「20231231」

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今回のブラックユーモア焙煎度

強い酸味:★★★

フルーティーさ:★★

スパイシーさ:★★★★

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4歳になる私の娘、千夏はとてもお喋りだ。

「ママきいて」からはじまり、延々と喋っている。


新しい言葉を覚えるとすぐに使いたがった。

こうやって成長していくのね。とわが子の成長をしみじみと噛みしめる。



それは千夏と公園に向かっている途中だった。


「いぬ「ねこ」「くるま」「しんごう」と娘は目に入るもの、すべてを列挙してくる。

「千夏ちゃん、ほんとおしゃべり好きだよね」私は言うと

「すきー」と満面の笑みを浮かべる。


「20220621」


急に千夏が数字を口にした。

「あら、千夏ちゃん。数字、言えるようになったのね」

「うん。20220621」


どこかにそんな数字が書いていたのかな。

その時の私はあまり気にもせず、数字が言えるにようになった千夏を誇らしく思っただけだった。


でも、千夏はあれから、よく数字を口ずさむようになっていた。


「20220604」

「20220711」

「20220824」



「20220918」

今日もテレビに夢中になりながら千夏は数字を口ずさんでいた。

「千夏ちゃん。よく数字を言ってるけど、それなんの数字?」

私は気にって千夏に聞いた。

テレビを見ていた千夏は私を振り返る。

「うーん。わからない」と首をこくりと横に傾けてそっけなく答える。


「ふーん。そう。じゃあ、どこで見たの?」

「みえるの」


千夏をテレビを指さした。

「……見える? 数字が?」

「うん」

千夏をそう答えると、私に背中を向けふたたびテレビに夢中になった。


テレビでは歌のお兄さんとお姉さんが、子供たちと楽しく踊っている。

数字なんてどこにも映っていなかった。


数字が見える……。うーん、わからん。

子供の世迷言。私はそう解釈して深く考えなかった。



そんなある日。


「20221113」

「おや、千夏ちゃん。数字を覚えたのかすごいな」

この日はおじいちゃんとおばあちゃんが家に来てくれていた。


千夏はクレヨンで絵を描きながら「20221113」と口ずさむ。


「おおーすごい、すごい」

おじいちゃんとおばあちゃんは千夏に拍手をする。


「そうなのよ。この子、最近変な数字ばっかり言うのよ」

私は洗い物をしながら、振り向いて言う。


「20221113」


洗い物を終えた私は手をふきながら居間へと戻った。


「できた」


千夏は書き上げた絵を私達に見せる。

「これはおじいちゃでしょ。そしてこれがおばあちゃん。そしてこれが、ちかとママ」

千夏は人の形をした楕円をそれぞれ説明する。


「おお、上手じゃの。ところで、この数字はどういう意味なんじゃ?」


千夏が描いたおじいちゃんの絵。

その頭上に20221113という数字が書かれていた。


「みえるの」


千夏をそう答えて、おじいちゃんの頭上を指さす。

みんなそこに注目するが何もない。


私達は顔を見合わせてしばらく沈黙する。


「おばあちゃんには見えないの?」


おばあちゃんが自分の頭上を指さして言う。


「うん。みえない」

「ママには?」


私はきくが「みえない」と同じく答えた。


「日付かしら」

おばあちゃんは、じっと絵を見て答える。

「おおーなるほど。20221113。2022年11月13日というわけか」


確かに。今まで口ずさんでいるときは日付と思わなかったけど、文字で書くとそれは日付に見える。


2022年11月13日。


それは今日から一週間後だった。


「なんじゃろうな。なにかいいことがあるのかな」


おじいちゃんはにっこりとほほ笑む。



だが、いいことはなかった。

2022年11月13日。おじいちゃんが亡くなった。

心臓麻痺だった。



千夏が見えるという数字はその人が死ぬ日付だった。



私もおばあちゃんもあの事は誰にも言わず秘密にした。

私は千夏にその数字を人前で言わないこと。と強く言いつけた。

千夏はあの数字が悪いものと認識して言わなくなった。

でも、それと同時にしゃべる回数も減った。



2023年1月1日。

年が明けた。



「千夏ちゃん。今日、公園にいく? 千夏ちゃん。千夏ちゃん聞いてる?」

千夏は下を向いており返事に答えてくれない。今日はいつになく元気がなさそうだった。


「千夏ちゃん」


私は顔を覗き込むように見る。

すると千夏がポロポロと涙を流し始めた。


「どうしたの。千夏ちゃん」私は心配そうに聞く。

「ごめんない。ごめんない」と千夏は言いながら「ママにも……すうじがみえるの」と言う。


ドキっとしながら私は聞いた。


「……いつなの? いえ、なんて数字なの」


「20231231」


2023年12月31日。


あと一年ほどで私は死ぬ!?


「それと」千夏は鏡の方を指さした。

そこには千夏と私が映っている。


「まさか」


私は背筋が冷たくなるのを感じた。


「ちかにも、おなじすうじがみえる」


私は千夏を強く抱きしめた。

涙が止まらなかった。



この子はあと一年ほどしか生きられない。

私も同じ日に死ぬ。

何か事故に巻き込まれるの。

どうやったら防げるの。

どうしたらいいの。

一日中そんな事を悶々と考えて、落ち込んでは涙を流すの繰り返しだった。

そして泣き疲れて千夏と一緒に寝た。


次の日の朝。


このまま悲観してはダメだ。気を取り直そう。私はそう思い千夏に話しかけた。


「千夏ちゃん。今日は公園へ行こう。そして、千夏ちゃんが好きなもの食べよ」

「うん。いく」


千夏は元気に答えてくれた。この子なりに気を使ってくれているのかもしれない。


「あとね。千夏ちゃんが見える数字。あれ、言ってもいいよ」

「いいの?」

「うん。いいよ。ごめんね。数字が見えても我慢させて。千夏ちゃんには悪いことしたね。千夏ちゃんが見える数字、これからママにも教えて」

「わかった」


笑顔で答えた千夏を私は抱き寄せた。


人はいつか死ぬ。

それが迫ってくるのが分かると恐怖する。

私は日を追うごとに怖くてどうしようもなくなるのかもしれない。

でもそれまで精一杯、千夏と一緒に生きる。そう決めた。





公園に向かっている途中だった。

「ママ、あのひともおなじすうじ」

千夏はすれ違った人を振り返り言った。


「えっ?」


私も後ろを振り返り、その人を見る。

もちろん私には数字なんて見えない。


「私と千夏ちゃんと同じ数字?」

「うん。20231231」


2023年12月31日。あの人もその日に死ぬの?……偶然?


「あっ、あのひともおなじすうじ。20231231」


千夏は見る人見る人。同じ数字が見えると言う。

公園でもスーパーでも駅前でも。




「20231231」



千夏は家に帰る途中もずっとその数字を口ずさんでいた。


……2023年12月31日。


千夏と私だけじゃない……。

もしかしてみんな死んじゃうの。

みんな死ぬ……。

それなら。


……まあいいか。


さっきまで気を張っていたが、そう思うとスーッと肩の力が抜けていった。


「20231231」


千夏はまだその数字を口ずさんでいる。


2023年12月31日に何かが起こる。

いえ、もしかしたら何も起こらないかもしれない。


でも、ちょっと楽しみになってきた。

私は千夏と一緒に口ずさむ。


「20231231」

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