第7話 イッタイドンナコトヲ……?

 いい時間になったところで寝る事になった俺達。


 俺は瀬名さんが用意した予備の布団に潜り込む。

 一方で瀬名さんは自分のベッドへと。


 これでさぁ寝ようとなったらよかったけど、美人モデルが隣にいるという事もあってか中々寝付けなかった。 


 それに困っていたところ、テーブルに置いてあるファッション雑誌が目に入る。

「時間開いてる時に見てもいいよ」と瀬名さんに言われていた事だし……暇つぶしに拝見させてもらおう。


「……すごいなぁ、瀬名さん」


 スマホのライトを付けながら、雑誌のページを開いていた。


 そこにはオシャレな服装をした瀬名さんがいっぱいで、思わず目移りしてしまうほど。

 メイクも決まっていて、モデルというか女優みたいだ。


 でもその一方で、胸元は見えていないという訳じゃないけどそこまで露出していなかった。

 つまりああいう事は、やっぱり仕事ではやらないのだろう。


 何で俺にだけ……ううむ分からないな。


 俺には結局答えを出す事が出来ず、しかもちゃんと寝れたのは夜中の2時辺りだった。

 そうして目を覚ました時には、寝不足で頭が重かった。


「……さすがに、目が覚めたら俺の部屋って訳じゃないか」


 昨日が昨日だったので、夢を見ていて実際には自分の部屋にいると思っていた。

 けどそういう事はなかったらしい。逆ご都合主義と言うべきか。


 独り言ちた後、ベッドに瀬名さんの姿がない事に気付く。

 その代わり台所からいい匂いがしてくるので、向かってみると瀬名さんがそこに立っていた。


「あっ、おはよう勇人君。ご飯できたから一緒に食べよ」


「ご飯まで……ありがとうございます」


「フフッ、お粗末様」


 料理はオムレツにプレスハムにサラダ、フルーツヨーグルト。

 

 なかなかの出来栄え。

 うちなんかパンと目玉焼きといったくらいしか出ないんだけど、やっぱ出来る人は何でも出来るもんなんだなぁ。


 朝食を食べた後、寝不足の重さがだいぶ和らいだような気がする。

 それからようやく俺の帰宅時間となり、瀬名さんと共に玄関に立った。


「本当にごちそうさまです。美味しかったですよ」


「よかったぁ。ただ床に寝かせてごめんね……背中痛かったでしょ?」


 そういえば俺が予備の布団あるのかって聞いたんだっけ。

 それであると瀬名さんが答えたので、じゃあ床で寝ますと返した訳だ。


「いいですって。むしろ瀬名さんを床に寝かせるのがどうかと思います」


「そう? まぁ、布団を素直に用意した私も私なんだけどね……ほんとのところは……」


「ん?」


「ううん、何でもない。忘れて」


 まるで教えた事を後悔するような言い方だな。

 何がそんなに駄目だったのやら。


「それよりも引っ越しの件なんだけど、見ての通りそんなに広いところじゃないからさ。持ってくるのは服や小物くらいでいいよ」


「えっ、いいんですか?」


「それで十分。家事も手伝ってくると嬉しいな」


「そりゃあもちろん」


 家事とかしなかったらヒモまっしぐらだ。


 あとここに引っ越ししたら、バイトをしてお金を入れておこう。

 それくらいの筋は通さなければ。


「他になんかありますか?」


「そうねぇ……だったらラインと電話番号交換する? せっかくだし」


「ええ、別に大丈夫ですよ」


 俺の連絡先、両親か悪友くらいしかないんだよな。

 だから何だとなるけど。


「これでよしっと。それじゃあ、お父様とお母様によろしく伝えてね」


「分かりました。それでは中学卒業後に」


「ええ、待たね」


 玄関の扉に手をかけようとした。

 その時に、瀬名さんから待ったの声がかけられる。


「勇人君」


「ん?」


「昨日撮った写真、誰にも言ったり見せたりしないでね。私と勇人君だけの秘密だから」


「……はい」


 俺達だけの秘密。そう言われると、何か特別なものを感じてしまう。

 全く、瀬名さんの前で何考えているのやら……。



 ◇◇◇



 俺は電車で地元に戻り、自宅へと到着した。


 玄関に入る前に、俺はスマホに保存した写真を見る。

 薄目のルームウェアを着て、セクシーなポーズをする瀬名さん。写真からでもフェロモン絶賛放出中だよ。


 それに写真で撮らなかった胸元丸出しなんか、未だ脳内フィルムに強く焼き付けられている。

 情けない話だけど、「撮ればよかった」と「撮らなくてよかった」の2つの感情が今になって渦巻いてしまっていた。


 いずれにしても、それはもう後の祭り。

 気を取り直してから、俺は家の中へと入っていった。


「ただいまぁ」


「おかえりー。どうだった?」


 居間には洗濯物を畳んでいる母さんと、ソファーに座りながら小説を読んでいる父さんがいた。


「色々と話していたかな。ていうか母さん、俺に黙って服とか用意するなよ」


「あーごめんなさいねぇ。でもどうせ住むんだし、予行練習と思えばいいじゃない?」


「全く……。まぁ、卒業したらアパートに向かうって話になったから。父さんは絶対に付いて来ないで」


「ハハハッ、まるで父さんが悪質ストーカーしているような言い方だなぁ。ちょっと傷付いたぞ」


「いや、実際にしそうだから困る」


「ひどい……」


 ともあれ住む場所が決まった、日程も決まったで、当面の問題はクリアとなった。

 

 ただ新たな問題が出てきた。

 俺が有名モデルと一緒に暮らしている事。それがクラスメイトとかに知られてはマズい事だ。


 同じ高校に進学する悪友は彼女のファンだし、俺と一緒に暮らしているのを知ったら黙ってはいないだろう。

 

 そうなれば瀬名さんに迷惑がかかる。

 こういう迷惑ごとは父さんだけで十分だ。


「……自分で進んでやったとはいえ、思いやられるな」


「なんか言った勇人?」


「いや何も」


 母さんに首を振ってから、俺はコップに麦茶を注いだ。

 それからおもむろに父さんの隣に座ったら、


「ん?」


「どうしたの?」


「……勇人、こっちに来てくれ」


「えっ?」


 父さんが何かに気付いた途端、俺を居間の外へと連れていった。

 

 すると……俺の服を至近距離で嗅いでくる。

 何やってんだこの人……。


「クンクン……女の人の匂い……となると間違いなくサーヤの匂い……。お前、まさかサーヤと……? イッタイドンナコトヲ……?」


「……単に瀬名さんの家に行って付いただけだろ。あとレイプ目やめろ……」


 コイツ、匂いで判断しやがった……。

 果てしなく気持ち悪い……。


 アニメの女子高生ならともかく、オッサンが匂いを当てたりレイプ目をしたりしてもドン引きするだけがな。

 というかもうヤンデレだよこれ。親子の縁切ろうかな。

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