ガチャ004回目:紹介状を持って
翌日、アキさんから送られてきたメールには、オススメのダンジョン情報が添付されていた。
その情報通りに道を行けば、見知ったダンジョン協会第525支部へと到着した。
ダンジョンナンバー777は山の麓にある洞窟がダンジョンへと変化したものだが、ここは繁華街の道に、突如として地下への入り口が現れ、そこがダンジョンだったというものだ。
その為、人口密度の観点から出現当初は多少のパニックが起きた物の、その騒ぎはすぐさま終息した。それは出現するモンスターのレベルは低く、階層も全部で10層もないくらいに浅く、攻略も容易と判断されたからだ。
今では初心者にとっては戦いやすいダンジョンの1つとして、人気を博している。
家から近所ではあるが、今までここのダンジョンには一度しか入った事は無かった。ここの協会に付属しているショップにだけは、装備を整えるために何度か来たことはあったけど。
777支部には、アイテムとかの販売所が併設されていないからな……。
「それにしても紹介状を発行してもらえるなんて。アキさんには頭が上がらないな」
冒険者の情報は、本人が許可した項目であれば支部から本部へ情報が伝達されていて、どの支部でもその情報を閲覧することが出来る。俺も顔と名前、それからレベルなどは公開していたんだけど、今ではレベルが下がってるんだよな……。
レベルが下がるなんてことは普通あり得ないから、今後の事を考えて、レベルも非公開にしてもらおうかな。アキさんなら深く聞かずにやってくれそうだし。
紹介状は、その情報に付随する形として、受付嬢がイチオシする冒険者に授ける称号のようなものだ。これがある冒険者は、他のダンジョンに移動する際でも、ある程度優遇措置を受けられるらしい。
「ただの一介の冒険者である俺に、こんなに親切にしてくれるなんて。今度何かお礼をしなきゃな」
そんな事を考えつつ支部の中へと入ると、早速受付嬢の1人から声を掛けられた。
「こんにちは、あなたがショウタさんですか?」
「あ、はい。777支部から来ました。天地翔太です」
ざわっ。
777支部という言葉を聞いた周りの人達から、好奇の視線と共に、ヒソヒソ声が聞こえてくる。
「おい、あいつ777支部って言ったか?」
「それってまさか、あのスライムハンターか」
「あの冴えない顔、見たことあるぜ」
「万年スライムしか倒せない落ちこぼれって聞くな」
「そんな奴が他のモンスターを倒せるのかよ」
周囲からは嘲笑だったり、胡乱な目を向けられる。
これはまあ、他の支部に寄れば十中八九受ける洗礼だ。
公開された情報であれば誰でも見れるし、その中には顔写真もあるので顔を知られていてもおかしくはない。それに、最初はよくわからずにステータスや成長率の弱さをそのまま載せちゃったからな……。アキさんに言われてすぐ非公開にしたけど、その時にはもう情報は出回っていて、今では俺の弱さは周知の事実だ。
その時の情報から計算したら、例えレベルが30を超えたとしても、一般的なレベル10の人間よりも弱い事はバレている。それに好き好んでスライムを狩り続けている狂人と言われ、後ろ指を指されているのも知っている。
だから、こうなることは目に見えていた。
「……ショウタさん。ここではなんですから、奥の個室へ」
「恐れ入ります。あの、お名前を聞いても」
「申し遅れました。アキの妹の、マキと申します。気軽にマキとお呼びください」
アキさんと違って、短く切り揃えられたショートボブの女性、マキさん。あんな姉からこんな丁寧な妹さんが育つなんて。……反面教師にしたのかな?
