第40話 温泉でのんびり-うちに帰ろう 【第二部完】
温泉の大浴場につかるクラウス。
「これは気持ちいいなあ-」
お湯につかるツェン・ロンがそれに答える。
「そうだろー、気持ちいいんだよなー」
ツェン・ロンはクラウスの身体のいくつもの傷跡に気がついた。
「その傷跡、みんな戦場でのものなのか?」
「ああ、もちろんそうだ。そのうちの三つはノエルにつけられた傷だけどな」
クラウスは苦笑しつつ、傷を指差していく。
「頬の傷は一戦目、脇腹のが二戦目、二の腕のが三戦目」
ツェン・ロンが驚いて傷を目で追っていった。
「四戦目から六戦目までは傷は負ってないぞ」
クラウスはニッコリ笑うが、ツェン・ロンは信じられないというような顔をする。
「そんな女と、結婚できるのか……?」
「別にノエルを憎んで戦ってたわけじゃないし、戦争だったからなあ」
「そんなもんなのか……」
まだ信じられないよう表情をツェン・ロンは浮かべた。
入り口から、巨漢のチャン・ダーウェイも入ってきた。
「おでも入るよー」
ドブーンとお湯が一気に外へ出て行った。
隣の女湯では、フローラがセリア、クロエの背中を流してはしゃいでいる。
「うわー、背中のホクロの場所まで一緒!」
フローラが双子の背中を見て声を上げる。
のんびりと湯船につかっているノエルに、ジルが近寄っていく。
「ノエル-、まだ見せてないらしいねー、いいの、そんなことで?」
そう言いながら、ノエルのおっぱいを触ろうとする。
「こんなに立派なおっぱい、使わなきゃ損じゃなーい?」
「ジル姉、心配は不要だ。わたしたちは、おっぱいの関係ではないから」
「フーン、男は男よーん」
入り口から、ホン・ランメイがやってきた。
タオルで隠してはいるが、胸は貧乳。
「なんだ、お前らも来てたのか?」
「あーら、ランメイ、あいかわらず、ぺったんこねー」
「う、うっせー、胸がデカけりゃ、スピードが落ちるだろうが。わざとなんだよ、このサイズは」
ノエルがニヤリと笑う。
「ランメイ、それはすごいな。どうすれば胸を小さくできるか、教えてくれ。わたしも、もっと突きのスピードを上げたいのだ」
「う、うるせー!」
「リン家にはおっぱいを大きくする秘伝はあるが、小さくするのは無理なんだ」
ホン・ランメイの顔色が変わった。
「な、なに?、そんな秘伝があるのか?」
ノエルとジルは、でっかいおっぱいを湯船に浮かべつつ、二人でニーと笑った。
「教えろー!」
「リン家の男に嫁いで槍を学ぶなら教えてやらぬでもないが」
ノエルはニヤニヤとホン・ランメイを見た。
「もったいつけなくてもいいだろうが!」
そんなやりとりが、男湯に聞こえている。
「なんだかんだ言って、みんな、仲いいんだな」
クラウスが、感心したように言った。
「まあ、生まれたときから、みんな一緒だからなあ……」
ツェン・ロンは少し寂しそうに言った。
出発の日となり、里へ出入りするトンネルを抜けたあたりで、一同は別れを惜しんでいた。
「アニキー、昨日の宴会も楽しかったな!、この酒、みやげに持ってってくれ!」
ツェン・ロンは二日酔いで真っ青な顔のクラウスに大きな酒壺を手渡した。
「……ありがとう、ロン」
ツェン・ロンはクラウスの目をにらんで言う。
「次は、負けねえ」
「そうか、楽しみにしてるぞ」
ツェン・ロンの視線を跳ね返すようにクラウスは言った。
フローラとセリア、ノエルが抱き合って泣いている。
「フローラ、ここで暮らそう!」
「帰っちゃいやー」
「あたしも残りたーい……」
ツェン・ロンが息せき切って駆けつけてきた。
「そうか、では、ツェン家総帥の嫁と言うことで……」
セリアとクロエが血相を変えてツェン・ロンをボコボコに殴りつけた。
「ノエルー、今度もおみやげ、よろしくー。あのリンゴのサクサクして甘いの、おいしい」
チャン・ダーウェイがよだれを垂らしながら言った。
「アップルパイだな。覚えておこう。次は、もっと、いっぱい持ってくるからな」
ノエルはニッコリと笑って見せた。
「チェッ、勝ち逃げかよ」
ホン・ランメイが背後から吐き捨てるように言った。
「言っとくが、今、六勝五敗、勝ってんのは、あたしだからな」
悔しそうな顔でノエルをにらみつける。
「次は、ああはいかねえ。必ず勝ってやる」
「そうか。だが、わたしは、まだまだ強くなるぞ」
「また、やろうぜ」
「ああ、やろう」
二人の視線がぶつかって火花を散らした。
「もう、帰っちまうのかい……」
母デボラが少し寂しそうにノエルに声を掛けた。
「母上、留守中、リン家を頼みます」
「総帥ったって、たいしたことしてないんだから、いてもいなくても変わらんよ」
「ははは……」
ノエルは図星を突かれて苦笑せざるを得なかった。
近寄ったクラウスがノエルに声を掛けた。
「ノエル、そろそろ行くぞ」
「結婚式には、呼んどくれよ」
「もちろんです。みんな招待しますよ」
クラウスの言葉に、ノエルは嬉しそうに笑った。
アレットの運転する馬車の中からフローラが小さくなっていくセリアとクロエに手を振っている。
馬車の前をクラウスとノエルの乗る二頭の馬が走る。
ノエルがクラウスの方を向いた。
「さあ、帰ろう、わたしたちの家に」
クラウスは嬉しそうに笑った。
「ああ、うちに帰ろう」
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