第8話 へー、オタクの趣味って金のなる木じゃん ①








 あのさ。ダサい言い訳ばっかになるかもだけど、アタシにだって言い分ってのはあるはずなのよ。


 だって、すっごい頑張ったんだもん。

 今思い出しても恥ずかしいったらありゃしない。普段なら絶対にあんなことしないし、でも、あの子のためにってメチャクチャ勇気振り絞ってさ、ガムシャラにやったんじゃん。

 だから、言い訳くらいはしていーじゃん。むしろさせてよって話なわけ。

 確かにさ、まずったなーって気持ちはある。

 普段ならもうちょっと上手くやるし、今更だけど、強引すぎたかなって思わないでもないわ。

 でもさ、……仕方ないじゃない。

 相手の都合を考えてないと言われればそうだけど、だってアタシもいっぱいいっぱいでさ、あぁいう風にしかならなかったし、出来なかったんだもん。

 だからこの話はヤメ。もう終わったことじゃん。大目に見てよ。

 あと少しで今日が終わる、そんなとっくに電気を消した自分の部屋で、あとは寝るだけだっていうのに、あー、イヤんなるわね。

 放課後のあの出来事が頭を離れず、いいかげんにしてと言いたくなるようなモヤモヤに襲われっぱなし。

 もう、なにもかもがあの時。――朝っぱらからあんなの見たのが運の尽き。

 そもそも昨日のうちに用意しておけばよかっただけなんだけど、次の日でも良いかなって、忘れてたわけじゃないからね。忘れてたんだけど。――その時点で今日という日のこのハチャメチャは約束されてたのかしら。

 アタシはさ、ただ昨日借りたアイスの代金を返さなきゃって、でも、そのままお金を返すって何か下品じゃん。

 せめて可愛い袋くらいには入れなきゃって、たしかどっかに可愛いポチ袋あったなって、ただそれだけだったんだけど、まったくもうイヤになる。


 ……見ちゃったのよね。


 ウチのリビングはド~ンと二階まで吹き抜けになっていて、階下に誰か居れば、上からだとわりかし目に入るようになっている。

 そんな開けっぴろげなリビングに、どっかの可愛い妹がひとり。ママの作った朝ご飯をそっちのけで、コソコソと椅子に座って何かしてるのよ。

 アタシはパパの書斎にありそうねと二階で絶賛ポチ袋を捜索中だったから、探すついでに、ふと、視界の端にたまたま見えたって程度のことだったんだけど。

 あれ? ごはんも食べずに何してんのかなぁって。

 家族とはいえヒトを盗み見るのってあまり褒められた趣味じゃないけれど、あの子って少し体調を崩しやすいところがあるからさ。周りは些細な変化や行動に対して、いちいち敏感になっちゃうのよね。

