第6話

口の中のパイン飴の大きさが、最初の半分程になったところで、めぐちゃんに声を掛ける。



「…めぐちゃんさ」


「…ん…?」


「さっきは、私の何に対してそんなに怒ってたの?」


「……聞いてくれるの?」


「私、さっきそう言ったよ?」


「…飴で誤魔化したのかと思った…」


「それは、…私達二人のどっちに対しても失礼だよ」


「……ごめん」


「…いや、そこは謝るところじゃないと思う」


「でも、…ごめん…」


「……うん、別にいいよ。で、…話戻すけど、めぐちゃんはさっき、私のどこに怒る理由があると思った?」


「…ちーちゃんはさ、竹野内先輩のこと、…それに、私達みんなのことも、全部拒絶してるみたいだったから」



少なくとも私に取ってそれは、少なからず思いがけない、そして同時に充分以上に衝撃的な言葉だった。

まるで、…見えていてもまるで気にしてなかった角度から、抜き打ちに打ち掛かられたような。



「……拒絶…?」



「うん…。だってちーちゃん、さっき言いかけてたのって、それ、…もしもの時は、自分一人が犠牲になれば、…先輩には、それに…外野にいる私達にもだけど、被害は及ばない、ってことだったんじゃないの?」



図星だった。



「ちーちゃんさ、『自分は、今、特養にいる大伯母さん以外に家族はいないから、もし自分に何かあっても問題はない』とか、本気で思ってない?」


「……どうしてそう思ったの…?」



我ながら情けない事に、何やら声がひび割れ、震えてしまった。



めぐちゃんの顔を、今はまともに見られない。


恐らくめぐちゃんの方は、色白の頬を薄紅く上気させて、

例の大きな目をきっと吊り上げて、私を真っ直ぐに見据えているだろうに。



めぐちゃんの、抑えた口調ながらも、

ワイヤーの切っ先みたいな、ごくきっぱりした声と言葉が私の耳を打った。



「仮にも『小中高通しての相棒』を見損なわないで。

まったく、…ちーちゃんの馬鹿」




めぐちゃんには、今まで随分な回数「馬鹿」と言われているけれども、


今の分は、四半世紀余りの私の個人史の上で、一番堪えた気がする。




「……めぐちゃん、ごめん…」


「…別にいいよ…。でも…それ、本当は私に謝ることじゃないよ?」


「……うん…。でも、…本当にごめん…」


「…だから、……本当にもう…。こんなところで泣いたりしたら、他の人が見るよ、松島部長…。

ほら、…ティッシュ、封切ってないやつ、袋ごとあげるから。私の秘蔵の、高保湿のひりひりしないやつ。特別だよ?」

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