第3章 生きた証
#生まれた場所
夜行バスで移動すること6時間。
ウィルソンの生まれ故郷である"キルト"に到着した。
ウィルソンとアリシアは手を繋いでバスを降りた。
「ありがとうマイクお兄ちゃん!」
バスの運転手のマイクに手を振る。
「おぉ。理由は聞かないけど、まぁ頑張れよアリシア」
マイクもアリシアに手を振った。
プシューという音と共にバスの扉が締まる。
ファアーンとクラクションを鳴らし、バスは走り出す。
降り立ったバス停の看板には"キルト市街地前"とある。
「ここが…僕の生まれ故郷…」
ウィルソンは初めてみる故郷に息を飲む。
雪の残る山々に囲まれ、緩いU字の斜面に等間隔に集落がある。緑と自然に恵まれた穏やかな街だ。
アリシアが両手を広げ深呼吸する。
「空気が美味しいねウィル」
「そうだね、すごく気持ちが良い」
街の中心部にある時計塔の時刻は4時40分を指す。
「さすがにこんな早朝じゃお店も開いてないだろうなぁ…」
ウィルソンはつぶやく。
「ホテルなら開いてそうじゃない?」
アリシアが答えた。
「ぁ…、そうだね。ホテルを探そう」
「うん」
2人は目の前に見える時計塔を目指し歩く。
時計塔に向かう途中、街並みの民家とは雰囲気の違う真新しい円柱形の4階建ての建物が目に止まった。
「ビジネスホテル…みたいだね」
"ホテルグランスイート"と正面上部に看板があった。
ウィルソンは入り口の自動ドアのボタンを押した。
ピロリロ~とチャイムと共にドアが開く。
ロビーの天井のシャンデリアが店内を照らす。
フロントに人の姿はない。
「お留守?」
「いや…入り口は開いてるから営業はしてるだろうけど…」
ウィルソンは受け付け台の呼び出しベルをチーンと鳴らす。
反応が無い…。
フロントの照明も点いているのに。
「すいませーん。誰か居ませんか!」
「はいぃ!」ゴトっという音と一緒にバックヤードから声が聞こえた。
フロント奥のドアが開き、人が出てきた。
「すいません、大変お待たせしまし…、ウィルソン!?」
「え!カリーナ!?」
白紫の髪と聞き覚えのある声の主はかつてのサーカス団の仲間、カリーナだった。
「久しぶりだねウィルソン、元気そうね」
「カリーナも元気でやってるみたいだね…、ここで働いてるの?」
「そうなの。いま夜勤の時間帯なんだけどさ…裏で寝ちゃってた…。まさかウィルソンに起こされるなんてね」
えへへ…と恥ずかしそうに舌を出すカリーナ。
話し方から雰囲気から昔とさほど変わらない。
左手の薬指にリングが見えた。
「あ、結婚…したんだね」
「え?あぁ、そうなの。去年のクリスマスにプロポーズされちった。相手はこのホテルのオーナーさんよ」
「そうなんだね。…おめでとう」
ホテルのオーナーさんと結婚したならフロントで仕事をしていても不思議じゃないもんな…。
「ウィルソンに"おめでとう"って言われるのあんまり嬉しくな~い」
ぷくーっと頬っぺを膨らませるカリーナ。
「え~、そんなこと言われても…」
「ふふっ、う~そ。ありがと!今とっても幸せだよっ!」
カリーナはニコッと笑った。
「私も、ウィルと一緒に幸せになるからね!」
アリシアが拳を握りしめ宣言する。
•••••••••••••。
「…おいてめこら、こんな小さい女の子にプロポーズでもしたんか?あ?」
カリーナがウィルソンを睨む。
「そんなことしてないよ!この子はアリシアちゃん。リズワルドの新しい仲間だよ」
慌ててアリシアについて説明をするウィルソン。
「アリシア•クラーベル8歳です!」
「あら、そうなの?よろしくね、私はカリーナ。元リズワルドの歌姫よ」
自分で歌姫って言うのかよ…。
「ウィルソンは大変よ~、トロいし鈍感だし」
「それは分かります」
え~…わかるの?
