第十一話「襲撃者」4/4

 ふいに痛みで目が覚めた、一体どれくらい眠っていたんだろう、まどろみの中、瞳を開ける。どうやらここはコンクリートの地面ではないようだ、柔らない布団の中にいる。

 ・・・でも、どこの部屋だろう?、病院でもなく見覚えのない場所だった。


「起きたかしら?」


「織原・・・・・さん?」


「正解よ、進藤さん」


 布団に入っている私に話しかけてくれたのは織原さんのようだ。目の前に現れた織原さんは天使ような笑顔で、無事に意識を取り戻した私を歓迎しているようだった。


「ここはどこですか?」


「ここは事務所の上、私の私室よ」


 それを聞いて安心した。こんなことになるとは思わなかったが、どうにか生きているようだ。



「赤月さんは、赤月さんは無事なんですか?!」



 私は大事なことを思い出して反射的に体を起こしながら問いかけた。


「大丈夫、病院に運ばれて、さっき電話もかかってきたから」


「そうですか・・・、よかった」


 とりあえず何があの後あったかはわからないが、赤月さんは無事なようだ。


「何か飲み物持ってくるから、そのままそこにいて」


 織原さんは優しく寝かしつけるように言った。


 しばらくして織原さんがやってきて体を起こした私にホットミルクの入ったカップを手渡してくれた。私は感謝しながらそれをゆっくりと飲んだ。


「おいしい・・・、ありがとうございます」


「もう、落ち着いた?」


「はい、なんとか、もう朝なんですね」


 カーテンは閉まっていたが、光が漏れていてすでに日が昇っているのがわかった。


 あの後、意識を取り戻した赤月さんが織原さんと救急車を呼んで、病院に行ったのち、診察の後、私は軽傷だったため織原さんは私をここまで連れてやってきたのだと教えられた。

 赤月さんはそのまま入院したようで、無事意識も取り戻して、本人談では一週間ほどで退院できるそうだ。


「蓮くんは無茶ばっかりするけど、悪運は強い方だから、こういうのは一度や二度じゃないのよ」


「いえ、怪我をしている時点で運がないと思いますけど・・・」


 そう言う私に織原さんは”そうかもしれないわね”と笑って答えた。


「犯人が置いていったナイフから何か分かればいいのだけど、そう甘くはないでしょうね、あの手の人間はなかなか足取りが掴みづらいから」


 それを聞いて、まだ安心できる段階ではないのだと気づかされて怖くなった。


 早くなんとかしなければ、そう思ったが現状出来ることは多くなかった。



葛飾蓮舫かつしかれんほう は後部座席に乗ると座席に倒れこんだ。スタンガンを受けた痺れがなかなか取れず身動きが出来なくなった。


「仕留めそこなったわね、こんなに苦戦するなんてあなたらしくない、小娘一人殺すのに二度も失敗するなんて」


 運転席に座る塚原杏理つかはらあんりは車を走らせながら葛飾に言った。塚原は仕事着の白衣ではなく私服姿で仕事の時とはまた違った雰囲気が伺える。


「家まで送るからそこで寝ないでよ、私は明日も仕事なんだから」


 葛飾は虚ろ眼でうめき声を上げて塚原の言葉をじっと聞いていた。


「記者の男も厄介だったが、問題はあの子娘だ。旦那の言ってた通りあれは別人だ。半信半疑だったが動作が女の動きじゃなかった」


 葛飾は確信めいた口調で言った。


「入れ替わりの力、臨床段階で発見された副作用。いや、偶然に起きた奇跡のようなものかしら。しかし本当だとしたら柚季も協力しているということ。まとめて処分するにはなかなか難しい状況ね」


「一人ずつ始末していけばいいだけさ。せいぜい楽しませてもらうぜ」


「油断はしないことね、あなた一人の問題ではないのだから」


 二人の付き合いも仕事とはいえもう長い、表の世界に生きる塚原と裏の世界で生きる葛飾、互いの利害によって成り立っている関係をずっと続けてきた。


 葛飾にとっては人を殺すことはすでに仕事であり生きるための手段だ。ゆえにすでに人を殺すことに迷いもなければ戸惑いもない。

 これまで情け容赦なく出来る限り速やかに任務を完遂してきた。

 今までやってこれたのは運が良かったのか、それとも迷いがないからこそか、ただそれだけが存在意義であった彼にとって今更そんなこと考えることもしないのだった。

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