誰も教えてくれない

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今回のブラックユーモア焙煎度

重量感:★★★★

強い酸味:★★★

華やかさ:★★

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私の名前は伊藤 沙織。

『シークレットサイレンス』というアイドルグループとして活動している。

メンバーは有紀、美咲、 香織、早希。5人組のアイドルグループだ。


3年目でそこそこ名前も売れだしてきて、ローカルなTV番組や雑誌にも取り上げられてきた。

そして、次の曲のセンターを務める事になった私。

まさに今、絶好調の状態。そう思っていた。


でも、急にみんなの態度が変わった。


ある日の事。

ダンスの振り付けが変更になったが、私は知らなかった。

一人だけ違うダンスを踊っていて、すごく恥ずかくなった。

ねえ、なんで誰も教えてくれないの。


そしてある日の事。

ダンスの稽古の時間が変更になったが、私は知らなかった。

一人だけ遅刻してきたみたいで、ばつが悪かった。

ねえ、なんで誰も教えてくれないの。


またある日のこと。

ライブの打ち上げがあったが、私は知らなかった。

その日、私は家で一人寂しく過ごしてた。

ねえ、なんで誰も教えてくれないの。


何度も何度もそんな日が続いた。

なんで。急にどうしたのみんな。私が何かした。

ねえ、教えてよ。



全てが嫌になった。

もう、ここにはいたくない、アイドルなんてやめよう。

そう思っていた時だった。


「お誕生日おめでとう」


私の目の前にケーキが運ばれてきた。


「今日は、沙織の誕生日だね」

「えっ!」


私は面食らった。確かに今日は私の誕生日。


みんなが笑っている。でも、どこか悲しそうな顔。


「もう、沙織はいなけど。天国で見てると思ったから。私が誕生日をやろうって言ったんだ」


有紀は涙を浮かべている。


「まさか、あんな不幸な出来事に合うなんて……」


美咲が言葉を濁し下を向く。


「ねえ、沙織。私達、沙織がいなくてもちゃんとやってるよ。だから天国で応援していてね」


みんなが悲しそうに顔を伏せ肩を震わせている。


「……みんな」


そうか、気付かなかった。


「……くっ」

「……ふふ」」

「……プフ」

「くく……」


そんなに、私にいなくなってほしかったんだ。


みんな、こらえきれなくなって下卑た笑い声が漏れていた。

後ろの方でスタッフも笑っている事にも気づく。


私はケーキが乗るテーブルを思いきり蹴り上げ、部屋から飛び出した。

その日アイドルを辞めた。





今は実家の農業を手伝っている。

あの時とは違い、私は活き活きと暮らしている。

あんなところに長くいたら、今頃、私はどうなっていた事か。

考えるとゾッとする。



みんな、教えてくれてありがとう。

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