◇◇◇◇◇◇◇◇
マキさんはどうやら、姉のアキさん経由で俺の事を何度も耳にしていたらしく、先ほどの件についてお詫びをしてきた後、丁寧にダンジョンの情報をいくつかピックアップしてくれた。世話焼きな所はアキさんそっくりなんだな。
まず貰ったのは1~3階層の地図。それから各階層で判明しているモンスターの分布図情報だった。あとは他の冒険者と戦闘で鉢合わせた時のルールであったりを教授してもらう。
その後、マキさんとも打ち解け、軽く雑談をしたのちにショップにも立ち寄り、地道に『極小魔石』で稼いだお金を使って、装備を整えた。
現在の装備としてはこんな感じだ。
『武器・鉄の長剣』5万円。
『防具・鉄の軽鎧』4万円。
『防具・鉄のグローブ』3万円。
『防具・鉄のグリーブ』3万円。
整えたと言っても、1年もの間使い続けて古くなっていた装備を新品に取り換えただけだ。
どれもが鉄製のありふれた物だけど、下級ダンジョンの入り口で狩りをするならこれで十分だと思う。
念のため、回復用のポーションを3つほど購入しておく。これから戦う相手が自分より弱いとしても、用心するに越したことはないからな。
ショップから出た俺を見つけて、再び嘲笑の声が届く。
「おい見たかよアイツ、レベル30にもなって全身鉄装備だぜ」
「スライムハンター様の稼ぎじゃ、あれが精一杯なんじゃねえの」
「おいおい笑ってやるなよ。スライムのドロップなんて『極小魔石』しかないらしいぞ。それなら1日1000円くらいしか稼げないだろ」
「ははっ、確かにな!」
確かに俺の稼ぎは、1日1000円程度だった。
でもそれは本当に最初の頃の話で、検証の為に上げた『運』がドロップ率にも影響することを実感してからは、稼ぎは2倍、3倍へと膨れ上がって行き、今では数十倍にまで至った。
実家に仕送りはしていても、貯金はまだまだ余裕はある。けど、身の丈に合わない装備は身を滅ぼすとも言う。変な連中に目を付けられても困るし、俺にはまだ、この鉄シリーズがお似合いだろう。
送られてくる侮蔑の声も視線もすべて無視して、俺はダンジョンへと突入した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「やっぱり人気ダンジョンってこともあって、中は混んでるんだな」
どこを見渡しても人、人、人。
もらった地図を見て予想していたが、このダンジョンの1階はアリの巣状に広がっていて、迷路のように入り組んだ洞窟型ダンジョンとなっているらしい。丁寧にも、2階へと続く階段は入り口から真っ直ぐ直線に進んだ先にあるようで、人の流れもその通りに進んでいた。
なのでここは、人が少なそうなマップの端を目指してみる。
そう思って歩くこと数分。
人の姿や声がなくなり、誰の気配も感じなくなったところで、目の前にモンスターが現れた。
「あ、ゴブリンだ」
『ギギギッ』
3年ぶりに見るゴブリンは、過去に対峙した時と姿は変わりはなく、緑色の肌をした小人のような体躯で、手にはナイフ、服は腰みの。人間に対して敵意を剥き出しにしたかのような醜悪な顔。
ファンタジー作品のテンプレートといった、まさにゴブリンという存在だった。このゴブリンからは、過去に感じた恐怖は微塵も感じる事はなく、こんなにもひ弱な存在だったのかと自分の感覚を疑った。
「『鑑定』」
とりあえず、昨日新たに入手したスキルを使って情報を覗いてみる事にした。
*****
名前:ゴブリン
レベル:3
装備:鉄のナイフ
*****
「……それだけ? スキルレベルの問題かな」
スライムはスライムだし、見るまでもないと思っていたが……。レベル1ということもあって、視れる情報は本当に少ないんだな。
『ギギィッ!』
暢気に感想を呟いたところで、しびれを切らしたゴブリンが襲い掛かってきた。
けど、その動きはあまりに単調で、狙いは一直線。簡単に避ける事が出来た。そのままカウンター気味に剣を振るった。
ズバッ。
スライムを相手している時の様な軽い気持ちで、ゴブリンの首を斬る。
ゴブリンは即死したようで、身体全体が緑色の霧に包まれ、消え去った。
あとには『極小魔石』と『鉄のナイフ』が落ちていた。
「弱っ。あのとき苦労したのは何だったんだ……」
これなら、問題なく戦えそうだ。
そう思ったとき、ふと思いついたことがあった。
「ここでも100匹倒したら、何か出るんだろうか」
そうして俺は、手当たり次第にゴブリンを探し、狩り始めた。
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