 その時もさ、細い背を丸めてもぞもぞと。あまり見る動きじゃないからさ、もしかしてお腹痛いのかな。大丈夫かなって捜索の手を止めてしばらく見ていたんだけど。


『……財布?』


 目に映ったのは、妹の真っ白なお気に入り。

 おねだりベタなあの子へと、秘密だぞとパパが買ってあげて、その日の晩に、どうしたのコレとママがパパの首根っこをつかまえた曰く付きの一品。

 ちなみにその時いっしょに買ってもらったアタシの財布もその日のうちに連鎖式にバレた。あの子と色違いの、パステルなピンク色。

 机の下で隠すように、その愛用の財布を開けてさ、間違いなくお札は入ってなかったわね。

 見えたのは数枚の小銭。それを手のひらにのせて、1枚2枚3枚。千円に満たない硬貨を何度か数えて、ふぅと、可愛い顔で困ったように溜息つくわけ。

 そりゃあね、あと数日でお小遣い日だし、もう手持ちが心許ないのかなってのは分かったんだけど。

 だけどさ。


 ……ちょっと待ちなさい。何その溜息は。


 あの子はね、病気になってから困り事や悩み事を隠すようになって、――アタシはそれが常に気に入らない。

 財布の時はあからさまに物欲しそうな顔をしてたからね、パパが、もしかしてってピンときたから良いけれど、そういつも周りが気づいてあげられるとは限らない。

 そう、あれは最悪だった。

 まだあの子が中学校に上がる前。

 今日と同じように、妙な素振りを見せていた事があって、……今思えば、色々と察してあげられなかったアタシ自身にも腹が立つ。

 ホント、その時はどうしたのかなーってくらいのノリで終わらせたのが口惜しいったらありゃしない。

 どうもさ、――なんて言ったかな。名前は忘れちゃったけど、その当時、小学生に流行ってたキャラクターの文房具セットみたいなヤツがあってね。

 その中でも、12色だか24色だかの色ペンセットがあの子としてはすっごく可愛くて、ホント欲しかったみたいなんだけど、でも、そういうのってムダに高いじゃん。

 やっぱりその文房具セットも小学生には高嶺の花な金額でさ、その値段にビビっちゃってどうやらママ達におねだり出来なかったみたいなのよね。

 アタシも経験あるけどさ。女子って、グループ内で○○を持ってないとダメとか、△△を好きじゃないとハブられるとか、小っちゃいうちからそういうクソメンドーなところが多々あって、困ったことにその時は例のソレが仲間に入るためのチケットだったみたいで。

 しかも、あろうことか仲間内で、ウチの妹だけがそれを持ってなかったみたいなのよ。

 いや、そんなんアタシは知らないじゃん。あの子も言わないし、まぁ、姉なら気づいてやれよって話だけどさ。

 次の休みだったか、せっかく友達が玄関先まで来て遊びに誘ってくれたのに、いろいろと言い訳つけて行かないって言うの。

 その友達はさ、わかった、また今度遊ぼうねって笑って帰ったから良かったものの、


『……アンタ、何ウソついてんのよ』


 扉が閉まって数秒後。

 後ろで聞いてたアタシは、友達に対する妹の断り文句が全部デタラメだって分かったからさ、そりゃ、歳を重ねていけば嘘も方便だってのは分かるけど、でも、あの子達は小さな頃から大の仲良しでさ、妹が病気になってからも前と変わらず接してくれてる宝物みたいな親友じゃん。

 友達の友達とか、そういうよくわかんない関係じゃないんだからさ。気が向かないとか、今日は家でゆっくりしたいとか、どんな些細な理由だとしても、ホントの事を正直に言った方が絶対に良いと思う。


『あーいうのはマジでヤメな。いつか、絶対ロクな事になんないから』


 だってもし、仮にアンタがウソついてるって気づいたらあの子達、なんでウソなんてついたのかなってショックを受けると思うし、ほら、そういうトコから友人関係は拗れるからね。

 友達ってさ、作ろうと思って出来るもんじゃないからさ、それなら大切にした方が良いと思うわけよ、アタシはね。

 久しぶりのアタシの正論に、あの子は、拗ねたようにアヒル口のまま下向いてダンマリ。

 それでも、いつもはウソなんかつかないじゃん。どうしてってしつこく尋ねたら、……呟くように “それ” を持ってないからって。

 きっとアタシの質問攻めがウザかったんだろうけど、あの子には珍しく、苛立った感じをちょっとだけ見せて、……ひとりだけ持ってないとみんなが気を遣うから、私のせいで楽しめないだろうから、だから行かないって。

 アタシ、そこでようやくそのことを知ってさ。

 なんで相談しないのって、アタシもこんな性格だからさ、欲しいなら欲しいって言いなよって、パパやママにお願いするのはタダじゃんって。今思えばちょっと威圧的な言い方だったかもしれないわね。

 でもさ、そしたらあの子なんて言ったと思う?


