上へと戻り協会の扉をくぐると、いつものようにマキは待っていなかった。アキの姿も。その代わりに、賑やかな雰囲気が出迎えてくれた。
協会内部は狩りを終えた冒険者達で溢れかえっていて、専属を持っていない一般冒険者達が、査定のカウンター前で列をなしていた。ちらりと様子を伺うが、査定のカウンターにはマキも、アキさんも姿も無い。
休憩中かな?
そう思って専属専用のカウンターの方へと足を向ける。普段はマキのおかげで利用する機会は無かったが、ここは専属の受付嬢を呼ぶための専用窓口で、査定のカウンターから少し離れた位置にあった。
「すいませーん」
「はい、いかがされ……あ。あなたはショウタさんですね。おかえりなさい、今日も無事の帰還、心よりお祝い申し上げます。ですが、あの子達の予想よりも早いお戻りでしたね」
「はは、彼女達を心配させたくなくて。それで、2人はどこに?」
「まあ、仲良しなのね。あの2人でしたら、今は支部長室にいるはずですよ」
そこまで言って、カウンターのお姉さんに手招きされ、耳打ちされる。
「さっき直接聞いたのですが、ショウタさんの事で物申すと息巻いていまして。主にアキちゃんが」
「あー……あの件か。察しがつきました。俺も参加したいので、行っても良いですか?」
「はい、ご案内します。ショウタさん、マキちゃんのこと、よろしくお願いしますね」
「任せてください」
マキは愛嬌もあれば、仕事もするし努力家でもある。
そりゃ、他の受付嬢からも愛されてるよな。
◇◇◇◇◇◇◇◇
これが本当のお姉さんタイプ。と言える受付嬢のハナさんに案内され、支部長室へと辿り着く。
協会の部屋はどこも防音対策が施されてるはずだが、アキさんと思われる荒れた声が漏れ聞こえている。ハナさんは俺と顔を見合わせ、頷いてからノックした。
「お話し中申し訳ありません。支部長にお客様がお見えでしたので、お通ししました」
扉を開けるも、支部長と姉妹は向き合っており、誰もがこちらを見ず睨みあいを続けていた。
「そう、ご苦労様。あなた達、話は終わりよ。業務に戻りなさい」
「ちょっと、まだ話は!」
支部長はそう言うと、2人を追い払うように手を振った。けど、アキさんは納得できていないようで噛みついている。ここは早めに出る必要があるな。
「アキさん、落ち着いて」
「……あれ、ショウタ君?」
「ショウタさん、おかえりなさい!」
マキは駆け寄ってきて、熱心に俺の身体を見回した。
「大丈夫、怪我はないよ」
そう言うと安心したように微笑んだ。
さて、アキさんと何を言い争っていたのかは憶測でしかわからないけど、まずは俺の用件を片付けてしまおう。
「アキさん、ここは俺に任せてもらえますか」
「……わかったわ」
「アマチ君だったわね。私に何の用かしら。こう見えて私は忙しいのよ、大した用事じゃないなら2人を連れて」
「何言ってるんですか支部長、俺と交わした昨日の約束、もう忘れました?」
「え、何を言って……まさか」
驚く支部長の目の前に、『迅速』のスキルオーブを置く。
「約束の物です」
振り向くと、マキと目が合った。頷いて見せると、喜んでくれているのが分かった。
隣ではアキさんが親指を立てている。
「では約束通り、マキを貰いますね。彼女は絶対に幸せにするので、心配しなくても大丈夫ですよ」
「ショ、ショウタさん……!?」
「ちょ、ちょちょちょ、あたしは!?」
「え?」
「なによ、その意外そうな顔は!!」
「……アキさんも一緒がいいですか?」
「当然でしょ! 置いて行ったら泣くわよ!」
「じゃあ、仕方ないですね」
そこまで言うと、アキさんが腕にしがみ付いてくる。その顔は耳まで真っ赤で、必死さが伺えた。
「ああーっ! ずるいです姉さん!」
反対の腕はマキによって占領される。こちらも真っ赤だが、それでもマキはとても幸せそうに微笑んでいた。こんな顔をされては、振り解けないな。
「じゃ、そういうことなんで」
「……待ちなさい」
そそくさと出ようとしたが、待ったをかけられる。……ダメか。
この甘ったるい空気の中、誤魔化して出て行けるかと思ったけど、支部長は甘くはなかったようだった。
支部長は手を顔の前で組み、考え込む様子でこちらを見ていた。その姿は、俺に何かを確認するようだった。
「アマチさん。私がマキに監視を付けていたのは聞いていますね」
「はい」
「彼女は1度、仕事を続けることが難しいほど壊れてしまった時がありました。私や仲間、アキの介抱により回復し立ち上がりましたが、再発する危険は常に孕んでいました。その為、その子の様子は逐一確認し、弱い冒険者に絆され同じ目に遭わぬよう、徹底的に防壁を置きました」
「……」
「そんな中、最弱と言って良いあなたが、マキの専属代理人に付き、あろうことかマキの専属を名乗り出ました。そしてマキも、満更どころか、この惚気っぷり。頭が痛くて仕方がありませんでした」
確かに、母親としても支部長としても、俺は娘を奈落に引きずり込もうとする悪魔にでも見えたのかもしれない。せっかく立ち直った彼女を壊しかねない俺を、真っ先に突き放しに来たんだろうな。
「初めてお会いした時、妨害されましたが、あなたのステータスを一部見させていただきました。『怪力』のスキルを得るほどの力があるのかと期待したのですが、『運』は飛びぬけて高いものの、視えた他のステータスは本当に壊滅的でした。なぜその程度で勝てたのか不思議に思うほど」
『ホブゴブリン』を討伐した直後か。あの時は、ガチャの恩恵でようやく、ガチャ前よりちょっと強くなった程度だったと思う。……まあ、『身体強化』が無ければまず勝てなかったな。
「今回は『運』よくたまたま勝てたとしても、再び同等のスキルを手に入れる事はありえないだろうと判断しました。レアモンスター討伐は、『運』だけでは決して達成できない事なのですから。だというのに、あなたは……」
そう言って、支部長は指でスキルオーブを転がした。
「報告は聞いています。第二層の、当ダンジョンでは未確認とされていた、レアモンスターである『マーダーラビット』を討伐したと。『マーダーラビット』は他の協会で討伐され、実際に『迅速』のドロップが確認できています。あなたは昨日これを打ち倒し、再び今日、撃破の上でスキルオーブを得たのですね」
「そうです」
「……わかりました。どうやら私の見る目が無かったようですね。約束通り、私はあなたの実力を認め、正式にマキを専属に付ける事を許可します」
「「「!!」」」
よし!!
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今日も3話ですが、明日から2話に戻す予定(1/3)
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