第14話 メイヤーさん家と問屋制家内工業

 エリオス君は都市に留学する前に重要な仕事をこなしていく必要があった。

繊維産業の話である。この村の商売を確実にしなければならない。

その為にはまずはメイヤーさんにきっちり話を通しておく必要がある。

事前にお父様とお母様には現状をお話してご理解頂いた。

で、お父様から話があり、



「やはりメイヤーさんの腕は重要なのか。

 ならばきっちり話を通して置かないとダメだ。

 ほらエリオスも一緒についてこい」

「お父様。実は、僕あの家には行きたくないんですが・・・」



 お父様に引っ張られていくエリオス君。

という事で、メイヤーさん家に向かう事になった。

とんとん、と家のドアを叩く。



「メイヤーさんいますか?」

「こんにちは。ボッシュさん、エリオス君。

 どうぞ中に入って下さい」



 ちょうど家にいたメイヤーさんに家の中に入れてもらう。

今回は重要な話をする必要がある。

メイヤーさんもそれを意識した表情で向かい入れて頂いた。



「布織物の調子はどうですか?メイヤーさん。

 入荷数が少ないので心配しています」

「やはり糸の入荷が少ないです。

 手待ちになってしまって収入が激減しています。

 今年の冬も蓄えが足りていませんので生活が非常に苦しいです。

 ボッシュさんの方でも糸調達の方も宜しくお願いします」



 そうメイヤーさんに懇願されるお父様。

まだ糸材をメイヤーさんに供給していなかったらしい。

エリオス君が機械の開発で設備を専有しているので、まだ糸を内製化出来ていない。

お父様は声を掛けずに僕を見守っていたのであった。

眼の前に夢中で全然気づかなかったエリオス君。

反省。

そしてお父様が提案する。



「今日はご相談があります。

 糸材を商業ギルド経由で調達します。

 それを元にメイヤーさんの腕で布生地と衣類を生産して頂きたいんです」

「糸の調達の目処が付きましたか。

 是非お願いしたいです」


「ただしそれには条件を付けさせて下さい。

 ご提供させて頂く糸材で作った製品は

 私に優先的に買い取りさせて下さい。

 それを村内から商業ギルドを通じて都市部に販売します」

「つまり対価として独占販売権が欲しいという事でしょうか」

「メイヤーさんの布生地は非常に評判が高いです。

 しかも毛織物だけでなく、綿織物や絹織物も作れる腕があります。

 都市部では高級品の需要があります。

 我々商業ギルドの販売網でより付加価値のある価格をご提供出来るはずです」


「・・・確かに安定供給して頂ければ、

 糸の調達や雑務に追われなくなるので効率は物凄く上がります。

 手待ちロスも無くなるので生産に集中できます。

 冬場に生活できる家業も収入も得られるのでありがたいです」

「ではこの値段では如何でしょうか?」

「評判が高いのであればもう少し勉強して頂けませんか?

 この位で・・・」

「じゃあこの位で宜しくお願い致します」



 さっそく二人で価格交渉が始まる。

お互いの長所を補えるのでWIN-WINの関係になれるだろう。

交渉事では流石お父様、流石は商人。



「エリたん来たねー。遊ぼうよ。

 ボッシュさんもこんにちはー」

「こんにちは、チェリーちゃん。

 ボッシュさんも、か。俺は寂しいぞ、エリオス」

「ええお父様。お父様の魅力は大人の魅力です。

 後10年もすれば分かるようになります。

 だから今は諦めて下さい」

「わたしはエリたん一筋なんだから。留学しても諦めないもん」

「ははは、エリオスには負けるな。

 刺されない様に気をつけろよ」



 やってきたチェリーちゃんと会話する。

なんて物騒な事を言うお父様だ。

良い歳してしょんぼりするな。

お母様にチクるぞ。

そこでメイヤーさんが、



「もう一つ条件があります」

「なんでしょうか?」

「うちの娘のチェリーをあなたの息子のエリオス君の嫁にして下さい。

 今のうちに婚約して下さい」



 爆弾発言するメイヤーさんに引くエリオス君。

こらメイヤーさん、なんて事を言うんだろうかと。

こちらはまだ10歳の子供である。



「それは・・・「お断りします。僕もまだ子供なので。

 この村にいつ戻れるかも分かりませんし」



 エリオス君がお父様の言葉を遮って、即座に言葉を挟む。

親が一方的に子供の人生を決めてしまうのは、

現代人の感覚としてかなり抵抗がある。

・・・決して黒そうだからではありません。

それよりこの村に定住する意思があるかないか、などを今言われると。



「まあ、それは冗談だから良いわ」

「本音ですか?」

「あたしはどこまでもエリたんについて行く。忘れないでね」

「王都に移ったら、きっと美しい娘達を選り取り見取りでしょうから。

 うちの娘を泣かせたら承知しないですわよ」

「エリオスは本当に人気者だな。羨ましいぞ」



 そう冗談をいうメイヤーさんとチェリーちゃん。

この母子揃って、本気にしか聞こえないから怖い。

いや多分本気なんだろう。

この家系もかなり侮れない。とても黒い。

そしてお父様、そんな事ばかり言ってますと本当にお母様にチクりますよ、と。



「糸が安定供給出来る様になったら、

 この娘にも教えて家族親戚一同で生産出来る様に頑張ります。

 例え一族をかき集めても生産に貢献させて下さい」


「もし機材が必要になったら言って下さい。

 そちらも商会でご協力出来るように頑張ります」



 機材とな、と気になる発言のエリオス君。

お父様。その一言は僕に自動織機も作らせる気ですね、と。

どこかに豊田佐吉先生はいないのだろうか?と悩む。

やっぱり時代の英雄、発明家というのは代え難い存在であろう。

後で、職人さんを集めて頂く様にお父様に提言しないと。

規模を拡大させるなら、人材と資本が必要である。

まあ賢明な商売人のお父様なら十分承知だと思うが。

一応、メイヤーさんと交渉はまとまった。

後は生産つまり安定供給が課題である。

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