リツコの講義ノート(キーワード解説)
ヒューム
18世紀スコットランドの哲学者。著書である『人間本性論』の中で、現代の因果論にまで影響を与える因果関係に対する考え方を提示した。恒常的連接説以外にヒュームの因果関係に対する立場を代表するものとして、因果関係とは私たち人間の持つ「心の癖」であるとする考え方(因果的活力の否定)がある。
恒常的連接
事象Aと事象Bが『Aが起これば必ずBが起こる』という必然性規則性を持つ状態のこと。ヒュームはこの恒常的連接に加え、時間的な先行性と物理的な近接性の三条件を満たしていることが、二つの事象が因果関係にある定義であるとした。この恒常的連接説のような、原因と結果の規則性に着目する学説を規則説と呼ぶ。
反事実条件法
事実と異なる条件(反事実条件)を考えた時の結果の差に着目して、因果関係を定義する考え方のこと。現代的な反事実条件の考え方の基礎は、20世紀に哲学者であるディヴィット・ルイスにより提示された。ルイスは可能世界意味論という、私たちの世界と類似した世界(いわゆるパラレルワールド)が無数に存在するという形而上学的な仮定に基づき、反事実条件に基づく因果論を展開した。反事実条件説のような、原因による結果の差異に着目する学説を差異説と呼ぶ。
因果推論の根本問題
現実世界ではある対象に対して、事象Aが起こった場合と事象Aが起こらなかった場合の双方のケースを観察することが出来ないため、反事実条件法に基づく因果関係の推定(因果推論)を行うことが事実上不可能であるという問題のこと。実務上はこの問題が存在することを前提に、この問題が事実上無視できるような疑似的な環境を作り出して、因果推論を行う。その方法の一つが、次に解説を行うランダム化比較試験である。
ランダム化比較試験
通称RCT。被験者をある処置を行う処置群と行わない対象群の二つのグループにランダムに割り当て、二群比較に基づき因果効果を分析する実験手法のこと。RCTでは被験者をランダムに割り当てるという操作(ランダム化)を行うことで、効果を調べたい特定の処置(例:新薬の投薬)以外の他条件(共変量)を可能な限り統制している。
同手法は主に医学や疫学分野等で用いられるが、近年では経済学を始めとする社会科学分野での応用も進んでいる。2019年のノーベル経済学賞では、バナシー、デュフロ、クレーマーの三氏が、途上国支援を支える開発経済学の分野にRCTを導入した成果により受賞した。
因果関係は複数のまったく異なる顔を持つ
因果関係には現状、多様な定義・学説が存在し、本稿執筆時点(2022年3月)では専門家間で完全に合意が得られた共通の定義が存在していないということ。また科学分野では実務上、各専門分野の知見に基づいた独自の因果関係の定義や基準(例:医学におけるヒル基準)が設定されている。
本稿で扱った内容以外にも哲学分野では、因果関係を物理量の交換と捉えるプロセス・メカニズム説、原因とは結果の確率を上昇させるものだとする確率説、実験的な介入により因果関係を特定可能とする介入説、因果はそもそもひとつの方法では定義できないとする多元的因果論などの各学説が存在する。また近年、科学分野からのアプローチとして、Judia Pearlらによる統計的因果推論と呼ばれる手法が提唱され、主に医学や社会科学分野を中心に学際的な理論の広がりを見せている。
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