第11話 村に水を届けよう
カンタ、チコの兄妹と約束したからにはしっかりと責務を果たそうではないか。
日が落ちて月が真上に来るころ、俺は村に向かって出発した。
『ボス、私と部下三頭、護衛のために同行致します』
ローガが部下を三頭連れて俺に並んでくる。頼もしい奴らだ。
『頼む。だが村人に見つかるなよ?』
『ははっ! お任せください』
まあ、ローガたちの俊敏性は今やとんでもないからな。頼りになる。
ずるずると移動を始めるとローガが声をかけて来た。
『ボス、我が背にお乗りください。村まですぐにでも到着して見せましょう』
おおっ! リ〇ル大先生とラ〇ガのような関係だな! かなりあこがれてたんだよね。俺。
『うむ、頼むぞローガ!』
言うなり俺はローガの背中に飛び乗る。
『それでは行きますよ、ボス!』
ドンッ!
強烈な瞬発力を見せ瞬時にトップスピードで加速するローガ。
当然の如く吹き飛ばされその場に転がり落ちる俺。
・・・悲しい。
『ボスッ! 大丈夫ですか!』
慌てて戻ってくるローガ。そういやリ〇ル大先生はスライム形態時ねん糸スキルで体を固定していたっけ・・・。ねーよ! そんな万能糸スキル! くそう! ノーチートの俺ではリ〇ル大先生には近づけないってのか!?
と、言いつつ再度ローガの上に飛び乗る。
『ボス、どうやって俺につかまりますか?』
そんなん、触手伸ばすしかないやんな。なぜ大阪弁?
にゅい~んと両サイドから触手を伸ばし、ローガのお腹の前で触手をつなぎ合わせる。
『うひゃひゃ! ボス! くすぐったいです! 無理です!』
触手をお腹に回した途端、暴れ出すローガ。こらじっとしないと俺が落ちるだろ・・・って。
ぶぎゅる!
ローガが転げたため、地面に押し付けられて潰れる俺。ひどすぎる。
『ああっ、ボス、すいません!』
ローガが思いの他くすぐったがりということは分かった。あまり役に立たない情報だが。
こうなったら直接首当たりの毛を掴もう。
再度ローガに飛び乗ると、スライムボディの接触部からローガの毛の感触を感じる。
認識出来たところでスライムボディの一部を毛に絡ませ掴むようにする。
これで振り回されても落ちることはない。
『よし、村に向けて出発だ』
俺はやっと村に出発することが出来た。さあ約束の水をたっぷり持っていくぞー!
――――――――――
ものの三分で到着。マジで速いな、ローガ。
『村の人に気づかれないように注意してくれ』
『わかりました、ボス!』
早速、カンタ、チコ兄妹の家に水を届けに行こう。
俺はローガから飛び降りると、ズルズルと家の方へ移動する。
ここがカンタとチコの家だな。甕が外に置いてある。中は空っぽだ。
俺はホース型にした触手を甕の中に伸ばしいれる。
だが、このまま水を入れてはいけない。
しばらく使用していなかったみたいだし、まずは掃除だな。
俺は背中側に空気取り込み口を作って空気を取り入れてからホース型の触手の先から吹き出す。甕の中のごみや埃を吹き飛ばすように掃除だ。
今度は綺麗になった甕の中にホースのように伸ばした触手から水を出す。
じょぼじょぼじょぼ~
よし、満タンになった。
俺はついでにカンタやチコの家の扉をそっと開け・・・開かなかった。
きっとつっかえ棒でもしてあるのかな。
うん、用心が肝心だ。でもちょっと悲しい。
でもでもでもでもそんなの関係ねぇ~、なんてったって俺様はスライム。
そんなわけで扉の隙間からにゅるんと家の中に入る。
家の中に入ると、薄めの布団にお母さん、カンタ、チコが寝ていた。
台所っぽいところに行くと、鍋や水差しが置いてある。
どうせならここにも水を入れて行こう。
じょぼじょぼじょぼ~
どうだろう、これくらいの水でどのくらい生活できるんだろうか?
一週間くらい持つのかな?
またカンタにでも聞いてみよう。
次に畑に移動だ。
確かに作物がしおれている。
俺様は触手のホースの先をジョウロ型に変更する。
しょばしょばしょば~
広大な畑だが、頑張って水を撒いていく。
しょばしょばしょば~
畝の間を移動しながら、まんべんなく水を撒く。
何といっても水の精霊の加護を受けた奇跡の水だ。
もしかしたら作物がいっぱい採れたり、おっきくなったりしないかな。
・・・泉の周りの木々や花たちはかなり元気に育っていたな。この畑も期待していいかもな。
結構広い畑だったが、俺様はなんとか撒き終わった。
よし、それじゃ帰るか。おーい、ローガ。
『ははっ!』
早速ローガの背中に乗って早々に去る。
『いい事したら気分がいーなー』
『よかったですね! ボス』
―翌朝、村にてー
「かーちゃんかーちゃん! 見てみて!
「ええっ!?」
「にーちゃん、水差しにも鍋にも水がいっぱい入ってるよ!」
「うわっ! ホントだ」
「ええっ!? どういうことなの?」
母親が二人に問いかける。
「にーちゃん、これってスライムさんが入れてくれたのかなぁ」
「ばかっ! チコ、それは内緒の話だろ!」
「内緒って何かあったの?」
母親は心配してカンタに尋ねる。
「何でもないよ、かーちゃん。でも、きっと水の精霊様が水を恵んでくれたんだよ、きっと!」
「かーちゃん、お水飲んでみて!」
チコは水差しからコップに水を灌いだ。
母親は粗末なベッドから身を起こしコップの水を口に含んでいく。
「・・・ふう、ずいぶんスッキリしたわ。ありがとう」
母の笑顔に喜ぶ姉妹。二人にとって森の泉に二人だけで行くことは大冒険だったのだが、結果として大成功に終わったようだ。
「・・・村長! 見てみろ! 雨も降っていないのに、畑に水が・・・」
「おおっ・・・これは神の御恵みなのか・・・」
「いったいどういう事なんだ・・・?」
ずっと雨が降らずに水不足で困っていた村にとって、雨が降った形跡がなく、井戸が干上がり気味なのに畑だけに水がたっぷりと降り注いで潤っているのは、まさに神の奇跡というべき情景だった。
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