第24話 これからの道⁈

   47.手抜き?


「決闘……。手を抜いていたでしょ?」

 ミネルヴァから、そう指摘された。

「手は抜いていないよ。ただ、大きな魔法をつかうには、動きの速い相手には不利だから、小さな魔法をつかっただけさ」

「そこじゃない。あなた、まだ戦えたでしょ? あの檻を魔法でだした後……」

「あの狭い空間で、殺し合いをさせるつもりかい? あそこは彼女が木刀を手放して、ボクが魔術切れで引き分け、が一番いいシナリオだろ?」

「そのずる賢さが、あなたを信用しきれないところなのよね……」

「勝利より、必要なこともあるさ。ボクは庶民出の貴族、だからどっちの気持ちも分かる。あそこは貴族が勝利するより、冒険者の彼女が勝った方が、間違いなくみんなは盛り上がるんだ。彼女がすわりこんでいるボクを立たせ、それで引き分けを宣言する。最高のエンディングだろ? もっとも、そこまでのシナリオをボクも描いていたわけじゃないけれどね……」

 そう、アリシアが檻の中まで入ったことは、誤算だった。そこで咄嗟に、尻もちをつくシナリオに変えたのだ。

「あの魔法、どうやるの?」

「土魔法の応用だよ。ケイ素、という鉱物をつかうんだ。ボクを育ててくれた人が、野獣をつかまえるのに使っていた。ボクのは受け売りさ」

「ふ~ん……」

 ミネルヴァは訝しがるけれど、ダウ爺は大きさも自由自在、発動も速くて、驚嘆していたぐらいだ。ボクなど、まだまだである。


「ホント、うちの実家が欲しがるぐらいの計算高さだわ」

 エマも、ボクが本気をだしていなかったことに気づいた一人だ。

「エマの実家? 商家だよね?」

「そ。何でも屋のね。キンドルに頼めば、何でも手に入る! というのが売り文句なのよ」

 現代風にいえば、『ゆりかごから墓場まで』の総合商社のようなものだ。

「計算なんてしていないさ。むしろ、打算だよ」

「どっちでもいいわ。オーウェンが負けて終わったら、貴族全体が軽くみられる。でもあなたが引き分けに持ちこみ、貴族の対面と、平民の溜飲を下げさせる。どうやったらそんな結末、導けるのよ」

「偶々だよ。あのアリシア相手に、そんな計算が通用するはず、ないだろ? 出たとこ勝負でやったら、偶然うまくいったのさ」

「信じられないけれど、今は信じておくわ。何しろ、否定する材料はないからね」

 エマはそういって、一枚の紙を差し出した。

「でも、今回の決闘に関して、召喚状がでることまでは予想していないでしょ?」

「召喚状?」

「教練所、所長からの呼び出しよ。ほら」


 教練所は軍によって運営される。なので、所長も貴族、騎士が就任する。

 ボリス・プーシキン。この世界では、軍に携わる騎士階級の中に、細かい上下はない。軍を率いる貴族でも、佐官、尉官といった区分もないし、上級、下級といった別け方もされない。

 それは恋愛がメインのゲームなのだから、余計な設定を省いた……と思っていたけれど、どちらかというと軍事面において、そこまで複雑な作戦を立てる必要がない、ということも影響するらしい。

 ボリスは高齢で、戦場に赴くことがなくなり、教練所の所長に就任した。ただ若かりし頃は勇猛で鳴らしたらしく、今ではただの太ったお爺さんだけれど、力はありそうな体つきだ。

「シドル・セイロン君。君のあの檻をつくりだす魔法は見事だった。誰に習ったのかな?」

「育ての親です」

「やはり……」

 ……あれ? 何か思い当たるふしがありそうだけれど、ボリスは顔の前で手を組んでから語りだす。

「君は、すでにこの教練所の中でも上位にランクする、という自覚はあるかね?」

「高位の魔法をつかえる……ということですか? 自覚は多少ありますが……。でもボクにもできないことはありますし、それをここで学ぶと考えていますが……」

「君を教師に……という声もあるんだよ」




   48.理解ある二人


「どうしたの?」

「勿論、断ったよ。ボクにはまだ早いってね」

「こっちの先生だったら、もうとっくに……だけどね。んふ♥」

 今日はマイアが部屋に来ているけれど、すぐ戻らなくては……ということで、服を着たままだ。でも、ベッドの上ですわるボクに背を凭れさせ、寛いでいる。そんなマイアの制服の下に手をしのばせ、ボクはその胸を弄んでいた。

「こっちは先生というより、今でも生徒だよ。するたびに新しい発見がある」

「私は授業をうけるたびに、気持ちよくてバカになっちゃう……」

 そういって、背中をすりすりしてくる。ふり返ってみつめてくるので、その唇を静かに塞ぐ。

 本当はエッチをしたいけれど、ミネルヴァが代表となってから、風紀の乱れを取り締まることが増え、あまり長居できないのだ。下を刺激してしまうのもそう。彼女を感じさせてしまうと、後が大変なので、二人ともこの程度で我慢している。

 マイアは大きな胸だけれど、ウェイリングと比べると、やはり小さく感じる。元々胸を責められるのはあまり好きではなく、逆にだからこうして、今はその柔らかさを堪能できるのだ。


「じゃあ、そろそろ行くね」

 唇を放すと、名残惜しそうにそういう。こればかりは仕方ない。立ち上がったマイアに、ふと気になることを尋ねてみた。

「マイアは、ボクが他の子と婚約していてもいいのかい?」

 ボクはセイロン家の婿に入ることを約束された立場だ。つまり正妻はもういることになる。もしマイアと付き合っていても、結婚はできず側妾になる、ということだ。

「私が貴族のお嫁さんになるなら、そうなるしかないもの」

 マイアはあっけらかんとそう言った。稀に、庶民出の女性を正妻にすることもあるけれど、貴族は大抵、貴族同士で姻戚関係をむすび、家を繁栄させることが優先で、その子供も貴族の血を継ぐ、として立場が強くなるのだ。

 特に、ボクのような平民から貴族になった立場の夫だと、その側妾になっても、子供は貴族を継げないケースが多い。それでもいいのか……ということが気になっていたのだ。

「私はシドルと会ったときから、この人のお嫁さんになるって決めたの。正妻か、そうじゃないか、なんて関係ないよ」

「他の子と関係しても?」

「ちょっと気になるけど……、全然かまわないよ。だって、貴族ってそういうものでしょ?」

 貴族の名誉のために言っておくと、妻一筋の貴族だって、勿論いる。でも、マイアはボクが他の子と関係してもよい、と言ってくれている。妻となるレイラ・セイロンも、ボクが側妾をもつことを認める、といっていた。ボクは物分かりがいい二人に囲まれ、これからの動きがしやすいことを幸運に思った。




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