エリスの意地
王城にはエリスの肖像画が飾られた空間がある。その空間で悲惨な争いが繰り広げられていた。
世界警察ワールド・ガードのエースであるブライトと、クォーツ家のローズが魔術を暴発させていた。クロスとイーグルだけでは抑えられなかった。
ブライトとローズは、セレネの召喚した水を帯びる風の渦に閉じ込められて床に押さえ込まれているが、二人の魔力は残ったままだった。
「セイクレド・ライト、シャイニング・ゴッド」
「フラワー・マジック、フォレスト・マーチ」
ブライトの生み出す聖なる光が渦を蒸発させて、ローズの両手から伸びる太い木の根が床や壁を砕く。
おまけにエリスの魔術は赤く光る刃の群れを作り出していた。
いずれもまともに食らえば命はない。
そんな状況下で、シェイドは不適な笑みを浮かべていた。
「ゆっくりと楽しみたかったぜ。イービル・ナイト、オール・ロバリィ」
太い木の根や赤い刃が黒く染められる。やがてシェイドの意に従い、ゆっくりと床に降りて消えていった。
セレネが再び魔術を放つ。
「何度でも閉じ込めてさしあげます。アクア・ウィンド、ボルテックス・シールド」
ブライトとローズは水を帯びる風の渦に巻き込まれて、また床に押さえ込まれた。
シェイドが声を出して笑う。
「もっと遊びたいが、さっさとイクリプスを倒さねぇとな」
「何度も言うけど、イクリプスはドミネーションの味方よ。今まで役に立ってきたわ」
エリスはよろよろと立ち上がった。体力の限界を迎えてるのだろうが、鋭い眼光を放っていた。
「イクリプスを失うのはドミネーションにとって損失になるわ。身勝手な行動はやめなさい」
「どんな損失だ?」
「ブレス王国を支配するのに大きな役割を担ってくれたわ。彼の魔術は強力よ」
「信用できねぇよ。セレネまで操りやがって」
シェイドは舌打ちをした。
エリスは全身をワナワナと震わせた。
「セレネは自分の意思で攻撃したのよ。日頃の行動を猛省しなさい」
「違います! 私の意思ではありません!」
セレネは両手を広げて声を張り上げた。
「イクリプスに操られていました!」
「もしそれが本当なら魔術師の素養の問題よ。言い訳するなんてみっともないわ。あなたがドミネーションの幹部に攻撃した事は事実よ。死んで詫びるくらいしなさい」
エリスの口調はきつく、表情が険しい。
セレネは両手を胸に置いて俯いた。
「自害は考えました。私の行いは許されるものではありません。しかし、シェイド様は私が死ぬのを望んでいません。私が私を取り戻す事を望んでいました」
セレネは上目遣いにシェイドを見る。
「私の意志でシェイド様に一生を捧げます。それでよろしいですか?」
「あんたがどう生きるかは自由だ。あと、俺の事はシェイドでいい」
シェイドはセレネの頭をポンポンと軽く叩いて、エリスを睨む。
「エリス、あんたが腹の中で何を考えてもいいが、俺の任務を邪魔するのはやめろ」
「ドミネーションの味方を増やす事よね。裏切り者やブレス王家を引き入れるのは反対よ」
「誰を引き入れるかは俺が決める事だぜ」
シェイドに諭すように言われて、エリスは唇を噛んだ。
シェイドの理屈は理解できるし、エリスにとって状況が悪い。
ブライトとローズは、セレネが押さえ込める。エリス自身の魔術さえシェイドが無効化できる。
このうえクロスとイーグルはエリスに敵対するだろう。魔術師として類まれなる才能を持つエリスといえど、不利だ。
それでもエリスはシェイドを睨む返す。
「私が退くなんてありえないわ。神に選ばれてあらゆる贅沢が許されたのだから。私の意志に添わない人間が生きているのが間違いよ」
理屈はない。意地しかない。
今までずっと誇りと気品のために生きてきた。
「屈するなんてあってはならないわ! ファントム・ジュエリー、エンジェル・ブラッド」
鮮明な口調で魔術を放つ。
しかし、その瞳は徐々に虚ろになっていく。
シェイドは苦笑した。
「イクリプスに操られたか。力づくで抑えるしかねぇな」
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