第24話 突きつけられた現実

 明日まで待っていられない。

 今日中に決着をつけたい。


 そう決意したヒロキは店長に「ちょっとだけ外出してくるから」と言って、夜であったが家から抜け出し、スマホでタカヒロに電話をかけて彼を呼び出した。


 そこは田畑に囲まれた公道にポツンとある自動販売機も置かれた駐車スペース。自身の黒いセダンでこの地を訪れ、近隣のホテルに泊まっていただろうタカヒロは車のヘッドライトを点けたまま、車の前に立っていた。

 他に街灯のないこの暗がりではタカヒロのセダンのライトだけが貴重な光源となっている。


 ヒロキくんの移動に使ってもいいよ、と言われた店長の自転車を使ってそこに辿り着いたヒロキは、寒空の下だというのに相変わらずスーツをビシッと着こなした男を見て、田舎町に似合わない男だなぁとためいきをついた。


 自分も以前は彼みたいにビシッとスーツを着こなし、洗練された都会の真ん中で当然のように過ごしていたのだ。

 あの時の自分だったら、こういう場所に訪れていたら違和感丸出しだったのかもしれない。今こうしてダウンジャケットで下はデニムでラフな格好して出歩いたりして。少しはこの町に馴染むことができているかなと思う。


 これからも自分はここで過ごして言って店長のそばにいられたら、いいんだけれど。

 そのためにはこの強敵を負かすことができなければ。

 そしてその上に更なる大ボスがいるにしても、

まずはこの一度も勝ったことのない相手に立ち向かわなくてはならない。

 ヒロキは隙をつかれないように注意しながら、黒いセダンから離れた駐車スペースに自転車置き、ゆっくりとタカヒロに近づく。

 セダンがブルンと低いエンジン音を立てていた。


「……タカヒロっ、昼間のはあれはなんだよ。あれはあんたの言い方が悪いじゃないか。あの人と父親のことは正当防衛じゃないか、あの人が悪いわけじゃない」


 それは店長に関することだ、タカヒロの昼間の言い方は「店長に前科がある」というものだった。確かに結果としては父と母を失ってしまったに違いはない。

 けれどその原因を作ったのはあくまで彼の父親であって店長ではない。店長は巻き込まれてしまっただけなのだ、母を守ろうとして。


 タカヒロは変わらず、目を細めた冷たい視線をこちらに向けている。この男が何を言われても怯むことがないのは知っている。


「言い方がどうであれ結果は変わらないだろう。あの男には後ろ暗い過去があるということだけ。 そしてそれはお前が連れ添う相手としては相応しくない過去だ。あの男と一緒にいる価値はない。そしてお前もこんな田舎にいるべき存在ではない」


「うるさいっ、昼間も言っただろ、自分のことは自分で決める。父さんにもそう伝えろよ、僕は絶対戻らないからなっ!」


 言葉を言い切るよりも瞬時に動いたかもしれない。ヒロキは一気にやタカヒロへの距離を詰めると後ろ回し蹴りを放った。これは相手に一気に近づきながら蹴りを放つことができるテコンドーの中でも一番最速の技だ。

 この男に躊躇している余裕などはない。どんなことになっても叩き潰すくらいの勢いで行かないと勝つことはできないのだ。


 だがそう、うまくはいかない。案の定、幸先は良く放った蹴りであるのに、すんなりと身体を移動させたタカヒロにかわされてしまう。

 そしてタカヒロもカウンターとして素早く自分につかみかかろうとしてきたが。その攻撃は想定内だ。ヒロキは後ろに飛んでかわした。


 もう一度だ! 怯むな、どんどんしかけろっ!


 一度さけられた蹴りを、身体のひねりも加えてダメージが大きくなるよう、もう一度試みる。

 だが今度もタカヒロが構えた左腕によって阻止される。彼の腕は盾みたいに硬い、腕を蹴ったところでダメなのだ。


 次はこちらの番、と言わんばかりに。タカヒロの右手がヒロキの肩をつかむ――いけない、このままでは投げ飛ばされるかもっ。


 ヒロキは焦りつつも分析し、素早く放てる膝蹴りをタカヒロに放ったが、それもタカヒロの左腕にガードされる。


 最悪だっ! やばいっ。

 隙を見て逃げるか、投げ飛ばされないように気合を入れて足を踏ん張るしかない。

 自分よりも長身で体格が良く、身体の面積も大きな相手を自分が引っ張ったところで、かなう相手ではないことはわかっている。巨大な岩をくっついている壁から放そうとするようなものだ。


 ならばなんとか攻撃を与えるしかない。

 そう思っていると、タカヒロが肩をつかんでいる指に力を入れた。


「ヒロキ、今一度聞くぞ。父を敵に回して本当にいいのか。それをすることによっては、どういう影響があるか考えているのか」


 その言葉に返事をするように、ヒロキはタカヒロを睨んだ。


「わかってるよ、そんなの。僕がそんなことを言ったって何度も連れ戻そうとするだけだろ。自分の手駒をたくさん使って無理やりやるんだ。自分の納得のいくポジションに僕を据えて、またそれを行使するだけだろう。どんなことをされたって僕はもう何もやらない、帰らないっ!」


 タカヒロにつかまれた部分をなんとかしようと、ヒロキは身体を揺さぶる。そう簡単にはタカヒロの手の力は緩まないが、次に彼が放った言葉は、ヒロキの動きを停止させた。


「ヒロキ、それはお前だけの影響だろう。その他のことは色々考えたことはないのか。たとえば、お前の大好きなあの店長のこととか」


「……店長がなんだよ」


「本当に、わからないか」


 タカヒロが重々しく、問い詰めてくる。そこでヒロキは、ようやくタカヒロが言わんとしていることに気づいた。


 うちの父は全てに影響を与えることができる権力を持つ人物だ。情報の操作もたくさんできる。

自分の思い通りにならない相手を思い通りにさせるためには容赦ない攻撃を加えるだけだ。


 それは何も自分だけじゃない。

 周囲にも危害が加えられるのだ。


 まぶたを全開にし、信じられないという気持ちでヒロキはタカヒロを見つめた。


「て、店長に何をする気だ!」


「俺が知る由はない」


「くっ……卑怯だ、ずるい……!」


「だから抵抗はよせ、お前に道はないんだ。ヒロキ、父にかかればこんな田舎町のスーパーなど一日もかからずに潰すことができるということだ。

なんならあの男が日の目を浴びることができないようにもできる」


 お前はそれを望むのか。

 タカヒロの言葉には絶望しかなかった。

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