「でもウィルは凄く優しくてお菓子作りが上手なの」
「わかるわ~、ウィルソンのお菓子は美味しくて私も大好きだったぁ」
何やら意気投合し始めたぞ。
「私もウィルソンに負けてらんないと思って、料理のお勉強したくてね。イシュメルの"ティンカーベル"って喫茶店で3年前まで仕事していたわ」
「お姉さん"ティンカーベル"に居たの!?」
「そうよ、ティンカーベル知ってるの?」
「アリシアちゃんはイシュメル出身なんだよ」
ウィルソンが口を挟む。
「今女の子同士で話してるんだから、入ってくんなし」
ギロっと睨まれた。
「…ぁ、はぃ…」
「私ティンカーベルのアップルパイ大好きでお母さんと一緒に食べに行ってたなぁ」
「そうそう、アップルパイ美味しいよね~」
「でもウィルの作るアップルパイの方が私は好きかなぁ」
それは嬉しいな…。
「へぇ~、もう胃袋は掴んでんだね?やるなウィルソン。あとはアリシアちゃんが誘惑したら両思いね」
「…ゆう…わく?」
-アリシアの脳内では。
15歳に成長し、身体つきも雰囲気も大人びたアリシアが貝殻のビキニ、人魚の尾びれをくねらせ、ウィルソンを上目遣いで誘惑する。
「ねぇウィルソン~こっちへいらっしゃ~い♡」
「君は僕のものだよアリシア」 …-
「!…ぐはぁ」
アリシアは顔を真っ赤にして床にへたり込む。
意外とムッツリスケベなんだなぁ。
「カリーナもう良いから、これ以上アリシアちゃん困らせないでよ」
ウィルソンはアリシアを起き上がらせる。
「あぁそうそう。まだ5時前で役場も開いて無いから8時ぐらいまで休憩出来ない?」
「えーと、待ってね…。203号室なら空いてるわ、2階上がってすぐね」
カリーナはウィルソンに部屋の鍵を渡した。
「ありがとう。行くよアリシアちゃん」
「はい~」
ウィルソンはアリシアの手を引き階段を上がる。
(…なんでこのタイミングで再会するのよ…)
「…遅いよ……ばか」
#
カリーナから借りた鍵の番号は203。
階段を上がったウィルソンとアリシアは、本当にすぐの正面の203のプレートの付いたドアを見つけた。
ドアを開け部屋に入る。
するとすぐさまアリシアがシングルベッドまで走りダイブ!
「はぁ~…ふかふか…」
アリシアは安堵のため息をついた。
ウィルソンも中に入ってきてもう1つのベッドの端に座る。
「カリーナさんと仲良いね…」
アリシアがウィルソンに聞く。
「え?…まぁ、ずっと一緒に居たからね…」
「カリーナさんなんかヤだ…」
「あんなに楽しそうに話してたじゃん…」
「カリーナさんがって言うより、カリーナさんと話してるウィルがイヤだ…」
何かを感じ取ったのかヤキモチを妬いているアリシア。
「そりゃぁ、5年ぶりに会ったから懐かしかったし、昔としゃべり方も変わってなかったから…、ついね…」
「シエルお姉ちゃんとは違う仲良さだった!」
ちょっと興奮して口調が強くなってきた。
アリシアがウィルソンの顔を見る。
ウィルソンは5年前のカリーナにキスされた時のことを思い出ていた。
「……」
ちょっと頬が赤くなったウィルソン。
「もうヤだ!知らない!」
アリシアはベッドから飛び起き部屋から出て行く。
「ちょっと待ってよ!アリシアちゃん!」
ウィルソンはアリシアの後を追いかける。
階段を降りていくアリシアの姿が見えた。
アリシアは走って入り口の自動ドアを開け、外に出た。
「あれ?さっきの…」
フロントに居たカリーナが気づいた。
「ごめんカリーナ!ちょっと出てくる!」
ウィルソンが階段を降りてきた。
「お!なんだケンカか?追いかけろウィルソン」
ウィルソンはカリーナの言葉には反応せず、自動ドアを開け外に出て行った。
「……私の時もそんなふうに追いかけてよ…」
ロビーの柱時計が5時04分を指す。
「………帰ろ…」
_________
「…飛び出して来ちゃったけど、初めてくる街だからわかんない…」
アリシアが道に迷っていた。
バス停の方とは逆の方向に走ってきたのは間違い無いけど…。
「!ぅぐっ」
すると急に腕を掴まれ、手で口を塞がれ路地裏へ連れ込まれた。
まだ朝方、人も歩いて居ない。
アリシアは口を抑えられ、建物の壁に押さえつけられた。
「可愛い女の子だねぇ~。はぁはぁ…、金色の髪ぃ、さらさらだねぇ~、くんくん。はぁ…シャンプーの良い匂いだ…」
小太りな中年男が鼻息荒く、アリシアの髪の匂いを嗅ぐ。
「……ん…く…」
恐怖で声が出せない。成人男性の腕力に8歳の女の子が敵うわけがない。
アリシアの着ていた黒のTシャツを捲り上げ、脱がされた。男は剥ぎ取ったTシャツを地面に捨てる。
アリシアはキャミソールとパジャマのズボンの姿になった。
「おいしそうだねぇ、ぐふふ…、味見してもいい?」
「………」
アリシアは震えて涙を流す。
男はズボンのベルトを外し、チャックを下ろす。
ゴツン、と男の肩に石がぶつかる。
「その子から離れろ!」
ウィルソンが男に石を投げつけたのだ。
「っ!んー、んー」
アリシアは声が出せないがウィルソンに叫ぶ。
「あ?なんだお前…」
ウィルソンのYシャツの胸ポケットからリズが飛び出す。
(アリシアから離れろー!)
