幼馴染(?)の育成記録

星屑

第1話 ちっちゃい



 キアが死んだと急に母さんが家に駆け込んできた。持っていた本を落として慌てた父さんに手を引かれ隣のキアの家に入ると、キアの両親は泣き崩れていて、僕の両親は悲しそうにそれを見て泣いている。


 周りを見回してもキアは居ない。あの綺麗な空色の髪が見当たらない。春色の黄色の瞳もどこにも居なくて、本当に死んじゃったの? …皆は泣いてるけど、死んだならどうして遺体が無いの。


「魔獣に襲われてキアは食べられてしまったそうよ、…それを二人とも見てしまって…」


 食べられた。じゃあ遺体が無いのも食べられたから。信じられなくて思わず床を見る。見慣れたキアの家の床。いつも一緒に遊んでいたのに。そんなに急に居なくなってしまうのかと呆然として、ふと小さな何かが僕の足元にとてとてと走ってきた。


 ネズミだろうかと少し警戒したが、僕のことを見上げるそれは─────死んだと言われたキアだった。


 空色の髪と黄色の瞳の僕の幼なじみのキアはいつもの姿のまま小さくなってしまっていたけど。


「…キアは死んでないよ」


 ぱちぱちと瞬きをしつつ見上げてくるキアから視線を外し、周りに向けて言ってみると母さんと父さんに抱きしめられた。苦しい、というかキアが踏まれそうなのでやめてあげて欲しい。今度こそ本当に死んじゃいそう。


「エリク…今は…それでいいけどいつかは…」


 宥めるように床に膝をつき僕の肩を掴んで母さんが見つめてくる。そんな母さんの膝に小さなキアは手でぺちぺちと叩いている。号泣するキアの両親、真剣に僕を見てくる僕の両親。何故か僕の母さんの膝をぺちぺちと叩く小さなキア。


 ……キアに関わると本当にろくな事がない。あといい加減皆泣くのやめたらどうだろう、キア本人は元気そうだし。


 そんな言葉はあまりに真剣な大人達には言えなかった。両親と共にキアのとこのお母さんとお父さんに挨拶をしてみても小さなキアへ視線を向けることはなくて、それじゃあと両親と帰る瞬間に思わず小さなキアを握りしめて…そのまま帰ってきてしまった。


 怒られるかな?と思ったけど何も言わないし。あの家に放置していたらそのうち踏まれて本当に死んじゃいそうだし。


 大人しくされるがままのキアはガラス玉みたいな瞳を僕に向けたままだった。


 家に帰り「1人にして欲しい」と両親に声をかけてから自室に篭もると、机の上にキアを下ろす。きょとんと見つめてくる仕草はやはりキアらしくなく幼さを感じる。にしても人ではありえないほど小さいが。


 なんというか、子供の時キアが持っていた人形のような大きさだ。羽はなく、見たことも無い服は着ているが、体のバランスとかはそのままキアのままで、余計に異質だった。


「君、なんで小さくなってるのさ…死んだことにもなってるし」

「…」


 キアは何も言わず僕を見ているだけだ。いつも喧しく僕に絡んできていたのにそれすらしない。試しにキアがいつも怒っていたキアを放置の読書だって無反応。


 まるで、キアの姿をした別のナニカのようだ。



「キア…なんだよね? 」


 持ち帰った存在の腕を手で掴み握ったり離したりを繰り返しながら聞いてみたが当然無言。嫌がる素振りもしない。


 やはりキアじゃないナニカだったのかもしれない。魔獣に食べられたと言うし、もしかしたら食べた者を真似する奴がいるのかもしれない。


 …魔獣にしては踏まれたら潰れそうな大きさだけど。


 とりあえず部屋の窓を開けてそっと地面に下ろす。どうにか背伸びをして無事に下ろし終わり体を元に戻すと、反応のなかったキアもどきが僕の腕にしがみついてまたこちらを見上げていた。



 ……どうやら、意思はあるらしい。










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