第26話 剣と槍の舞


「お兄様……、ノエルさん……」

 心配そうに固まり続けるノエル達を見ていたフローラは何かを思いつき、会場を見回しアレットを探して、目立たない壁際に立っていた彼女に駆け寄っていく。


 フローラから耳元でヒソヒソとささやかれたアレットは、うなずいて足早にその場を離れていった。


 催促の拍手と歓声の中、クラウスは固まり続けているノエルに話しかける。

「どうだ、できるか?」

「愚問だ。無理」 


「ノエル様、クラウス様!」

 アレットの声が響き、二人に剣と槍が投げられた。廊下に装飾用に飾られていた甲冑が持っていた剣と槍だった。


 受け取った二人は、アレットの意図を理解した。

「やるか?」

 クラウスは笑顔でノエルに問いかけた。

「いいだろう、いつも通りにな」

 二人は広間の中央に進み出た。


「それでは皆様に、我らにふさわしい舞をご披露いたしましょう」

 クラウスは大声で聴衆に言うと、二人は剣と槍を構えた。


「なにを始めようってんだ……?」


 心配そうに二人を見るイエルクに、その場に戻ってきたフローラが自信満々の表情で答える。

「大丈夫です。いつものことですから」

 イエルクは不思議そうにフローラを見た。


 カチン、剣と槍の先端を合わせて打ち合いが開始される。

 カン、カン、カン、真っ直ぐ突かれる槍をはじく剣、振り下ろされる剣を受ける槍、そのたびに金属音が響き渡る。

 音の間隔がドンドン短くなり、リズミカルになっていく。 


 滑らかな身体の動きで槍を操作するノエルの姿が舞っているように見え始めた。

「おお……」

 驚きを持って見始めた聴衆の口から、徐々に感嘆の声が漏れ始めた。 

 

「あいつら、いつも、こんなことやってんのか?」

 イエルクがフローラに尋ねた。

「ええ。ただ、今日はいつもより多めに回ってます」

「えっ?」 

 ノエルは身体全体を右に左にと回転させて、槍でクラウスを打ち据えようとする。

 そのたびに、スカートの裾が円を描いて、きれいに広がり回転する。いつの間にか髪留めが外れた長い黒髪も身体の動きに合わせて、円を描いて広がっていく。


「きれい……」

「美しい……」

 聴衆も魅了され、それを表す言葉が漏れ始めた。


 イエルクは真剣な表情で、じっとクラウスの剣の動きを追っていた

「速いな……」

「えっ?」

 フローラが不思議そうにイエルクを見上げた。


 カーン、クラウスの顔を狙った突きがかわされ、剣が下から大きく、槍を跳ね上げて宙に飛ばした。


 垂直に落ちてくる槍の柄をクラウスが掴むと同時に、ノエルはスカートを両手で軽く持ち、少しかがんで頭を下げる。

 終了の合図だった。

 

 聴衆から、ワーと言う歓声と賛辞の声が上がった。

「いいぞー、剣帝!」

「さすがだ!」


 クラウスとノエルはルーク王子とサンドラ王女のいる方に頭を下げて挨拶しつつ、小声で会話を交わす。

「お前、最後のあれ、わざとだろ?」

「ここにいるのは、お前の上司と部下。花を持たせた。内助の功と言うやつだ」

「そうか」

 クラウスは面白そうにフッと笑った。


 ルーク王子とサンドラ王女が拍手しながら話しかける。

「素晴らしい剣と槍の舞だったが、次は普通のダンスも見せてくれ」

「結婚式では踊ってね、楽しみにしてるわよ、ノエル」


 かしこまって頭を下げながら二人の顔が赤く染まった。

「結婚式……」

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