「リズ!」
リズは素早く男の背中によじ登り、男の耳たぶを噛み千切った。
「うがっ!いってぇ!」
男は耳を抑えた。アリシアから手を離した。
「アリシアちゃんこっちへ!」
アリシアがウィルソンの元へ走る。
「くそネズミやろう!」
男は肩に居たリズを鷲掴みにし、壁に叩きつけた。
キュ、と絞り出したような声をもらし地面に落ちた。
「リズ!」
アリシアが叫ぶ。
「くそ!おぼえてやがれ!」
男が路地裏の奥へ姿を消した。
アリシアとウィルソンはリズの元へ駆け寄る。
「リズ!ごめんね…私のせいで…」
(アリシア…無事か…)
まだ息はある。
「しっかりしろ動物病院連れていくから!」
ウィルソンはリズを両手で掬い上げ、ハンカチで包む。
「…ごめん…なさい…ウィル…」
アリシアが涙を流し謝る。
ウィルソンはアリシアを抱き寄せた。
「良かった…無事で…」
「こわかった…こわかったよぉ」
アリシアもウィルソンをギュッと抱きしめ泣いた。
地面に落ちていた黒のTシャツを拾い、土を払う。
「大丈夫…着れるよ」
アリシアはシエルから貰った黒のTシャツに腕を通す。
アリシアとウィルソンは手を繋ぐ。手の大きさは一回り違うが自然と"恋人繋ぎ"になっていた。
「この時間でも病院は開いているだろうから。もう一回ホテルに戻って場所を聞こう」
「うん」
2人はホテルに戻る。
自動ドアが開いた。
フロントにはカリーナではない、別の女性が立っていた。
「あの、カリーナさんは…」
「奥さまですか?奥さまならついさっきお帰りになりましたが…お知り合いですか?」
「あぁ、いえ。大丈夫です。動物病院の場所を教えていただけますか?」
「動物病院ですか?動物病院ならこのホテルの裏手になります」
「そうですか。ありがとうございます。203号室の部屋を借りた者ですが、お支払いがまだでしたね…」
「203室でしたら、さき程奥さまが"料金は頂かなくて良い"とおっしゃってましたね」
「ぁ…そうなんですね…」
なんかごめんねカリーナ…。
「では…ありがとうございました」
ウィルソンとアリシアはフロントの女性にペコッとお辞儀をし、ホテルを出た。
このホテルの裏にあるという動物病院へ向かう。
ホテルの裏手にある動物病院はログハウス風の建物で、入り口前にウサギやシカの木の彫刻が置いてある。
カーテンは閉まっていない。
入り口のスライドドアに手を伸ばし、中に入る。
「すいません!誰か居ますか!」
ウィルソンが店の奥に声をかける。
スタスタと女性が出てきた。
「は~い、どうなさいましたぁ」
「すいません、シマリス何ですけど…意識がなくて…」
ハンカチに包まれたリズを女性に見せる。
女性はハンカチを広げリズの状態を確認する。
「どれどれ~、痙攣しているみたいねぇ、脳震盪
かしら…。レントゲン撮ってみますので、椅子に掛けてお待ちくださいね」
女性はリズを引き取り、奥へ入って行った。
「大丈夫かなぁリズ…」
ウィルソンのズボンのぎゅっと握るアリシア。
「心配ないよ…待ってよう」
#
2人はロビーのソファーに座り、リズの診察の結果を待つ。
…待つこと10分。しっぽは包帯と当て板で固定され、すやすや眠るリズの乗ったプラスチックのトレーを持った女性が奥から出てきた。
「今は意識は取り戻して、眠っていますね。頭や身体の骨には異常はありませんが、しっぽの骨が折れていたようですね…」
「しっぽの骨が…折れてる?」
「えぇ、高い所から落ちた時にしっぽから落ちたか、飼い主が固い物をしっぽに落としたりした時になったかと思われますが…、心当たりはありますか?」
建物の壁に叩き付けられる時、咄嗟にしっぽで受け身を取ったのかも知れない。おかげで頭や身体への衝撃が緩和されたのかも知れない。
とにかく、大事には至らず安心した。
「…高い所から落ちたのかも知れませんね…。命に関わるほどではなく安心しました。ありがとうございます」
