死神はFF外から失礼する~有名になりたい男~

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今回のブラックユーモア焙煎度

苦味:★★

フルーティーさ:★★★

軽さ:★★★★

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何の取柄もないどこにでもいる平凡な若い男。

彼は死んでも有名になりたかった。

今日も有名になりたいという野心を燃やしつつ、コンビニのレジ打ちを終え帰宅する。


そして、1000回目の有名になりたいツイートを投稿。


『僕は死んでも有名になりたい』


すると「FF外から失礼します」とリプライが届いた。


人生ではじめてのリプライに思わずテンションが高まる彼。


「有名になりたいなら。ここへ行ってみてください。この祠でお願いをすると夢が叶うそうですよ」

地図と祠の写真が添付されている。


なんだこれ?

怪しむ彼。リプ主のアカウントを調べてみる。


異沢 奈未

@izawa_nami


フォローもフォロワーも0人。

何のツイートもしてない。

そして長い黒髪の女のアイコンと画像。


「女の人……」

童貞の彼は女の人に対する免疫など持ち合わせていないので「ワンチャンあるかも」などとあらぬ妄想を膨らませた。


地図の画像をもう一度見る。

ここからそんなに遠くない。


明日はコンビニのバイトも休みだ。

気晴らしに行ってみようかな。


彼はリプに返信をする。


「ありがとうございます。明日その祠に行ってみます」

「もし、道中迷ったら連絡ください」


童貞の彼は返事が返ってきた嬉しさのあまり、その日は興奮してなかなか寝付けなかった。



日曜日。

彼は地図の場所へと向かった。

有名になりたい野心と、ちょっとばかりの長い黒髪の女に対する下心と共に。


電車で片道1時間。

その祠は山を登った先にあるようだ。

彼は長い黒髪の女に連絡する。


「今、山の入り口に着きました」

「祠は道なりを真っ直ぐ進んだ吊り橋の先にあります。お気をつけて」


誰もいない山道を地図を見ながら進んでいく彼。

普段コンビニのレジ打ちと品出ししかしていないので、山登りは辛かった。

だが、野心と下心が彼を突き動かし一歩一歩、山を登っていく。


しばらく行くと吊り橋が見えてきた。


下を覗き込む彼。

木々が生い茂り、落ちたらひとたまりもない高さだと分かり、背筋がゾクッとする。

彼はなるべく下を見ないよう遠くを見つめて、なんとか橋を渡り切る。

ここを渡れば祠はすぐそこだ。


吊り橋を渡り終え、山道を少しそれた木々に囲まれた場所。

そこに木でできた小さな祠があった。

古びたボロボロの祠で今は誰にも管理されていないようだ。


さっさそく彼は長い黒髪の女に連絡する。

「祠がありました。さっそく有名になりたいとお願いします!」

「死なずに無事にたどりついたんですね。よかったです。ではその祠に貼ってあるお札を剝がして中を開け、お願いしてください」


お札を剥がす! そんな事をしていいの?


「あの、お札を剥がしてもいいんでしょうか? 罰があたったりしませんか?」

「大丈夫です。さすればあなたの願いが叶いますよ。さっさとやって下さい」


彼は言われるがままにお札を剥がし中を開ける。


すると一瞬、風が吹いて黒い何かが飛び出たと思ったが……中は空っぽ。辺りを見渡しても何もない。気のせいか。と思った。


彼は気を取り直して手を合わせて目をつむる。


「どうか有名になれますように。それとリプ主の異沢 奈未といい感じになれますように」


彼は声を大にしてお願いした。

祠の扉を閉めて帰ろうと思ったが、壊れてしまったのか、閉める事ができずそのままにしてその場を立ち去った。



帰り道。

吊り橋の真ん中に人が立っていた。


誰かいる! 彼は思わず身構え吊り橋に立つ謎の人物を注視した。


長い黒髪に白いローブ、後ろ姿しか見えないが女性と判断できる。


「あの長い黒髪は……もしや!」


リプしてくれた異沢 奈未だ。僕の願いが通じて会いに来てくれたんだ。そうに違いない。


彼は長い黒髪の女の元に急いで駆け寄る。

脳内はドーパミンで満たされ、足取りはドラマのワンシーンのようにスローモーションに感じていた。


「なっふぅぅぅ!」


長い黒髪の女の目の前で吊り橋の床が抜けた。

彼は上半身だけ挟まり、下半身は宙に投げ出されている状態になった。


両腕に力を込めて這い上がろうとするが、この態勢では力が入らず無理だった。

誰かに引き揚げてもらう他なかった。


「たったったたすけて~」


彼は情けない声で助けを求める。

長い黒髪の女は彼を振り返った。


肌は白く目鼻立ちが整った顔。それと死へと誘うような甘い香り。

長い黒髪の女は生命が奪われてしまうような異常な美しさを秘めていた。


「あああの、……なにしているんですか」


長い黒髪の女は彼を助けるのではなく、スマホを片手に撮影し始めた。


「あの、撮ってないで早く助けてください」


無言で撮影を続ける長い黒髪の女。

彼は腕の力が抜け始め限界が近づいており、挟まっている木の板もピキピキと音を立て裂け始めた。


「早く助けて!死んじゃいますよ」

「あら、あなた死んでも有名になりたいんじゃなかったの」


長い黒髪の女は低い男の声で喋った。


「男!?」

「男じゃないわよ。女でもないけど」

長い黒髪をかけ上げ、ニヤリと微笑み。


「嘘だ! オカマだなんて! ひどい! 童貞の僕を騙して弄んだんだ」


「なに人聞きの悪い事を言っているのよ。騙していないわ。あなたが死ぬところを動画でアップして、有名にしてあげようとしているじゃない」


長い黒髪の女は低い男の声で喋りながらも撮影を続けている。


「そんなことで有名になんてなりたくない!!」


彼は大声で泣きながら叫ぶ。

その瞬間、木の板は完全に裂け、彼は真っ逆さまに落下していく。


「前言撤回するなんて、あなた玉無しね」

そう呟くと長い黒髪の女は撮影を止める。そして落下していく彼に向って大声で叫んだ。

「じゃあどういう風に有名になりたいの?」


彼は落下しながら大声で叫ぶ。


「顔バレせず世間で騒がれる。そんな有名人になりたいです!」


彼は木々の間に落ちていき見えなくなった。


「なにそれ? めんどくさいわね。まあいいわ。お望み通りあなたの言うとおりにして・あ・げ・る」



『~○○市の山で身元不明の遺体発見~』

『去年10月、登山者が吊り橋の下で人骨を発見し警察に通報しました』

『発見されたのは、身長160cm、20代以上の男性とみられる頭蓋骨と大腿骨などです』

『死後、10年以上が経過しているそうです』

『身元が特定できるのもは何一つ身に着けておらず、警察は情報提供を呼びかけています』

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