恋愛シミュゲーで、主人公に「Gyafun!」と言わされるキャラに転生しました。

巨豆腐心

第1話 転生先はゲームの中⁈

   1.田舎の子


 ここは文化史的には中世の趣きをただよわすも、道具など、一部には先進機械が入りこむ国、バーベル――。

 ここは、ボクがよく遊んでいた恋愛ゲームの中だ。

 何でここにきているのか? 自分でもナゾだけれど、意識がここにある以上、ここで暮らすしかない。ただ、乳呑み児となったボクは山の中に捨てられていた。

 どうやら誰か、登場人物の幼児期を体験するらしい。もっとも、この物語の主人公は幼児期に苦労した……という前フリがあるので、もしかしたら主人公かも……と、淡い期待をもちつつ、今は命の灯火が消えかかっていた。

 そんなボクを拾って、育ててくれたのはダウ爺――。

 山奥で一人暮らしをするダウ爺は、魔獣が跋扈する中で猟をし、果物を集め、畑を耕しては農作物を育て、囲いをつくって牧場とし、ヤギを飼う。完全自給自足をする強者である。山小屋も自ら建てたし、麻を編んで服をつくり、日用品もほとんどを自作する。

 偏屈で寡黙、一緒に暮らすボクともほとんど会話はない。だからダウ爺の後について回り、生きる術を見て学んだ。

 そうやってボクは、大きくなっていった。


 麓にある町まで行って、採れた野菜、果樹、動物の肉や皮などを売るのは、ボクの仕事だ。

 魔獣のいる山奥に人が立ち入ることは滅多にないので、それはよく売れた。

 ここは街道沿いにある、旅人の逗留地として発展した町だ。温泉がでるけれど、ごくわずかであり、宿が三軒と、そこで働く従業員の家が三十戸近くあるだけの、小さな町である。

「ハ~ルト♥」

 村でもっとも大きい宿屋をでたところで、声をかけられた。それはボクより二つ上の少女、エイリンである。

 黒髪で、それをお団子にする。年上だけど小柄で、ボクより年下にみえるぐらいの童顔だ。

 彼女はボクの手をつかむと、同意も得ずに引っ張って、宿屋の裏にまわった。そこから忍びこみ、彼女の部屋へとたどり着く。

 扉を閉めると、何の言葉もなく彼女は飛びつくようにして、ボクの頭を掻き抱いて唇を重ねてきた。

 舌を激しく絡ませ、まるで科学実験でもするかのように、互いの唾液を混ぜ合わせていく。

 ボクは手を彼女の服の下へともぐりこませると、年齢に比して大きな胸を手中に収める。弾力は高反発マットレスぐらいあり、かといってその感触は、安眠するのではなく、むしろ興奮のボルテージを高めていく。

「あぁ……」

 彼女は口を放すと、吐息を漏らしつつ、頭を後ろに大きく仰け反らせた。

 キスと胸を弄られただけで、早くも一回達してしまったようだ。互いに服をむしり取り、全裸になってベッドに倒れこむ。

「早く……。ハルト」

 すでに体を火照らせ、軽く息が上がっている彼女に、ボクも早速熱く滾ったものをぶちこんでいく。

 それはもう化学反応、互いの興奮と、体温と、気持ちを昂らせていく作用をもってボクたちを一つにしていた。


 たっぷりと楽しんだ……。野獣のように互いを求め合う、三日ぶりの行為は全力疾走でフルマラソンを走り切ったような疲労と、爽快感をもって二人をベッドに横たわらせていた。

「ハルトもそろそろ十二歳ね……」

 ピロートークは、ちょっぴり寂し気な彼女の呟きからはじまった。

「来月には、教練所にいくよ」

 徴兵制をとるこの国で、それは軍事訓練をうけることを意味していた。でも、教練所では一般教養、読み書きなども教わることができ、学校に通うのと同じ意味をもっていた。

 そこで五年を過ごすと、大人としてみとめられる。有事には徴兵される可能性もあるけれど、社会生活を行う上で必要な知識を得ることができ、それに文句をいう国民はいない。

 女子は事前検査により、適性のある者だけが教練所に通い、それ以外は地元で寺子屋のような、一般教養だけを学ぶ。だからエイリンは、地元にのこっていた。

 男子は否応なく首都に集められ、そこで全寮制の教練所に通うのだ。つまり、離れ離れとなってしまう。

「なら、もう一回楽しも♥」

「三日前もそう言ってなかった?」

 そう言ったけれど、ボクも嫌ではないので、少し腫れたぐらいの唇をふたたび重ねて、彼女の体をまさぐりだしていた。




   2.首都


 バーベル国の首都、アリアンベルム――。

 中世の欧州のような雰囲気だけど、これは恋愛シミュレーションゲーム『スティープ・ル・ラブ』の設定がそうだったから。

 絵が美麗でキャラも立っていたけれど、設定はかなり滅茶苦茶だった。何しろ魔法があって、携帯電話があって、冷蔵庫、トースターなんて家電もでてくる。要するに現代風の会話をするため、中世の欧州という設定なのに電化製品が豊富、という訳の分からない部分があった。

 そのせいか、あまり人気はなかったもののスピンオフ作品がつくられるなど、制作側の愛は伝わってくる作品である。

 ゲームは入学するときから始まっていたので、ここからボクが知る世界だ。

 入学式後、新入生の適性が調べられ、魔力がある者は魔道教練へ、そうでない者は憲兵教練へすすむ。

 肉体の鍛錬、体力の強化ばかり課せられる憲兵教練より、みんな魔道教練のコースをのぞむ。

 ボクは主人公であり、魔道教練にすすむ……と思っているし、実際そうだった。でも、ゲームではそこでひと悶着があり、それでルートの分岐がはじまる、という設定もあった。

 でも何もなかった……というか、ゲームとちがうイベントが発生していた。


「ハルト? そんな登録者はいませんね」

 受付の若い女性は、そういって首を傾げる。

「ハポネ村から来たんですが……」

「ハポネ村? あぁ、今年教練に参加する人が、一人いますね。それは『ハルト』ではなく、『シドル』で登録されていますよ」

 愕然として、言葉を失っていた。

 言葉を話せるようになったとき、ダウ爺に「名前は?」と聞かれ、ボクが名乗った名前で登録されている、と思っていた。

 ゲームでは、主人公は名前を自由設定できるので、そういうものだと考えていたのだが、どうやらちがったようだ。

 シドル……はこのゲームで、主人公と対極の存在である。主人公はふつうの容姿で一般家庭の出身。苦労人であり、魔力の素質もそれほどでもない。それなのに女の子と……というのが、シンプルにゲームの肝だ。

 一方で、シドルは貴族の出身で容姿端麗、魔力の素質もあり、そんなキャラだから女の子にモテモテ……。それが、主人公との対比となり、主人公が幸せをつかむときは必ずその対比として、不幸となる。悪役令嬢とちがって、積極的に主人公に意地悪をしたり、嫌がらせをしたりするわけではないが、天然で主人公の恋路を邪魔する、そんなプレイヤーからの恨みを買い、最後にそれが逆転して溜飲を下げてもらう役目をもつキャラだった。


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