『だって、』


 少しだけ何か言いいかけて、静かに息を吐いたと思ったら、『だって』


『だって、……いっぱい迷惑かけてるもん、言えないよ』


 すっごく悲しそうにさ、諦めたように笑うの。しかも、


『私のせいで、たくさんお金かかってるもん』


 だから、いいの。言わないの。って、


 ……何よそれ。


 その時はじめてよね。可愛い妹に心底ハラワタ煮えくりかえってさ。

 もうアタシさ、カチーンときて、気づいたら怒鳴り散らしちゃってた。

 スゴくヒドいこと言ったと反省してる。今でもたまに思い出して落ち込むくらいに、カッカ来てたのよね。

 滅多に聞かないアタシの大声に両親ともどもすっ飛んできてさ、妹はギャン泣きしてるし、アタシは顔真っ赤にして怒鳴ってるしで、目を白黒させて、パパとママはどうしたのって聞いてくるけど、もう、アタシは止まんないわよ。

 部屋着にサンダルで外飛び出してさ、お年玉貯金全部下ろして、妹の欲しがってたヤツ、どれが良いかなんてわかんないから、あぁ面倒くせって、近くの文房具屋でそれっぽいの全部買ってきて。

 帰ってそうそう言ってやったわ。泣きながらあの子は謝ってくるけど、勢いついてるから止まれないわよ。


『欲しいのは欲しいって言いな! ダメならダメって言うし! ウジウジするのは絶対禁止だから! もし、またさっきみたいな事言ったら、借金してでも今日みたいに全部買ってくるからね! いい!? わかった!?』


 なんでかな、最終的には涙が出てきちゃって、


『わかったら返事ッ!』


 ゴメンねって、あの子も泣いてるのにね。結局アタシの方が慰められる始末。

 あーもう。痛い思い出よね。勝手に怒って、勝手に走って、勝手にヒスって泣いて。

 たぶん妹も、その時、 “あ。ウチの姉ヤベーヤツだ。そのうち、勢いで取り返しのつかない事やっちまうぞ” くらいには思ったんでしょうね。

 だからかな、その一件があってからはある程度の相談事はしてくるようになった。

 だけど、そうはいってもあの優しい性格だもん。まーたあの子はくだらない隠し事でもしてるんでしょうね。

 そりゃヒミツのひとつやふたつくらいあって当然だもん。アタシもさ、何でもかんでも教えろって言ってるわけじゃないの。

 でも、『自分のせいで』とか、『私はこんなだから』って、そういう後ろ向きなのが本気で許せないだけ。

 いつ、アタシ達家族がアンタのせいで迷惑したとか苦労したとか言った? 言ってないわよ。思ってないもの。

 むしろ、いっぱい努力してキツいリハビリ続けてさ、たしかにまだほんの短い距離かもしれないけど、それでもちょっとずつ歩けるようになってきたわけじゃん。

 歯を食いしばってさ、いっぱい汗かきながら一生懸命やってんじゃん。そういう姿見て、毎回泣きそうなほど感動してますよアタシ達は。

 今だって、なにか欲しいものがあるんでしょ。でも今月のお小遣いじゃ足りないなとか、しかたないよねって、どうせその程度のモジモジウジウジしたくだらない悩みでしょ。

 まったく、呆れて言葉が出ないわ。

 そんなの言いなよ。毎日がんばってるんだから、ご褒美みたいなもんじゃん。バチなんて当たらないわよ。

 アタシを見てみなさい。昨日、同級生から借りたアイス代、結局パパにおねだりしたんだからとんでもないヤツよ? それに比べりゃアンタのお願いなんて可愛いものよ、家族みんなが協力するわ、絶対にね。

 だから、――このとき出た溜息は毎度お馴染み。

 過去何度もあった、仕方ないわねと心の中の “お姉ちゃんスイッチ” が入る合図。

 このスイッチは、妹の可愛さや頑張りに応じて強制的にONになる。

 アタシではどうにも止められないのが欠点だけど、


『――次のお小遣いまで待てるなら、協力してあげるわよ』


 ヒャッと。抜き足差し足忍び足で背後に回り込んだアタシに、妹は可愛い声を上げた。

 思えば、この行動が運命の分かれ道だったのよね。

 その時のアタシとしては、数日前に一緒に行ったセレクトショップで、いくつかの帽子に目を輝かせてたから、ははぁん。なるほどね。

 きっとその中のどれかが欲しいのだろうと山を張って、あのお店って結構リーズナブルでさ、お財布にも優しいもんだから、あれくらいならお姉ちゃんに任せなさいよと『何が欲しいの?』って訊いたわけ。

