迷宮探索へ~班作り~

 フレアとブライトは帰宅すると、執事たちや侍女たち、そして両親から大歓迎された。両親は夕飯を食べずに待っていたという。

 その日の夜は、フレアの学園生活の話題で盛り上がった。両親とブライトは時に心配そうに、時に笑いながら聞いていた。

 ひととおり話し終えたら疲れがドッと押し寄せた。フレアは温かな風呂に入った後で、穏やかな気持ちで眠りにつく。

 幸せな夜を過ごした。


 朝になる。登校時にブライトが一緒に来てくれた。その間も笑顔と会話はたえなかった。

「今日も楽しいといいわ」

「そうだね。でも無理はしないでね。それじゃあ僕はこの辺で。念のために魔術学園をパトロールして来るよ」

「分かったわ。気をつけてね!」

 フレアとブライトは校門前で別れた。

 今日は特別実習があると聞いている。

 校門前に集合したら、移動となる。


 魔術学園グローイングから少し歩いた所に、草原がある。草は伸びたい放題に伸びており、誰も手入れをしていないのが一目瞭然だ。

 そんな草原に上級科の生徒たちが集められた。

 イーグルが咳払いをする。

「おまえたちには班に分かれて迷宮探索をしてもらう。様々な魔術的な仕掛けがあるが、無事に宝玉を持ち帰ってきてほしい。まずは班を組んで俺に報告しろ。単独で迷宮に入る事は認めない。班を組まない者は問答無用で0点とする」

 イーグルはローズを一瞥した。

 ローズはムッとしていた。

「なんで単独で入ると0点ですの!?」

「いろいろ理由はあるが、スタンドプレーをやめさせる意図がある。スタンドプレーは周りを危険に晒すからな。独自の判断が必要となる場面はあるだろうが、スタンドプレーをやらない癖は早いうちに身につけさせたい。班ごとに一つずつ救助用アイテムを渡す。どうしても宝玉を持ち帰れないと思ったら必ず使用するように。くれぐれも迷宮を壊すような無茶をしないように」

 イーグルの目元には隈が浮かんでいた。心労で眠れなかったか、寝る間もなく報告書を書かされたのだろう。

 フレアは肩をすくめた。


「今度こそ何も壊さないようにしなくちゃ」


「気にしすぎる事はない。大変だと感じたら救助用アイテムを使えばいいだけだ」


 隣からクロスが話しかけた。

「宝玉を見つけるのは苦労するだろう。できたら運が良かったと思うようにしよう」

「ありがとう、無茶をしないようにするわ」

 フレアは胸をなでおろす。クロスがいれば安心だと思えた。

 緊張がほぐれて、自然と朗らかな雰囲気となる。

 そんな雰囲気をぶち壊す高笑いが響き渡った。ローズが草を踏み分けて来た。

「あらあら、早くも諦めるなんてお幸せですわね」

「俺たちは無理をしないつもりだ。宝玉探しを本気でやるなら、もう班を組んで迷宮に出発するべきではないのか?」

 クロスが指摘すると、ローズの高笑いの勢いが鈍る。

「は、班なんて簡単に組めますわ! 迷宮の入り口が分からないなんて事もありませんし」

「そうか、組んでくれる人がいたのか。良かったな」

「あ、あまりに使いものにならないからお断りしましたの。あなたたちはこの私と組めますのよ。幸せでしょう」

「意識が違うから遠慮する。他を当たってくれ。イーグル先生に報告に行こう、フレア」

 クロスがフレアの右手を引っ張ると、ローズはフレアの両肩をガシッと掴んだ。

「簡単には行かせませんわ。どうしても二人でデートをしたいのなら、この私を倒してからにしなさい」

「で、デートというわけじゃないよ。他に組んでくれる人がいないと思っているだけだから」

 フレアはうつむき、頬は赤らめた。

 ローズはこれ見よがしに高笑いをあげた。


「あら、お気の毒に! この私がいればデートなんて吹聴されずにすみますわ。さあ班を組みましょう!」


「……他の人が組んでくれなかったのなら、初めにそう言え」


 クロスが淡々と言うと、ローズの表情が露骨に暗くなった。

 肩を落とし、目じりが下がっている。日頃は強気な態度を崩さない彼女が、明らかに落ち込んでいた。

「みんな私の美しさと才能に嫉妬しているのですわ」

「おまえの態度に嫌気がさしたのだろう。俺だって組みたくない」

「ダイレクトにおっしゃらないでくださる!? 傷つきましたわ!」

 ローズが顔を上げて騒ぐ。

「完璧美少女の私に無礼を働くなんて、クォーツ家が黙っていませんわ!」

「おまえの暴言には辟易している。自分を立てたり家名を自慢するのは構わないが、他人を見下す言動は控えた方がいい」

「正当評価をしているだけですのに……」

「言っていい事と悪い事がある。おまえの才能は一目置かれるものがあるが、かすんでしまう。まずはフレアに言うべき事があるだろう」

 ローズはフレアの両肩から手を放し、一歩離れる。腰に手を当てて胸を張り、尊大な態度を崩さないように心がけているようだが、表情は暗いままだ。

「ちょっと言い過ぎた時もありましたわね」

「うん、大丈夫だよ。私もホーリー家の恥とならないように頑張るよ」

 フレアが微笑みかけると、ローズの瞳が揺らいだ。

「あなたにも家系を誇る気持ちがあったのですわね」

「ローズの方がすごいけどね」

 すごい。

 フレアがこの言葉を発した時に、ローズの頬が目に見えて赤くなった。

 口元に片手をあてて高笑いをする。


「私の力はこんなものではありませんの! 迷宮探索で披露してあげますわ!」

「すごいわ!」


 フレアは頷き、クロスは呆れ顔になった。


「迷宮探索であまり大きな力を発揮しない方がいいと思う。イーグル先生の胃の為にも」

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