アリシアが強姦に襲われそうになったことは話さず、おおごとにしないでおこう…。
「しっぽの骨が完治するまで1週間ほどかかるでしょう…。当院で預かることも出来ますが、どうしますか?」
「はい。1週間ですね。宜しくお願いします」
リズを預けることにした。
「また迎えにくるからね」
ウィルソンは眠っているリズの背中を指で撫でた。
「無事で良かった…リズ…」
アリシアも胸を撫で下ろす。
診察料を払い、動物病院を後にした。
______________
街の中心の時計塔はこの場所からもはっきり見える。この街のシンボル的な建物なのだろう。
2人は時計塔を目指し歩く。
時計塔の時刻は6時15分。
街は散歩や花壇への水やりをする人々で賑わい始めている。
微かに聞こえるオルゴールの音色…。
「…このオルゴールの音…、どこから…」
「ウィル?」
ウィルソンは聞き耳を立て、音色のする方へ歩く。
音がだんだん近くなる。
"星に願いを"のオルゴールの音色…。
聞き覚えの…あるような…、
"ふーふーふふ,ふふふ~"ウィルソンはゆったりとした鼻歌を奏でる。
優しい声の母親の子守り歌を思い出した…。
「…この家だ…」
中心街から離れた民家も疎らな裏の通りの小さな木造の平屋の家の前。
屋根の至る所が剥がれ落ち、地面付近の木の壁は腐食により崩れ落ちている。
引き戸のドアノブに手をかける。
ドアノブを回すこともなく、すぐドアが開いた。
オルゴールの音色が止まる。
ウィルソンがドアを開ける。
生ゴミを放置したような酸っぱい臭いが鼻を突き刺す。
「うっ!」
思わず口を塞いだ。
「アリシアちゃんここで待ってて」
「私も行く」
アリシアは繋いでいた手を強く握る。
玄関先には生ゴミの入っているであろう袋が口も縛らずに散乱し、小バエが集っている。
廊下を渡るとすぐリビングがあり、電気も点いておらず薄暗い。
「ん?…だれだ…」
リビングの隅でうずくまる男性がウィルソンとアリシアの気配に気が付き、振り向く。
リザベートで見た指名手配の写真とは似ても似つかない、薄金の髪は肩まで伸びボサボサで顔は痩せこけ髭も伸びている。黒淵メガネの…お父さまだ…。
「ただいま…父さん…」
12年ぶりの再会で呼び方も話し方も定まらない。
「ウィルソンか…、おっきく…なったな…」
立ち上がる気力もないのか、床に座ったままウィルソンの顔を見てうっすら笑みを浮かべる。
ウィルソンはリビングの床に正座をする。
アリシアも真似をしてウィルソンの横に座る。
「はじめまして、おとうさま…」
アリシアが挨拶をする。
「僕は今、リズワルドサーカス団でピエロをしています。この子はアリシア、同じサーカス団の仲間です」
「そうか…。すまないな…格好悪いところ見せて…」
「何があった…、リザベートでは指名手配犯扱いされているなんて…」
「借金の徴収から逃げているんだ…」
「借金?いくら…」
「8500万Gだ」
「そんなに…」
父親から仕事の話しを聞くのは初めてだった。
12年前に長男を失い、次男は音信不通。同居の妻も4年前に亡くなった彼に、心の余裕などあっただろうか…。
「…私の会社は全部で4店舗あったが…すべて倒産してしまったんだ…。親父の代から引き継ぐにしても3億なんて借金を残したまま死んでしまった…。私だって…それなりに借金を返しながらなんとかやり切ろうとは試みたさ…」
きっと1人孤独に悩み、打ち明ける仲間も居なかったのだろう…。憔悴した今の父を…、僕はどう助けてやれるだろうか…。
「逃げていても仕方がない…。リザベートに戻って、罪を償うしかない…」
「それは…そうだが…」
「リザベートにあるウィンターズの屋敷は、僕に預からせてもらうよ…、父さんも母さんも居ない広い屋敷に…今、マリーが1人で居るなんて…かわいそうだろ」
「マリーか…、3年ほど屋敷には顔を出していない…。本当にすまないことをしている…」
