15.戦争を止めろ!異世界の危機がやってくる

 古の勇者が眠る古代遺跡で勇者達は新たなる武器を手に入れた。

 しかし一方魔王城では、幼い魔王が激しい頭痛に泣き苦しんでいた。

 宰相ササゲーは魔王を抱きしめ、彼女を護らんと必死であった!


「なぜだ!ええい!この場に結界を張れ!」周囲の部下に命じると部下たちが結界を張った。

 魔王を襲っていた謎の頭痛が和らいだ様だ。

「魔王様ー!」ササゲーさんがわずかに安堵した。

「うわーん!痛かった!いたかったよー!」泣きながら魔王がササゲーにしがみ付く。

「一体何が。誰か、勇者のいる遺跡へ赴き、様子を伝えよ!」「はっ!」遠視や遠話が出来る娘が転移魔法で戦場へ向かった。


「大丈夫ですよ。もう結界を張りましたよ。いいこ、いいこ」ササゲーさんが魔王の頭を撫でる。

 魔王を案じ、優しくなだめるササゲーさん。宰相というより、母親の様だ。


 十中八九、古の勇者キッダルトの残した遺跡に今の勇者レイブが魔力を注いだ所為だ。


 魔王と勇者が同じ何者かの魔力でこの世界に生まれた。

 片や新魔王が新たに生まれ、片や前の勇者が新魔王とは異なる波長の魔力を発動している。

 いうなれば近くて違う周波数のラジコンを複数飛ばして、電波障害を起こすみたいな話だ。

 て事は…。


『ササゲー様!遺跡から謎の…鉄の鳥が浮かび上がりました!』

「うぎゃああーー!!いだ!いだ!いだだだ!ぎゃあ~~~~!痛いよ、痛いよー!」

「魔王様ー!皆の者結界を!もっと強く!」「これ以上はっ!ハア…」魔力切れを起こし倒れる娘達。

「魔王様…ペディちゃん!私が守るからね!」

 ササゲーさんが叫ぶ魔王を抱きしめ、結界を放つ!すごい魔力だ。


「あ…ササゲー。きもちよくなったのじゃあ」

「そう。よかった。私はあなたを守るからね。かわいいペディちゃん…」

 強烈な結界は勇者がマホーキーを操る間魔王を守り続けた。

『あー!魔竜が!ササゲー様、魔竜がイセカイマンと鉄の鳥に負けました!鉄の鳥が遺跡に戻ります!』

 その瞬間、ササゲーさんの結界と拮抗していた勇者の魔力も消えた。

「そう…よかった…」

 ササゲーさんの魔力が絶え、彼女は倒れた。

「はあ。はあ。あ!ササゲー!ササゲー!うわーん!ササゲーを助けてー!!

 あ!みんな!みんなも!いやー!助けてー!」

 魔王が泣きながらササゲーを、倒れた娘達を案じて泣いている。


******


 どうにも心が痛む一幕だ。一体この新魔王、少女ペディとはどんな子なんだ?過去を覗くと…


 配下を操り人族への侵攻を企む、と言われている魔王。だが彼女は10歳の少女。

 前魔王が勇者に討ち果たされたその後暫くまで、普通の魔族の少女だった…名前はペディと言う。

 魔族の下級貴族だった子供。

 両親は死に、魔王城の近くで物乞い同然で生きて来て、ササゲーさんの手で魔王城の孤児院に拾われた子。

 その子が突然魔王の魔力に満たされた。

 王座に招かれ、皆が頭を下げると。

 すっごく偉そーに

「はーっはっはっは!妾が新魔王じゃ!皆の者従えー!先ずはおやつ持ってこいー!」って宣言した。


 気落ちしてた魔族、しかも男たちが戦死したり病院送りになって、残っていた女性たちが笑顔になった!