 はじめはあの子も遠慮してたんだけど、アタシが少し強引なのは知ってるからね。

 渋々だけど早々に妹も観念したようで、おもむろにスマホを操作。

 おずおずと見せてきた画面を、どれどれと少しワクワクしながらのぞき込んだんだけど。


 ――流石、アタシの妹ね。一筋縄でいかないのはきっと血筋だろう。


 まぁ、簡単に言うと女の子的には残念なモノが映し出されていた。

 そこには某フリマサイトが。

 アタシもたま~~に眺めたりはするから初見ではないのだけど、――この映った内容が良くない。


『あのね、今ね、一番このカードが欲しくって、それで……』


 なーんだ。と。

 露骨にイヤな感情が胸に湧いたけど、大丈夫かな。顔に出てないわよね。

 こんな感情、あの子にとってはお門違いもいいところだけど、……正直言って、つまんないなぁって。

 あーぁ、まーたカードかってね。ファッション関係だと考えてたぶん肩すかし。

 アタシはカードゲームなんてさっぱりだからさ、お金使うのもったいねーと毎回思っちゃうんだけど、ヒトの趣味に直接どうこう言うのはダサイってのも同時に知ってるからね。

 ダメだとは言わないし、ヤメなと止めもしない。

 数ヶ月に一回くらいかな。カード関係の、妹のヘタクソだけど全力のおねだりは過去何度も見てきたし、シンダン? ハコガイ? よくわかんないけど、毎回あの子があれだけ必死にママへと懇願するのだから、よっぽど好きな事も分かる。

 だから今回の場合も、まぁ、うん。仕方ないか。

 ガッカリと言えばガッカリだけど、良い方へと考えれば、あんな紙切れくらいその辺のハンバーガーセットより安いだろうからね。それで妹内のアタシの株が上がるなら、それはそれで良しじゃね?

 そうね。今回は出費が少なくてラッキーだったと、うん。そういう事にしときましょ。

 なんて、アタシの中では勝手に楽勝ムード漂ってたんだけど、そこに表示された金額に、


『ひょっ!?』


 とっさにアタシの喉から変な音が出た。

 だって、見れば見るほどそこには、


『はっ! はっせんごひゃくえん!?』


 ――目を疑うような金額が書かれていたのだから。


 この紙切れが8500円!?

 おいおいおい、こんなの即通報でしょ! 詐欺じゃん! オレオレなんとかじゃん!! ウチの妹、いいカモじゃん!!

 ママーッ! この子、バカかも! 騙されちゃってる!!

 あわあわと、起きた事態に声も出ずただ狼狽えるアタシの隣で、妹の形のいい瞳がキラッキラに輝いた。


『そう! ビックリだよね! 安い!!』


 高いわよっ! ばかっ!!

 声にこそ出なかったが、頭の中のもうひとりの自分が、間違いなく悲鳴を上げた。

 見れば、同じカードがいくつも出品のある中で、確かに妹の言うように一番安いのがこの金額だった。

 だからといって、この値段はダメでしょう。それに、安いってアンタ。


『これが2枚欲しくって』


『にまいっ!?』


 ウソでしょ!? 2枚!?

 久しぶりに頭がクラクラした。

 そりゃ服ならそれぐらいするのはザラだけど、妹の欲しがっているのは例のカードゲームで、厚紙に印刷しただけのもので、トランプくらいしかない大きさで、それでいてたったの一枚でこの値段。

 それがあろうことか二枚とな。


『あのね、先週までね、平均相場が1万円超えてたんだけど、ようやく落ち着いてきたみたいなんだ』


 鼻息荒く、このカードがいかにすごいのかを妹は力説してきたが、ひとつも頭には入っちゃ来ないわよ。


『あのさ――』


『――絶対、今期の環境で大暴れする1枚だからね、買えるうちにが勝ち!』


『あ、はい。そうなんだ』


 アタシの言葉なんか聞いてはいないのね。

 かぶせ気味に飛んできた言葉は半分くらいが意味不明だったけど、なによりもお金の価値観が違いすぎて、この子の将来をこんなアタシが心配してるのだからアベコベだ。いよいよ笑えてくる。


