謎本英雄記

幾千年

序章 第1話 未知との会合

 「将来の夢を教えてください。」

何度も見たその質問に何度心の中で、あるかよそんなもん、と言ってきただろうか。将来なんてきらきらと輝いたもの僕にはない。だが周りの奴らは違った。いつもみんなは明確な夢を心の中に大事に抱えていて、大切に育てていた。それが羨ましくもあり、なぜか妬ましくもあり。僕はずっと、待ちぼうけだ。夢は自ずと僕の方へやってくるものだと勘違いしていた。だからずっと待ちぼうけ。なんとなく生きてきた僕に、明るい未来なんて、果たして来るのだろうか。待っているだけの僕に果たして何ができるだろうか。そんな僕に、訪れたある物語。忘れることのできないあの時を、あの会話を、あの感情を、あの笑顔を。……僕は今でもずっと、ずっと、心にそっとしまいこんでいる。いつか来る「あの日」をずっと、待ちぼうけている。



 夏。とにかく暑い。日本はもはや、人の住める場所ではなくなった…。火星だ!火星に移住だ!!そんなことを、とにかくぼんやりと考えていた。火星の方がこの地球なんかよっぽど暑いなんてことを考える余裕もないくらいとにかく暑かった。高校生になって初めての夏。不安でいっぱいだった春はあっという間にどこかへ行ってしまい、なんとなく仲のいいやつができて、なんとなく過ごしていたら、夏がそそくさと「こんにちは」をしてきやがった。ふざけんな。こっちくんな。そんな中2の反抗期みたいな反応をしたくなる夏は、決して青春を謳歌できるような気温ではなく、むしろ青春そのものを潰しにかかる勢いだ。

自転車はそんな夏を漕いでいる間だけ、青春に戻してくれる。漕ぎ終わった瞬間、さらに強化された暴力的な夏が襲いかかるかわりに。


 「館内では、お静かになさいますよう、お願いいたします」


そんな暴力的な夏を凌ぐ最強の拒絶施設。その名も図書館んんん!!!………。見てくれが地味なやつって意外と中身はテンション高いのあるあるだよなあとか思いながら、僕は宿題に使えそうな本を探していた。市が運営するこの図書館はまあまあの規模で、まあまあの蔵書数を誇るまあまあすごいとこだ。それはともかく今時インターネットではなく図書室で本を探して宿題のレポートをやる奴が一体どこにいるんだろうか。まあでもなんかかっこよくないかね、みたいなノリで来てしまったわけだが、普段図書館を利用しないし、例のまあまあな規模なせいで、いい感じの本が中々見つからない。小一時間ほど探して、ようやくいい感じの本を見つけた。こりゃ若者も離れちゃうわなとか思いながらカウンター目指して歩いていると、傍に凄まじい量の本をまるで巨人の行手を阻む壁のように積み立て、「あ、私のじゃないです。」みたいな顔で、真剣に本を読む女の人が座っていた。


 「…まじか」


思わず声が漏れてしまうほどの量だった。そんな声が聞こえたのか、彼女はちらっとこちらを見ると、なんか悪いすかと怒られたあと開き直るガラの悪い中学生みたいな顔をして睨んできた。


「…ヒィ」


エアコンの効いた部屋の涼しさとは違う、感じたことのない悪寒が僕の体を撫でてきて変な汗が出てきた。僕は慌ててその人に軽く会釈をして、通常の1.3倍ぐらいの速さでそそくさとその場を去った。

 



これが彼女との(あんまり良くない)出会いだった。

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