第27話 奴隷商、罰を与える
王国では戦争が行われていた場合、兵士に責任を問われることはない。
もちろん、一将校においても同じだ。
全ての責任は戦争を引き起こした者が負う。
「俺は無実だぁ! 俺は悪くない。全ては後継者の地位を奪おうとしたライルが悪い。加担した侯爵が悪い。奴隷商が憎い!!」
最後はなんか変じゃないか?
まぁ、吠える者は見ていて、気持ちのいいものではないな。
ここはデリンズ領の裁判所……のようなもの。
中央に侯爵が鎮座し、さながら裁判官である。
僕達は日陰になるような場所から、眺めていた。
ライルも堂々とした姿で侯爵の横に座っているのが見えた。
「兄上……いや、アンドル=デリンズ。貴方には我が領への反逆罪を問われているのだ。それを承知してもらいたい」
そう、これは戦争ではないのだ。
ただの私闘。
いや、職権乱用と言ったところか。
自らの有する軍への指揮権を使って、勝手に兵を動かし、領都へ迫ろうとしていた。
もちろん目的も明白。
侯爵の後継者の暗殺と重要建造物の破壊。
さらに正当に後継者指名を受けていないにも拘わらず、自ら後継者であると詐称した罪も追加された。
まぁ、なんにしろ、言い逃れが出来ない状態だ。
アンドルはともかく、最後まで戦った兵士たちは全ての罪を認めていた。
あの兵の動員に正当性はない。
それに加担し、更には説得にも応じず、攻撃を続行した点……
つまりアンドルと同調したと見做された。
彼らに言い渡されたのは……死刑だった。
しかし、幸いと言うべきか、都市には奴隷商が滞在している。
奴隷としての生き方が提示された。
殆どのものが奴隷になることを選んだ。
一方、説得に応じ、戦線を離脱した者には強制労働5年とされた。
さて……
アンドルだが……。
「おい!! 俺様に何かしてみろ!! ガトートス様が黙ってねぇぞ!」
本当に見苦しいな。
領内でのいざこざに王宮が……ましてや王家が関与するわけがないだろうに。
そもそも、そんな権限はないのだ。
「そろそろ帰りましょうよ。なんだか、飽きちゃった」
「そうしたいのは山々なんだけど、奴隷たちを運ばないといけないんだ」
アンドルの裁判の裏では多くの奴隷の配分をどうするかで議論されていた。
500人の……しかも若く、力が強い者たちだ。
しかも、安価で働かせることが出来、多少の無理もきく存在だ。
出来れば、距離の離れた場所でないことを祈ろう。
……結局、アンドルの言い分は虚しく、侯爵は判決を下した。
死刑。
それ以上の刑はないので、仕方がないが、侯爵の怒りは尋常ではないようだ。
「アンドルも奴隷なの?」
「多分ね」
まぁアンドルが死を望むのであれば、奴隷落ちはないが……。
全ての処理が終わり、細やかな宴が行われた。
侯爵領も物理的には被害はなかったが、人的被害は無視できないほどだ。
なにせ、1000人の兵がいなくなってしまったのだから。
すぐに補充は難しいだろう。
「なんにせよ、皆が無事でよかった。儂の采配は確かなものであったろう?」
このおっさんは何もやっていないと思うが……まぁいいか。
僕の懐には白金貨が20枚ほど眠っているのだから。
「ところでイルス卿よ。頼みがあるのだが・・・・・・」
また面倒事かと思ったが、奴隷の運搬を急いで行ってほしいということだった。
どうやら、工場建設で大量の奴隷を各地から集めたせいで、歪みが生じているというのだ。
それを解消するために今回の奴隷たちを使うという。
それって・・・・・・。
「領地中を歩いてもらうことになるな」
ですよね。
なかなか大変な作業をさらっと言うんだよな。
「それともう一つ」
まだ、何か・・・・・・
「アンドルの事だ」
おや? もしかして、やはり実子が奴隷になることに心を痛めたのか?
「奴隷しか選択肢がなかった。もっとキツイのはないのか? もっともっと苦しめてやりたいのだ」
・・・・・・えっと・・・・・・
「分かりませんね。奴隷として労働に従事させるという以外は・・・・・・例えば、大変な労働環境に赴かせるのは? たとえば、鉱山とか道普請とか」
「ふうむ。それくらいしかないか。ちなみに奴隷への罰を与える場合はどうするのだ?」
罰? 考えたこともないな。
奴隷は性質上、命令に逆らえないように出来ている。
罰を与える必要性がないと思うが・・・・・・
「あるぞ。かなりキツイのがの」
「何か、ご存知なのですか? マリーヌ様」
「なんだ? この小娘は。今は大事な話し中だ。外してもらえないか?」
「ほお。たわけたことを言うな。若造。妾はお前の何倍も生きておるわ」
……お気になさらずにして下さい。
侯爵秘蔵の酒で酔っ払っているだけです。
「マリーヌ様。あまり余計なことを言わないでくださいよ」
「なんじゃ。妾が親切に教えてやろうとしたのに……ちょっと折檻が必要じゃあ」
だめだ。酔っ払って、言うことを聞いてくれない。
「それよりも奴隷に罰を与えるって本当にあるんですか?」
「無論じゃ。例えば……サヤサ、こっちに」
「はひ!?」
……口ってあんなに食べ物が入るんだな。
「何でしょうか?」
「よし。お主、ちょっとサヤサの髪を触って、違う色を想像してみろ」
何を言っているんだ?
まぁいいか。
サヤサの髪は茶色だ。
違う色……銀色なんていいかもな……
……こんなことって。
奴隷紋が小さく輝き、サヤサの髪の色が銀色へと変化していった。
とてもキレイだ……
「髪の色が変わってしまいました。しかも……この色は……」
サヤサが泣き崩れてしまった。
「済まなかった。すぐに戻すから……マリーヌ様!!」
「無理じゃよ。言ったであろう? 罰なのだ。それにサヤサは悲しいのではない。嬉しいのだ。のう?」
そんなバカな。
髪の色が変わって喜ぶ人なんて。
「ごめんなさい。ビックリしちゃって。マリーヌ様の言う通り、とても嬉しい……というよりは恐れ多いと言うか。この色は神孤様そのもので……」
話が分からない……
あとで聞くことにしよう。
「侯爵、どうやら出来るみたいです。何か、お望みはありますか?」
「容姿が変わるのか……ならば、目の色を変えてもらおうか。我が家系は代々赤目だ。それこそがデリンズ家の者という証拠。それを変えてもらいたい」
なるほど……
アンドルには一番堪えるかも知れないな。
奴にはもはや何もない。
デリンズ家出身ということだけが全てだ。
それも消されてしまうのだから……
それはすぐに実行に移された。
「い、いやだぁぁぁぁ」
鏡を見たアンドルは絶望の叫びをし続けた。
「こんなゴミは見たくはない。すぐに連れて行け」
「父上ぇぇぇ。どうか、お許しをぉぉぉ」
哀れ……これが親子最後の言葉とは……。
後日、奴隷たちはデリンズ領内全域に配置された。
アンドルは工場で休みなく働かされることになった。
皆から執拗ないじめを受けながら……それは酷い末路だった。
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【★あとがき★】
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