『お小遣いじゃ買えないなって諦めてたんだけど、』


 妹は椅子に座ったまま、隣に立つアタシの腰の辺りへ抱きついてくる。もちろん百万点のプリティースマイル付き。


『おねえちゃん。ありがと、――大好き』


 続けて言われたこの言葉が、ひぃい。ガワイイヨォ……。


 ――ズルイわよね。この一言が、何を隠そうアタシに対しての最高の殺し文句なわけよ。


 これを言われちゃうと弱いのよ。毎回なんやかんやと言うこと聞いちゃうんだから、手のひらでコロコロされちゃってるわね、マジで。

 今回も、ここまで話が進んじゃったら、あとは “まかせなさい” で終わるパターン。……なんだけど。

 そりゃ、お姉ちゃんにだって意地はある。一度約束したんだから破るのはダメだし、なによりも妹の喜ぶ顔が見たい。

 でもさ、あのさ、今回ばっかりは、ねぇ?

 なんだかんだと言ってもさ、物事には限界ってある訳じゃん?

 あぁ、どうしたもんか。

 このままではアタシの来月のお小遣いが一瞬で蒸発する。

 どうしよう。どうしよう。高すぎる。なんだか頭が痛くなってきた。

 ホントは、却下。って、もっと安くなってからで良いじゃん。今買うのは損するかもだよって、その手の文言がもう喉元まで出かけたんだけど、聞けばそのカード、今の時期にショップ? カードの大会? たぶんフェスってことかな? そこでしか手に入らないから、希少価値がうんぬんかんぬんのどうたらこうたらで、これから先、高くなる可能性のほうが大きいみたいなのよね。

 だからってカードにこの金額って、ねぇ。それともこのゲームってそういうもんなの? どうなの? アタシがおかしいの? 

 ていうかちょっと待って。なに、どういうこと? そもそもの話、このカードゲームって、イベントで金券配ってんの?

 1枚何千円って意味不明なんだけど。オタクの趣味ってヤバくない? ねぇ、それなら毎回そのフェスに行けば億万長者じゃん。やべ、アタシとんでもいない財テク発見したんじゃね?


『わざわざ買わなくても、そっちの方がお得なんじゃ――』


 ……アタシはさ、別に何か言いたかったわけではないの。


 ただ、それならそのイベントに行けば良いじゃんって。タダでもらえるんでしょ? そっちが安いしお得だねって、そのくらいにしか考えてなかった。


『でも、優勝しないと手に入らないし、それに、ね……』


『あ、』


 でも、デリカシーに欠けた一言だった。猛反省だ。恥ずかしくなる。

 隣で自分の足に視線を落とし、困ったように笑うもんだからさ、妹のその顔に、ダメじゃん。これはアタシのせいでさせちゃった顔じゃん。

 きっとたくさんの人が集まるのだろう。そんな場所に車椅子で乗り付ければどうなるか。

 足のせいで、周りに迷惑かけるからって、妹が言わなかった言葉を言わせてしまったようなものだ。

 ゴメンね。とは言えない。

 それを言ってしまったら、妹に言い訳を与えてしまうことになる。アタシはね。絶対に、この子が自分を理由に諦める姿は見たくないし認めない。

 だから、そんなときこそ姉の出番なんだ。


『……前言撤回よ』


 ホント、これっぽっちも解決策なんて、なーんにも考えてなかったんだけど、その姿に脊髄反射よね。来月が、この子の誕生日だってのもたぶんアタシの背中を押したのかもしれない。


『これ、誕生日まで待てる?』


『え?』


 出ちゃったのよ。無駄に自信満々な笑顔貼り付けてさ、言葉が勝手にするすると。


『お姉ちゃんにさ、ぜーんぶまかせときなって』








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