「かわいー!おやつを持てー!なでなでせよー!」ってチヤホヤした。

 これが新魔王誕生の瞬間であった。


 女性たちにとって、小さい少女であっても「魔王」って存在が希望の星だったんだろうなあ。よく「このちんちくりん奴!」って放り出されなかったものだ。

 四天王の補佐で色々な理不尽に耐えていたササゲーさんが新魔王に代わって色々魔族を纏め上げた。

 残った武闘派の男たちも、四天王に準じる…いや魔力や実務や頭脳では遥かに勝るササゲーさんの敵ではなかった。

 中には「このちんちくりん奴!」と新魔王に襲い掛かった結果、ササゲーさんに灰と消された馬鹿もいた。


 そんな右も左もわからない子供が

「え~と、とりあえず勇者を倒すのじゃあ!」

 と理由もよく解らぬ侵略戦争に憑りつかれ、挙句頭痛攻めで泣いている。

 そんな子供を担がねばならなかった大人の女性が、必死にその子を守っている。

 無論イセカイマンがいなければ人族だって厖大な人命が、それこそこの子と同じ様な命が失われていたのだ。

 敵に情を掛けている場合ではないが、それにしても…気に入らない。


******


 何とかせねばと思案しつつイセカイ温泉に戻れば、

「ご主人様ー!」と決死隊の娘が息を切らせて走って来た。

「人族の使者の、キレモン伯爵が!」

 その深刻な表情は只事では無かった。


 出城に戻ると、落ち武者の様なキレモン伯爵。

「どうした!何があった!」

「おお、久し、ぶり、だな魔導士殿」と肩で息をしつつ答える伯爵。

「国を逃げて来たぞ。俺もこの温泉の住民になろうか」と皮肉そうに笑う。

「説得に失敗した、だけじゃなさそうだな」

「ああ。戦争だ。多分我が王も知らないだろうがな!」

「欲に駆られた馬鹿者が先走ったか」

「何故解る?」「過去何度もそんな阿呆と戦ったんだ」

「そうか。悔しいな」キレモン伯爵は力なく項垂れた。


******


 イコミャー達は彼を介抱しようとしたが伯爵は断り、「まずは状況を把握してくれ」と説明してくれた。

「国内でも強硬派のエバリ公爵…王国アッタマーイ3世の叔父に当たる奴だが、国王に使節団の応援等と言って出兵を申し出たんだろう、自領の兵を動かしてここを目指している。

 我々の先触れも王国に届く前に暗殺され、一人だけが戻って来た。奴と関係の深い貴族が襲い掛かり荷を奪って奴と合流した。

 このままでは勝つ見込みは無い、そう思って引き返してきたんだ。

 魔導士殿の信頼に応えられず、すまん」

「敵の規模や進撃速度は?」

「敵は2千、ここへは2日で到着する」

「君達の騎士が大体百人か」「かなり厳し…」「楽勝だ」「何?」

「私は時空を操る魔導士だ。今すぐ君を国王の下に連れて行く事も出来るし、敵全軍を一瞬で生き埋めにも出来る」

「国王は聡明なお方だ。エバリ公の独断も見越してなお遮る事が出来なかった。

 今魔導士殿が行ったところで王国内の流れは変えられまい。

 貴公が力を発揮したらそれこそ全面戦争となってカナリマシは無事では済まない。

 そうなれば他国に付け入る隙を与え収拾が付かない泥沼の戦いになるぞ!」

「じゃあ緒戦で和議を結ばせるか」

「奴は理で和議を結べる様な頭を持っていない!欲望の権化だ!そんな奴を排除できないのが、我が国の現実だ…」


「つまり平和裏に納める事は出来ない、と」

「公爵は王家の内情に通じている。恐らく同じ公爵家か王族の醜聞を掴んだのだろう」

「情けないじゃないか聡明な国王様も」「言葉もない。しかし何かお考え有っての事かとも」

「嫌~な考えしか思いつかないけどなあ」「何だ?」

「いや君だって言ってたじゃないか。ここで怪獣の猛威を体験してないとか何とか」

「あ」

「まあ、そうそうタイミングよく怪獣が来るとも思えない。もしかしたらエバリとか言う奴の奴隷狩りが終わってから出て来るかも知れ無いしな」

「魔導士殿!…いや、何でもない」「だよね」多分彼は私に怪獣を出現させ、エバリ軍と戦わせようと言いかけて止めたのだ。

「ヤるなら、直接私が引導を渡すよ。慣れてる」「そうか…済まない」

「まだ日はある。体と気力を休めてくれ」


******


 一行は出城で休養し、怪我人は私が時間逆転で治した。


 しかしその南方には、侵略と略奪を企む軍勢がイセカイ温泉に向け進撃していた。騎馬の軍勢が水〇伝みたく上手いカット割りで長蛇の列を成している様に見え、更に上空からの絵まで…後ろは書割か?渡〇善夫ばりの緻密さだ!な訳ないか。


 それにしてもこの国の領主達は何やってんだろうね。みんな逃げた?駄目じゃん!

