第3話 お祭りの日にあったこと

 あの日にあったことを私が知ったのは、二十日のお祭りの日から数日が経ち、三十一日まではなかった夏休みが終わった始業式の日のことです。

 この日。始業式のみの午前中で学校は終わりで、部活動も職員会議でほとんどが休み。用事のない生徒は学校に残らずに帰るようにと言われていました。


 そしていつもは学校まで娘を迎えに来る環奈かんなのお母さんの都合が悪く、環奈が歩いて帰らなければならないと騒いでいたのもあって私と環奈。先日出遅れ組で一緒だったまいの、委員会とかも何もない三人は早々に学校を後にしました。


「なんで私は自転車通学じゃないの。ギリギリダメって不公平じゃない!?」

「いつまで言ってんのそれ。たまに歩いて帰るからってなんなんだよ」

「お母さん忙しいなら仕方ない。美嘉みかの家から自転車借りて帰りなよ」

「舞、無責任なこと言わないで。その自転車私が取りに行くパターンじゃん!」


 私たちは学校では禁止されていたのですが、帰り道にある駅近くのスーパーに寄って飲み物を調達し、そこから家の方に向かって歩いている途中。あまり気にしたことはなかったのですがそこ、、の前を通っていた時です。

 電柱のところで煙草を吸っていた男の人に、「なんだ。お前らもう帰りか?」と声をかけられました。


 私は聞いた事がある声に始め中学校の先生だと思って、手に持っていたペットボトルを急いで隠したのですが、先生は先生でも小学校の時の校長先生でした。黒い上下のスーツを着た。


「校長先生」

「部活は?」

「職員会議でないでーす」

「そうか」

「先生はこんなところ、、、、、、で何してんの?」

「……」


 校長先生の黒いスーツというのは喪服で、環奈がこんなところと言ったこの場所は葬儀場前の駐車場です。

 葬儀場の向こうはお墓にお寺もあり、とても駅近くとは思えない立地だったりしますが、普段から見ている私たちには特別気にならない場所でした。

 それでも知っている人が喪服を着て、この場所にいる意味は馬鹿な私にもすぐわかりました。

 最も心臓が止まる思いをするとは思わなかったのですが……。


「お前らたっくん、、、、って覚えてるか?」


 校長先生からその名前を聞いた瞬間、自分の背筋が冷たくなったのを今でもよく覚えています。頭の中にはすれ違った時のたっくんの姿が浮かんでいました。

 隣の舞を横目で見れば彼女も顔を曇らせていて、唯一環奈だけは普通にしていましたが、それはあの時あの場所に環奈はいなかったから。


「あぁ、あの四組、、の子。あの男の子がどうかしたの?」


 環奈の言葉を聞いてたっくんは四組という人数の少ないクラスに通っていて。歳は私たちより一つか二つは下で。よくお母さんがその送り迎えをしていたなど、あの日は思い出さなかったことが一気に頭の中に浮かんできました。

 同時に嫌な予感もしていました。


「うん。先日亡くなってな。今日がそのお葬式なんだわ」

「……そうですか。病気とか?」

「いや、電車に撥ねられてな……。大変だったんだ」


 先生は言葉を濁すことも、言わないこともできたはずですが、そうはならなかった。

 きっと先生は私たちがついこないだまで六年生で、六年生の掃除の場所には四組があって、環奈がたっくんを覚えていたから話したのでしょう。

 私は頭の中が真っ白になりました……。


「嘘、ウソだ。だってこないだたっくん見たよ!? お祭りの日。環奈のマンションに行く途中ですれ違ったんだから!」


 真っ白になった頭の中とは別に口は勝手に動き、そんなわけないと否定の言葉を吐き出します。

 すれ違う私に向かってにこっと笑ったたっくんが亡くなったなんてそんなわけがないと。


「お祭りの日……? それいつだ?」

「二十日でしょ。灯籠流しの花火大会の日! 電車来なくて大変だった……ん……だから……」


 先生が言ったことと自分が言ったこと、二つが重なるのに時間はかかりませんでした。

 私はお祭りの日にどうして電車が遅れていたのか。その理由にたどり着いてしまったのです。

 それと同時にあの時のおかしさ、、、、にも気がつきました。しかし、私がおかしいと気がついた時にはもう全てが遅かったのです……。

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