第51話 活版印刷と新聞、かわら版

 今日は珍しい商業ギルドの会合。

比較的暇なメンバーが集まって経済協議する場。

もちろん、エリオス君も商業ギルドのメンバーなので参加する。




「エリオス君、ようこそ会合へ」

「ニールさんお呼び頂き誠にありがとうございます」

「ざっくばらんに、商売の会話を楽しもうや、若い連中」



 商業ギルド長の息子のニールさん。

ある意味今日のホストの方。

そして商業ギルドのメンバーと会合する。

議題は恐らく重商主義政策。

儲けどころをどうするかという話題になるであろう。



「今日の議題の貿易。

 国家の資産を輸出を最大にし、輸入を最小にする。

 金銀の流出を留めるのだ」

「関税を高める事で輸入品の入り込みを防ぎ、

 我が国の貨幣の流出を防ぐのだ」


 当時は金銀が価値を持ち、商品と交換している。

金銀が流出していけば相当の農業資源国で無い限り食料が買えず

国民が飢えるかもしれない。

金銀を国内に留めておく事が国家の力につながる。

現代でも似たような議論はあるかもしれない。

まあ国家が富国強兵を行う為に大きな軍隊を持つとお金がかかるので

他国の富を奪う、などの考え方に繋がっていくだろう。

ブロック経済や植民地支配、戦争などの引き金にもなる。

その批判からアダム=スミスの自由貿易論などが出てくる訳だが。



「ニールさんはどう思いますか?」

「俺にはまだ難しい事は良く分からないよ」


 

 うーん。そうかな。

しかし商業ギルドでは商売の知識は不可欠である。

封建主義の次は絶対王政の時代になって、

資本主義の時代になる。もうすぐそうなる。

富農と中産階級が増えて資本家になる。

そして産業革命の担い手になるであろう。

おっと、伯爵様との約束を果たさないと。



「情報は金になる。

 情報を統合して配信する為に新聞を作っては如何でしょうか?

 各拠点に配信しつつ、また情報を集める。

 娯楽や文化も含めて配信すれば王都でも商売出来る。

 広告を付けて販売すれば、更にスポンサーから収入出来ます。

 必要な紙、木材、印刷はアナトハイム伯爵領からご提供します」



 エリオス君は大きな声を上げてアピールする。

周りの方々が疑わしい目で見てくる。

そうだろう、まだ新聞という文化はそんなに無い。

情報を売り買いしてお金にする文化が無いのだ。

しかし紙文化が定着さえすれば情報を新聞で売り買いする

人たち相手に印刷物の商売が出来るのである。



「情報は確かに有益だが、それで商売出来るだろうか?」

「広告にお金を出してくれるスポンサーがどのくらいいるか?」

「情報を各地から取り寄せる方法が手紙しかない。

 面白いが記事を書く人が必要」

「まだ紙は高い。貴重品。高コストだろう」


 色々と批判の声があがる。

新聞は1605年にストラスブールでヨハン・カロルスが

世界で初めて「Relation」配信したとされている。

かわら版も大阪の陣から存在しているらしい。

木版印刷なら誰でも作れるから、実際に作ってみようか。

まだ浸透させるには時間が掛かりそうだな。

しかし、かわら版を定期的に配信するのも面白そうだ。



「各地にいる商業ギルドのメンバーに手紙で書いてもらいましょう。

 それを編集し印刷して配布する、というのは如何でしょうか。

 近隣諸国のニュースやゴシップとかも面白そうです」

「娯楽かニュースか・・・。発想は面白いが」

「戦争でもなければな」



 商人の反応が鈍い。

新しい事をしようとするとそうなる。

まあやってみれば直ぐ分かるだろう。

情報を売り買いすることのメリットは果てしない。

そしてその分だけ紙が売れるのである。

木材資源豊富なアナトハイム伯爵領で利益を上げるにはもってこいである。



「折角の面白いネタだから僕たちでやってみないか?

 予算も小さい規模から始めてもいいだろう。

 エリオス君。編集長をやってみたい」

「是非やりましょう」



 お、ニールさんが食いついてきた。

まあ子供でも出来るもんな。

ネタと人手さえあれば。

よし、異世界転生のラノベでも書こうか。

課題は情報集めの人材だろうか。



「まあ子供のやることだから」

「子供の商売か。面白い事を書いたら店においてやろう」

「喫茶店の話のネタになるか・・・?」



 自分から手を上げない商人たち。

何故か?簡単である。手間だけかかって纏まった売上の見通しが無いからである。

しかし、エリオス君は知っている。

最も売れる紙の商売を。

その前段取りとして少ない予算から出来る新聞に着手したいのだ。

後はまともな印刷機さえ作ればと思った。

しかしエリオス君は気が付かなかった。

木版印刷なら簡単だが、あくまでかわら版レベルである。

活版印刷をするには膨大な活字がいるという事を。

それは多額の資本がいるという事を後で思い知らされる。

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