第39話 槍姫vsホン家総帥


 屋外で円形の柵で囲まれた一族の闘技場、中央でノエルとランメイが槍と矛を持ち対峙している。


 柵の外には観客が二重、三重にも囲んでいる。

 最前列には四家の長老達、チャン・ダーウェイ、さらにクラウスとツェン・ロンが並んで立ち、中央の二人を見つめている。


 ホン・ランメイが矛を構えながら凶暴な笑いを浮かべる。

「二年ぶりだなあ、ノエル。少しは強くなったか?」


 ノエルも槍を構える。

「ああ、昔のわたしとは思わぬことだ」

「はあーん?、そいつは楽しみだなぁっ!」


 そう言うやいなや、ホン・ランメイは大上段に矛を振りかぶり、体重を乗せて全力でノエルに叩き込む。

 ガシッ、ノエルは両手で握る柄の中間で受け止める。矛は素早く振り戻され、二度、三度、と同じ軌道で叩き込まれていく。


 ツェン・ロンは戦いを見ながら、隣のクラウスに説明していく。


「ランメイの上段からの連撃、身体のバネと遠心力を使って振り下ろされる。だから、重い」

 クラウスは改めて矛の動きを見る。矛は大きな弧を描いてノエルに振り下ろされている。

「なるほど……」


「いつも、あれで態勢を崩されてスキができ、そこをつかれる」


 クラウスが不思議そうに矛の打撃を受け続けるノエルを見る。

「そんなふうには見えないが……」

「たしかに……」

 ツェン・ロンも驚きの表情で戦いを見た。


 打ち続けるホン・ランメイに焦りの表情が現れ始めた。

「なぜ、崩れぬ……」

「どうした、ランメイ。剣帝の斬撃はもっと重いぞ」


 ノエルは余裕の表情で柄で受けた矛を力強く押し返す。

「くっ!」

 身体がバランスを崩した瞬間、高速の突きがシュッシュッシュッと連続して顔を襲う。

「ちっ!」

 必死でかわすが、最後の一突きがシュッと頬をかすめた。


 ツェン・ロンが驚きの表情で、その突きを見ていた。


「あの突き、以前より速い!」

「そうか?、いつも、あんなもんだが……」

 クラウスは視線を戦いに向けつつ、不思議そうに平然と答えた。


「くそっ!」

 ランメイは再び大上段から矛を打ち下ろすが、ノエルは身体を横に反らして打撃をかわし、下に向かう矛の柄に槍を振り下ろして上から叩きつける。

 

 叩かれた矛の刃が地面に接した瞬間、槍の柄で矛を押さえたまま、ノエルはタンッ、と地面を蹴って前に進む。


 槍の柄は矛の上をこすらせて前に進んだ後、方向を変えて穂先がランメイの顔に向かっていく。


 真っ直ぐに眉間に向かう穂先を見て、ホン・ランメイの目は恐怖に見開かれる。しかし、当たる寸前で槍はピタリと止まった。


「取ったぞ、ランメイ」


 目を見開いたまま、ランメイの腰が下がり、尻餅をついてヘタッと地面に座ってしまった。


 ノエルはそんなランメイを見下ろす。

「これで、心置きなく結婚させてもらうぞ」


 ノエルはクラウスの方へ歩いて去って行った。 

 クラウスは笑顔で近づいてくるノエルに話しかける。

「最後のは俺のマネか?」

 ノエルはフフッと笑う。

「発想を借りただけだ」


 二人は笑顔で会話を交わしながら去って行こうとするが、ホン・ランメイが呼び止めた。

「ま、待て!、まだ日は高い、やろうぜ!」


 ノエルは振り返って、冷たい目でホン・ランメイを見る。

「やらん。明日には出発してガリアンに戻らねばならない。忙しい」

「なにか他にないのか、あたしが反対できるような議案は?」

「はあ?」


「例えば、新婚旅行で長期休暇を取りたいとか、総帥にも育児休暇を、とか。そしたら、全力で反対するから、またやろう!」

「やらん。そんな議案はない」


 ノエルは冷たく言い放ち、クラウスと共に闘技場を後にした。

「さて、帰って出発の準備だな」

 クラウスはノエルを見ながら言った。


「それから、今夜は送別の宴会だ」

「……また飲むのか?」

「当然だ」

 クラウスは力なく、ハハハと笑った。


 ツェン・ロンが後ろから走ってきた。

「アニキー、まだ、温泉行ってないだろ?、宴会前に一風呂浴びようぜー」


 クラウスは不思議そうにノエルを見る。

「温泉?」

「ああ、地面からお湯が湧き出すところに作った浴場だ。そうだな、ガリアンにもタルジニアにもないから、みんなで行っとくか」

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