凱旋パーティー

 フレアたちは、育ての親たちに案内されて魔術学園グローイングに到着した。

 辺りは薄暗く、校門付近には魔力による光球が灯っていた。

 日頃なら生徒は帰宅し、誰もいない。

 しかし本日は事情が違った。

 大量の生徒たちが待ちわびたといわんばかりに、大歓声をあげたのだ。

「英雄たちの帰還だ!」

「良かった、無事だったのね!」

 地響きでも起きたかのような大声が重なる。

 その声の主たちが、一斉にフレアたちに駆け寄る。

 フレアたちはもみくちゃにされた。いろいろな人から声を掛けられたが、魔術学園グローイングに入学してから日が浅いため、誰なのか全く分からない。

 フレアたちは見ず知らずの生徒たちに引っ張られるままに歩いていた。


 歩き終えた先は、食堂だった。


 長方形のテーブルには所狭しにお菓子や料理が並べられていた。色鮮やかなケーキ各種、表面がこんがりと焼けたブリュレ、フレッシュなトマトのリゾット、新鮮な野菜で作られたサラダ、ふわふわのオムレツなどなど。

 フレアは両目を輝かせた。

「美味しそう!」

「良かったら全部食べてね」

 母がいたずらっぽく言うが、フレアはぶんぶんと首を横に振った。

「お腹壊しちゃうよ!」

「それもそうね。じゃあ、お父さんがちょっとだけ挨拶するから、その後は楽しんでね」

 母の視線を辿って食堂の前方を見ると、いつの間にか父が立っていた。

 父は一礼して、薄い本を広げた。

「皆さん、お静かに。これからグリーム学園長からお言葉をいただきます」

 グリーム学園長。

 この言葉が口にされた時に、生徒たちがどよめいた。

「学園長直々に挨拶なんて」

「やっぱりフレアたちはすごかったんだ」

 生徒たちのどよめきを耳にしながら、ローズは胸を張った。

「本当にすごかったのですのよ!」

「ローズ、今は学園長の言葉を聞くべきだ」

 クロスにたしなめられて、ローズはしぶしぶ黙った。

 父が広げた本から、ゆっくりと人影が浮かび上がる。

 半透明で、実像があるわけではない。映像にすぎないのだろう。

 しかし、確かな風格がある。

 白髪を生やした、豊かな白い髭の老人である。しわがあるものの、眼光は力強い。一見するとただの老いぼれに見えるが、魔術師を目指す生徒たちは底知れぬ実力を感じ取っていた。

 その人こそ、魔術学園グローイングの学園長グリームだ。魔術学園最高の魔力の持ち主だとうたわれる。

 グリームは咳払いをした。


「諸君、よくぞ集まった。フレア、クロス、ローズ、そして世界警察ワールド・ガードの方々の労いをしてくれる事に心から感謝する」


 朗々とした声が響き渡った。

 生徒たちは固唾を呑んだ。グリームの神々しさを前にして、言葉が出なかった。

 グリームは優し気に微笑む。


「儂の話は肩ひじ張らずに聞けば良い。悪夢の魔術師を倒した事で、魔術学園グローイングの平穏が取り戻された。明日からは通常通り授業や実習を行う。今日は大いに喜びを分かち合い、活力を養いなさい。以上」


 グリームは一礼して、本に吸い込まれるように消えていった。

 父は本を閉じて、穏やかな笑みを浮かべた。

「それでは皆様、お楽しみください」

 緊張から解放されて、生徒たちにドッと疲れが押し寄せた。

「学園長はすごいな」

「今日は食べるぞー!」

「明日から授業かぁ」

 思い思いの本音を口にして、それぞれが動き出す。

 お菓子や料理に手を付けたり、談笑したり、フレアたちに話しかけに行ったり。

 みんな笑顔で楽しそうであった。

 フレアは安堵の溜め息を吐いた。

「本当に、みんな死ななくて良かったわ」

 思えば過酷な戦いをした。みんなが命を懸けていた。

 そして平穏を勝ち取った。

「明日からちゃんと授業ができるのね」

「そうだな。しっかり学びたいところだ」

 クロスが頷く。

「シェイドを捕まえたとはいえ、犯罪組織ドミネーションはトップともう一人の幹部がいる。彼らの動きは苛烈を極めるだろう」

「そうなる前に、私はちゃんと魔術の制御ができるようにならないといけないわ」

 フレアは決意を新たにブリュレとオムレツを取り皿に盛った。

「今日は英気を養うわ」

「せっかくだ。俺も何か食おう」

 クロスはリゾットとサラダを盛っていた。

「それがいいですわね!」

 ローズはケーキ全種を皿に盛って、高笑いをあげていた。

「皆様も、私たちの勝ち得た栄光に酔いしれるといいのですわ!」

 生徒たちが大歓声をあげる。

 フレアは家にいる時とは違う幸せを味わっていた。

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