緊急報告

 魔術学園グローイングの学園長室は緊張に包まれていた。

 先ほどイーグルから緊急報告を受けた。

 フレアという少女がクリスタルを壊したと。

 何百年と強力な魔術を受けても、静かに魔力特性を示してきたクリスタルが、たった一人の少女の魔力で滅んだのだ。

「……恐るべき才能じゃ」

 白髪の学園長グリームは豊かな白い髭をいじっていた。考え事をする時の癖である。

 その癖を見ながら、十文字槍を背負う金髪の青年が笑った。

「フレアにそれほどの才能があったのですね、素晴らしいです」

「笑っている場合ではないぞ、ブライト。犯罪組織ドミネーションに取り込まれれば、厳重な対処を求める。その制服とバッジに恥じない働きをしてもらいたい」

 グリームにたしなめられて、青年ブライトは肩をすくめた。ブライトが身に着けているのは濃紺の警備服で、世界警察ワールド・ガードの制服である。左胸に太陽を模した金色のバッジがついている。


「フレアがドミネーションに加わる事はないと思うのですが……」


「奴らは力を求めている。自らの力を制御できない聖女など、恰好のターゲットじゃろう」


 グリームの口調は苦々しい。

「奴らのせいで素晴らしい生徒たちが何人も道を踏み外した。犯罪組織ドミネーションの影響力を侮るべきではない」

「おっしゃるとおりです。心得違いをしていたのは僕の方ですね」

 ブライトは深々と一礼した。

「謝罪すると共に気持ちを入れ替えます」

「そこまで畏まらなくて良い。任務の重大性を理解してくれればな」

 グリームは天井に向けて溜め息を吐く。

「幸い大きな力を持つ人間は他にもいる。クロスという少年だが、フレアの暴走を止めたらしい」

「それは心強いですね! 彼が同級生にいれば大丈夫でしょう」

 ブライトの笑顔は輝いていたが、グリームの表情は険しい。

「そうだな……犯罪組織ドミネーションに取り込まれる事さえなければ」

 グリームは窓の外に目をやった。

 美しい夕焼けと学術学園グローイングを一望できる。夜の訪れは近いだろう。

「奴らは夜に活動する者が多いと聞く。表立った動きだけではないだろう。いつ、どこで待ち構えているか分からない。くれぐれも油断しないようにしてほしい」

「分かりました。気を付けます。それでは僕はこのへんで」

 ブライトはお辞儀をして部屋のドアに手を掛ける。

「そういえば、クリスタルの弁償はどうしましょうか?」

「学生に賄えるものではない」

「では、ホーリー家に?」

 ブライトの提案に、グリームは期待の眼差しを向ける。

「できるのか?」

「無理ですね」

 ブライトは苦笑して誤魔化そうとするが、グリームのジト目に耐えきれず真摯に一礼した。

「ホーリー家の長男として監督不行き届きを猛省いたします」

「いろいろ苦労を掛けるが、フレア・ホーリーの身柄が奪われないようにする事を最優先にしてほしい。もちろん、君の命も」

「お気遣い感謝いたします。それでは」

 ブライトは歩き去った。


 しばらくした後で、グリームは髭をいじりだす。


「……クリスタル以外のものは無事ですむかのう」

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