 ここまで2日でも、途中の村までは直ぐだ。村々も逃げ始めているが、途中で追いつかれて略奪や強姦、奴隷狩りが始まってしまうだろう。


「とりあえず途中に柵でも作って戦うか。キレモン伯爵も」

 治療を終え、休養中のキレモン伯爵に打診した。

「もう伯爵でも何でもないさ」「君の家族や家人たちを見捨てるのか?」

「万一に備え定時通信が途絶えたら逃げる様指示している。ギリギリ逃げおおせているか、ってところだ」

「そうあって欲しいが。それでも君がエバリって野郎と正面切って戦ったら後々マズいだろう?」

「俺はあの外道を許せない。折角まとまりかけた話を我欲のために潰した王国の癌!未来のために潰してやりたい」

「そうか。じゃあやるか」「だが多勢に無勢、貴公だけに殺戮の咎を負わせるのも忍びない」

「時間稼ぎだよ。その間に王国に手を回すなり怪獣が出て来るのを待つなり出来るだろう」

「確かにこの地程の城塞があればなあ」それは私の得意分野だ。

「もっと凄いのを築くよ」「全く貴公は!」呆れられた。

「よし、私は先に適当な場所で奴等を阻むとしよう。君達は今日は休んで明日にでも来てくれ!」

「我が国の愚か者が、済まない」キレモン伯爵は頭を深く下げた。


 例によって、出城の外では妻達が私を見送ってくれた。

 今回はレイブ達もいた。

「これは国同士の戦争だ、君は係るな」

「解りました。しかし万一怪獣がまた出た場合は、戦います!」

「私の転移で遺跡まで一っ飛びだからね!」ホーリーが愛想良く答えた。が、


 あの苦しがる小さい魔王を思うとどうすべきか。

 しかしこの地に居る人々を放っておく事も出来ない。


「まあそうなったらなるべく早く戻るよ」

 今時点で、まだあの事を勇者達に話すべきか、決心がつかない。

 そんな悩みを抱えつつ国境手前の街道に向かった。


******


 渡〇善夫のマットアート、じゃない遥か彼方まで続く街道の先に迫るエバリ軍。

 背後の森の先には避難も済んでいない村。


「チェースっ!」例によって森の手前の荒地に東西数キロの堀と石垣を築く。

 直線ではなく随所が突出し、十字砲火を浴びせる作りだ。星形稜保って奴だ。

 だがそんな兵力は無い。威嚇、コケ脅しだ。

 白い壁に矢狭間を穿ち、鋭角部には櫓を構える。

 街道正面は馬出を築き、街道から見て左右に城門を構えた。

 まあここまで固めりゃ馬鹿でも無ければ突っ込んでくる事はあるまい。

 案の定敵軍は突如現れた長城に驚き、進軍を止めた。


 私は拡声魔法で敵陣に話した。

「貴軍は当地の住民に脅威を与えている。現在ツッカエーネ国はカナリマシ国と外交交渉中であるが、これ以上の進軍は宣戦布告と看做し反撃するが良いか?」

 慌ててキレモン伯爵が「待て!あれはエバリ公爵の独断専行だ!我が国は貴殿との戦争を決意した訳ではない!」

「いや、今はこれでいい。あのヒキガエルオヤジが独断専行したという動かしがたい事実を歴史に刻み込んでやる。君は事が済んだら聡明な君主様にすべてを報告し、ヒキガエルの処刑でも眺めればいい」

「ヒキガエルって…君は公爵に会ったのか?」

「まあ遠視という便利な力があってだな」奴は自領軍に出撃を命じた後、王都の屋敷で周辺国からの干渉をどう利用するかを近習たちと企んでいる。

「例え奴の企みが明らかになっても処刑は無理だ、あの男は王国内に強力な閨閥を持っているし逃げ道などいくらでも考えているだろう!」

「全部潰してやるさ」


 すると一騎の使者が駆け出して言い放った。向こうも拡声魔法があるのか。

「すでにツッカエーネ王国に返済能力は無く、カナリマシ国王アッタマーイ3世は債権回収をエバリ公爵に下命した!ただちに城門を開け、我らへの抵抗を止めよ!一人でも抵抗する者があればカナリマシ王国からの宣戦布告と看做す!」

「罪もなく奴隷とされるのが解っていて抵抗せぬ者など居ない。しかし戦争を望みはしない。

 その城壁を乗り越えてから話を聴こう!」

 そう言うと、私は「空間削除チェースっ!」と城壁に沿う堀の、更に外側に深さ数メートルの空堀を出現させた!

 空堀は途中の川に達し、川の水が空堀の底に溜まって行った。

 敵軍は動揺している。これで数日は足止め出来るだろうし、空間魔法の威力の良い宣伝にもなるだろう…


 その時、一同の耳をつんざく高音が鳴り響いた!

 壁や城門の瓦が吹き飛ばされた!

 一同が外を見上げると、巨大なドラゴンが翼を広げ軍勢を上空から狙っていた!


******


 空を旋回するドラゴン、というより翼竜怪獣の上には宰相ササゲーさん。

「許さん!魔王様を苦しめる人族め!魔術を私が命に代えても叩き潰す!ナウマクサンマンダーボダナン!アビラウンケンソワカ!」

 またしてもなんだか懐かしい呪文を唱え召喚したのは、ダンジョンもとい遺跡で撃破した古代凶悪怪獣2頭!そして更に神殿で撃破した灼熱怪獣まで出現した!

