再会、しかし……

 どうしてこうなった?

 クロスは胸の内で自問した。

 天にも届く赤い光の柱が出現すれば、噂になっているはずだと思っていた。

 しかしストリーム村では既に過去のものとされて、興味をひく話題にならない。

 村人たちはクロスの来訪に興味津々であったと、クロスが気付いた時には既に遅かった。

 全く関係のない話を振られる。答えるとさらに違う話を振られる。

 この繰り返しで、柱を消した人物の手がかりに至らないでいた。

 クロスにとって無駄な時間が流れる。

 収穫と言えば、ストリーム村は話題に飢えているという事が分かったくらいだ。それだけ人の出入りが少ないのだろう。

 犯罪組織ドミネーションはそこに目を付けて、都合のいい情報を流しているのかもしれない。

 怪しい宗教家が簡単に入り込めるのも頷ける。

 ここまで考えて、クロスは口を開いた。


「そういえば、ここに赤毛の女の子が来ませんでしたか?」


 質問は続いていたが、強引に話題転換を狙う。

 来訪者が珍しいのなら、フレアの事だってよく覚えているはずだ。

 案の定、村人はみんなで頷いた。

「いい子じゃよ」

「ホーリー家とは信じられないわ」

 ホーリー家がどんな噂を立てられているのか気になるが、フレアの行方を聞き出す事に専念する。

「いい子だったのですね! 俺も会いたいです。どこにいるか分かりますか?」

「神の御使いに連れて行かれたぞ」

「神の御使いですか……?」

 クロスは首を傾げた。聞き間違いを疑って、念のために復唱した。

 老人は深々と頷いて、両手を合わせる。

「ありがたい御方じゃよ。どれほどあがめても謙虚に振る舞い、子供と遊んでくれた。照れ屋なのかもしれないぞ」

 クロスはわぁっと感激の声をあげた。いつもよりリアクションがオーバーなのは相手に合わせたためだ。ありのまま振る舞うよりも警戒心を与えづらい。

「そんな素晴らしい御方がいるのですね! どこに向かいましたか?」

「川沿いに歩いていったぞ」

 村人はそう言って、上流の方向を指差した。

「ありがとうございます!」

 クロスは村人たちの輪を強引にかきわけて、川沿いを走る。

 その途中で天高くのぼる赤い光の柱を見て、クロスは確信した。

「良かった、フレアは無事だ」


 光の柱が天高くのぼると、小屋は屋根を失った。一瞬の出来事であった。

 シェイドが自らの魔術で被害拡大を防いで、小屋の外に出て被害の確認をしていたが、気まずい雰囲気が流れていた。

 セレネは腰を抜かし、フレアは呆然としている。

 シェイドはこめかみをピクピクさせていた。


「なんでポーション作りで魔力が暴走したんだ?」


 シェイドの問いに、フレアは全身を震わせる。

「もっといいポーションを作ろうとして、愛情を込めたから……かな?」

「かな? じゃねぇよ。俺に聞くな」

「うう……ごめんなさい」

 フレアは涙声になった。

 シェイドは呆れ顔で溜め息を吐く。


「たしかに呪文を唱えていなかったし、不可解の現象だけどよ……自分のやる事くらい自分で責任を持てよ」


「ううう……」


 当たり前の事を言われているが、フレアの胸は痛くなった。

 今まで自分だけで魔術を制御できた経験がない。誰かが手伝ったり、アドバイスをしたりしていた。

 そのツケがきているのかもしれない。

「ごめんなさい……」

「謝っても仕方ねぇよ。屋根の修理をどうするかな」

「……エリクサーができたから、それでいい?」

 フレアが恐る恐る尋ねる。

 シェイドの眼光がぎらついた。

「エリクサーはありがたくいただくが、それとこれとは話が違う。屋根の修理は人手と時間が欲しいぜ」

「私も手伝えばいい?」

「あんたに何ができる?」

「うう……」

 フレアは萎縮しっぱなしであった。シェイドは睨みっぱなしであった。

 そんな二人に、セレネは声を掛ける。

「誰か来るみたいですよ」

 立ち上がって怪しく笑う。

 シェイドも興味深そうにニヤついた。

「ああ、あいつか」

「誰?」

 フレアが尋ねると、シェイドは含み笑いをした。


「こんな現場に寄り着く人間はそんなにいないだろ」


 慌しい足音が聞こえだす。

 すぐに姿が分かる。

 ウェーブがかった黒髪の少年だ。


「クロス君!」


 フレアの笑顔が輝いた。手を振って歓待を示す。

 しかし、クロスは振り返さない。険しい表情を浮かべている。

「……フレア、どうしてそいつらと行動を共にしていたんだ?」

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