コウフク論
くりぃむ
面影
僕は本当にいい人達に恵まれた。優しく、やりたいことは応援してくれる両親に僕は育てられた。スマホを開けば必ず僕を呼ぶ通知がある。実際僕自身にも魅力があったからなのだろう、声に自信はあるし外見も見れないほどじゃない。進学校にも通い運動もある程度ならできる。家事もできて人見知りもしない。本当に僕は恵まれていると思う。
ある時から僕の持つ力、魅力の喪失がとても怖いと思うようになった。結果を残しても何か足りない。そんな事を考えていたある日僕は本当に死んでしまった。死ぬ間際に僕はとぼけた顔をした老人を見た。人はいつ死ぬか分からない、そのため僕はある時から小さなメモ用紙にこう記して机の引き出しの中に閉まっていた
「もし僕が死ぬことがあったなら僕と仲のよかった人にはネットでの関係を除いて余すところなく僕の死を伝えて欲しい、僕のただ一人の親友にはこの引き出しにあるもう一枚の手紙をそっと渡して欲しい。今まで本当にありがとう」
俺はある日親友の死を告げられた。本当に仲が良かった。老人への怒りと喪失感でどうにかなってしまいそうだった。親友はこの小さな手紙一枚にまとまってしまったのだ。封を切ると中は半分に折られた一枚のメモ用紙だった。
「知っての通り僕の彼女はかなり遠くに住んでいる。直接どうこうという絡みも無い。なにせネットで知り合ったからね、本名も顔も開示されてないんだ。そしてネットに友達がたくさんいる、だからどうか僕というキャラクターを演じたうえで嫌われて欲しいんだ。本当に大切な人達だから僕の死に気付いてほしくない。スマホのパスワードは電話番号になっているからそれを見て辻褄を合わせておいてくれ。たくさんやりとりを重ねた君だからこその頼みだ、今まで本当にありがとうな」
そして俺は今の彼女と出会った。たしかに遠距離ではあるが申し分無い優しい娘だ。あいつはネットの友達とも何回か会っているようだから遺書の内容を守ると言訳して彼女との関係を理由にして少しずつ関係を希薄なものにしていった。しかし俺はいつからかネットの中でもほんの数名だけ選んで交流するようになった。あいつの存在に誰も気付いてはいないが、それでもあいつは存在した。あいつの面影は消えていき、一月もする頃には素を出しても不審がられないようになった。罪悪感から俺自身はあいつでは無いと記す事にした。以降俺のアカウントには変異の2文字を入れている
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