 翼竜と合わせ四大怪獣が国境を襲う!もう仮面の忍者〇影かキ〇プテンウルトラみたいな怪獣ラッシュ!


 よし、ここらでイセカイマンの力を誇示してあの軍勢に回れ右して頂くか。 


「うおまぶし!」翼竜の向かう先に閃光が!そしてイセカイマンが頭より倍デカい握り拳を突きつけて光の中から現れた!新しいライブシーンだ!


 頭より倍デカい握り拳のスゴいパースが付いたイセカイマンが地上の古代怪獣を殴りつけ、ブチのめした!そして空中回転して着地、四大怪獣と対峙した!

 灼熱怪獣が背を向けて火炎を噴射し飛んできた!、これをドロップキックで叩きのめす!

 そして空中回転&方向転換で、光線を放ち攻撃する虫怪獣にキック!さらに着地してエリマキ角怪獣の頭突きを受け止め、投げ飛ばす!

 城壁の、櫓の向こうで怪獣の攻撃を右に左に躱すイセカイマン!


「「「おおー!」」」敵の軍勢がいきなり始まった怪獣ショーに驚愕した!そらそうだろ。


 そこに空から炎の魔法の攻撃が!翼竜上のササゲーさんが攻撃する!これをバク転で躱す!

「おのれイセカイマン!私の!私達のペディちゃんを!魔王様を苦しめよって!」


 イセカイマンは敵の強い殺意を感じた。しかしそこには邪念ではなく、愛する者を守る怒りと涙も感じた。


 イセカイマンは攻撃を躱したが反撃しなかった、そこに角怪獣が頭突きを喰らわせた!往なし構えるイセカイマンに空から攻撃魔法!

「死ね!イセカイマン!私達の愛する魔王様!ペディちゃんのために死ね!」

 イセカイマンは両手をワイパーの様に裁き、光る魔石でバリヤー状の盾を放ち炎の弾を弾く、しかし翼竜へ反撃しない。

「何故だ!何故反撃しないのだ!憎きイセカイマン!」ササゲーさんの目に涙が溢れていた。


******


 その頃イセカイ温泉ではホーリーが怪獣の強い魔力を察知していた。

 彼等を止めるべきか、私は考えたが、そのままにした。


「俺達もイセカイマンを援護する!」「「「わかったわ!」」りました!」「ってどうやってあの遺跡まで行くのよ」

「任せて!リンビョウトウシャカイチンレツザイゼン!」ホーリーが詠唱すると4人の足元に転移魔方陣が現れ、そして4人は消えた!

 4人は転移魔法で遺跡のマドーキーの下に着いた。

「レイブはマドーキーを、私達は敵に備えて指令室へ行くわ!」「何でアンタが命令す」「わかりました!行きましょうクレビー!」「え?」

 4人は持ち場についた。ホーリーが作戦指令室の魔力注入パネルに手を翳すと、モニターが光る。

「コンバットレットドッキングプラントゥダブルシニガィズ…3、2、1」

 どこからか何て言ってるかわかんないアナウンスが響く!

 すると円筒の発射口の壁が開き、点検を終えたマドーキーが銀に輝く姿を現した!

 ワンダバダバワンダバダバ。

 発射台と共に発射口の中央に移動するとレイブが乗り込んだ。

 遺跡の天井が開き怪獣のいる方角へターンテーブルが回転する!やはり発進シーンは回転しなければ!

「ビークイックテイクトゥーザバスター!レッツゴー!」

 やっぱり何て言ってるかわかんないアナウンスが響く!

 レイブがパネルに魔力を込めるとマドーキーが垂直上昇する。

 マドーキーは怪獣へと飛ぶ!


 しかし。


******


「ぎゃー!痛い!痛い!痛いよー!」またしても新魔王、ペディを激しい頭痛が襲った!


『ササゲー様!また魔王様が激しい痛みに苦しんで!あー!助けて下さい!』

 ササゲーさんもその事を知った。

「魔王様を守れ!結界を張れ!」

『はい!』魔王城を守る娘達が結界を張ったが、威力も時間も知れているだろう。

「おのれイセカイマン!」


「いだいよー!たすけて!たすけてー!いやー!」

「ペディちゃん!待ってて!ペディちゃん!」


「待っていてくれイセカイマン!助太刀する!」


「凄い…しかし鎧の巨人は何故敵を粉砕せぬのだ!何か加減をしているのか?あ奴は本当に味方なのか?」


 うわぁ。これ一体どうなる異世界、どうする異世界?!


…では また来週…


※発射アナウンスはホントに何て言ってるか解らないので悪しからず。セブンみたいにご本人が憶えてなかったのかな?

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