ガチャ016回目:我慢できなかった

「あー、しんどい。こんなにひりつく戦いは初めてだった……。糖分、糖分が欲しい……」


 疲れ切った俺は、瞼を閉じて寝転がっていた。

 身体が悲鳴を上げているが、それは痛みからじゃない。疲労だった。


 今回の戦いで、俺は林の中を幾度となく駆け巡ったが、高い『頑丈』のおかげか切り傷らしきものは一切負わなかった。その上『マーダーラビット』から、直接被弾することもなかった。

 これもまた『運』が良かったのか、立ち回りが功を奏しただけなのか……。判断がつかないな。


「あー、なんならもう、角砂糖丸かじりでも構わん……」


 あまりの疲労に変な方向に思考が流れていきそうだ。でもここはダンジョン。今は林の中にモンスターがいないとはいえ、それはレアモンスターを恐れての事なんだろう。

 いつまでもこうしてはいられない。


 モンスター達は、元となった煙を見ただけでも逃げ回っていた。だとするならば、この林にモンスターの影が無かったのも、あいつが現れたからだろう。元凶となっていたであろうレアモンスターが死んだことで、しばらくしない内に、またこの林はモンスターの楽園になるはずだ。


 どうやらこの『自動マッピング』のスキルは、この階層では本当にしか書き込まれないらしい。

 その為、視界の悪いこの林の場合だと、狭い範囲でしかマッピングは有効に働かないようだった。だが幸い、今回の鬼ごっこで林の中をいつの間にかぐるりと一周していた。


 だからモンスターが戻って来たとしても、すぐに感知する事が出来るだろう。

 それにしても煙ですら逃げ惑うなんてな。俺達人間には感知できない方法で、モンスターはアレを恐れているんだろうか。


「ん? 煙?」


 何かを忘れているような気がして、俺はゆっくりと起き上がった。

 するとそこには、デカ兎から溢れ出た煙が残存しており……。


「……うげっ!!」


 とんでもない爆弾があったことを思い出し、勢いよく起き上がった。

 しかし、起き上がると同時に煙はすぐに霧散した。どうやら、デカ兎は全ての煙を放ち切ったようだった。


「……あー、良かった。疲れすぎてガチ忘れしてた。そうだよ、次が出るかもしれないんだった。何暢気に寝ころんでんだっての……。それにしても随分考え込んでたはずだけど、長い間煙を出してたんだな。それだけ体格がデカかったってことか?」


 あいつ、巨大猪みたいな体格してたもんなぁ。けど、『ホブゴブリン』もデカさで言えば同じくらいかもしれないよな。違いとしては、レベルが10高かったくらいか。……レベルの分だけ消えるのにも時間がかかるのかもな。

 これも検証が必要だな。今度からタイマーを持ってこようかな。


「とにかく、まずはドロップ品だ。鑑定しつつ、と」


 1:『マーダーラビットの捻じれた角』x2

 2:『マーダーラビットの毛皮』

 3:『中魔石』

 4:『スキル:迅速』


「『迅速』か。これがあれば、再戦する時も楽になるかもな。……あ、一応『ダンジョン通信網アプリ』に載っていないかチェックしよう。えーっと、『迅速』『迅速』……お、あった」


『スキルを使用すると、未使用時と比べ3倍の速度で動けるようになる。また、助走をつける事により更に加速が可能だが、相応の『頑丈』が無ければ使用者の身が持たない。末端価格、6000万~』


 値段が見えたところでまたアプリを切った。明らかに『怪力』よりも高かった。

 これを提出すれば、支部長もマキさんとの専属を認めてくれるだろう。けど、このスキルを無しにアイツと再戦するのは、かなりしんどい。たとえ装備を鋼鉄にしたとしてもだ。

 ガチャを使えるから、再戦時は多少楽になってるだろうけど、あの早さに対応するには、スキル無しだと同じ戦法を取る羽目になりそうなんだよな……。


「……考えても答えは出ないな。とりあえず、ガチャを回すか」


 スキルの使用は棚に上げて、『SP』を全て『運』に回し、「10回ガチャ」を2回押す。


『ジャララララ』


 出てきたのは紫が1。そして青が14に赤が5だった。


『R 腕力上昇+3』

『R 腕力上昇+5』x2

『R 器用上昇+3』

『R 器用上昇+5』

『R 頑丈上昇+3』x2

『R 俊敏上昇+3』

『R 俊敏上昇+5』

『R 魔力上昇+3』x3

『R 知力上昇+3』x2

『SR 腕力上昇+15』

『SR 魔力上昇+12』

『SR 知力上昇+12』

『SR スキル:鑑定妨害Lv1』

『SR スキル:身体強化Lv1』

『SSR スキル:水魔法Lv1』


*****

名前:天地 翔太

年齢:21

レベル:5

腕力:91(+83)

器用:64(+56)

頑丈:69(+61)

俊敏:75(+67)

魔力:67(+61)

知力:72(+66)

運:188


スキル:レベルガチャ、鑑定Lv2、鑑定妨害Lv3、自動マッピング、身体強化Lv3、予知、投擲Lv1、炎魔法Lv1、水魔法Lv1

*****


『ボックスの残り10/100』


「今度は水魔法か。気になるけど、さすがに疲れたな。帰り……たい、が。あと少しでガチャが引き切れるんだよな……。レベルも、今5だし……」


 正直言って、頭は糖分を要求している。けど、心はこの先が見たいと叫んでいる。

 幸い、ステータスは先ほどまでと比べて更に高くなった。腕力なんて90だぞ。一般的な成長速度を持った奴らの、レベル20~30くらいのステータスにはなったはずだ。

 まあ、これだけガチャを回しても、あのストーカー連中にちょっと勝ったかなくらいのステータスしかないのは泣けるが……。それでもスキルの分、他の冒険者よりは有利なはずだ。それは間違いない。


「……なら、もっと高みに行くためにもガチャを回しきっておくか。10個分だけ残ってるっていうのも、なんだか気持ち悪いしな」


 結局俺は、帰るという選択肢を放り捨て、レベルを上げる事にした。いつもの剣は使い物にならなくなってしまったが、幸い手元には、ゴブリンドロップの『鉄のナイフ』がある。少々面倒だが、やってやれないことはないだろう。

 ナイフを馴染ませるために素振りをしていたが、不思議な事に、この林にはいつまで経ってもモンスターは帰ってこなかった。その為、川や平原にいるゴブリンやキラーラビットを重点的に狩る事にした。

 当然、100匹連続にならないよう適度に変えつつだ。

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小説家になろうにて、ローファンタジー週間ランキング1位を達成したので、今日も3話投稿です。(1本目)

続けて、明日は4話投稿します。

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