「借金は僕が返すから、父さんはリザベートの刑務所で自首してくれよ。僕が必ず借金を返して迎えに行くから」
ウィルソンは立ち上がり父に背中を向ける。
僕に出来ることは借金を完済して、父を地獄から開放すること。迷いはない。
「そんな…なんでお前がそこまで…」
「なんで?何年離れていようが息子として父親を守るって決めたからだょ。僕の"育ての親"から貰った教訓だよ」
血の繋がりもない家族から大事なものをいっぱいもらってここまで生きてきた。
「僕はウィルソン•ウィンターズ。リズワルドサーカス団の人を笑顔にするピエロだ」
「……そうか…頼もしいな、自慢の息子だ」
ダニエルも…こんなサーカス団に入ることを夢見ていたのかもしれないな…。
「バスの時間に合わせてこの街を出発するから、着替えとか荷物とか用意してよ。僕は少しでもこの家の掃除をしておくから」
「…そうだな」
「じゃぁおとうさま、私がヘアセットをしてさしあげますわ」
アリシアがダグラスの背中にまわり、ショルダーバッグから櫛とハサミを取り出した。
「お嬢ちゃん、ヘアカットできるのかい?」
「私のお母さんは美容師で、いつも隣で見ていたし、切り方も少し教わったことがあるから」
「そうか…、宜しく頼むよ」
アリシアはダグラスの付けていた黒淵メガネを外しテーブルに置く。
「私のお父さんが言ってたの"男は内面が腐ってても見た目を綺麗に保ってりゃあまだやり直せる"ってね」
ダグラスのボサボサの髪を櫛で梳かす。
「臭いだろ…ごめんな…」
この家は電気も水道も止められて、もう3週間は風呂に入っていない…。
「私のお父さんすごく汗っかきで…毎日こんな臭いで海から帰ってくるの…。平気です…」
アリシアはポスターの顔写真のオールバックでキリッとした顔を思い出しながら、ダグラスの後頭部から縦にハサミを入れていく。
鼻までかかる前髪は眉毛と同じ長さまでカット。
束ねて切った髪は散らばらないように、床に敷いた新聞紙の上に置く。
肩に届く襟足周りはアゴのラインに合わせカット、うなじが見えてスッキリしてきた。
「ウィルもサーカス団の仲間たちも…、とっても優しい人たちですよ。ウィルが借金返して迎えに来たら。サーカス…観に来てくださいね!」
まだ出会って数日しか一緒に居ないけど…、こんなに優しい人たちでいっぱいのサーカス団に出会えた…。ウィルのお手玉…大事に持ってて良かったなぁ…。
「そうか…ありがとう…」
「せっけん…どこかにありますか?」
「石鹸?…キッチンのシンクの所…かな」
アリシアは櫛とハサミをテーブルに置き、キッチンに向かう。
キッチンのシンクにカラカラに干からびた石鹸があった。
蛇口をひねっても水は出ない…。
「じゃぁ…」
アリシアは廊下を渡り、玄関へ向かう。
「ごめんね、ウィル」
しゃがんでゴミをまとめるウィルソンに声を掛ける。
アリシアはショルダーバッグからT字のカミソリを取り出し玄関を出る。
ボロボロの雨樋から水が流れている。アリシアはその水で石鹸を濡らし、泡立てる。
「よし。これでOK」
アリシアはリビングに戻り、ダグラスの正面に座る。
「お髭剃りますね」
ダグラスはアゴを上に向ける。
手に付いた石鹸の泡を頬とアゴに塗る。
「お嬢ちゃんすごいね…、何でも出来るね。…お名前は?」
「アリシア•クラーベル8歳です。将来のウィルのお嫁さん。よろしくねおとうさま」
「そうか……楽しみにしておくよ、2人の結婚式…」
ダグラスは優しく微笑んだ。
ぽふっと顔が赤くなる。アリシアは髭剃りを続けた。
#
アリシアのヘアカットが終了した。
「お疲れ様でした。おとうさま」
ショルダーバッグに入っていた、保湿クリームをワックス代わりに髪をオールバックにセットしてヘアセット終了。
「ありがとうアリシアちゃん…」
ダグラスがアリシアにお礼を言う。
「どういたしまして」
アリシアはハンカチで手に付いた保湿クリームを拭う。
「…あとは…これをどうぞ」
アリシアはダグラスに差し出した物は…。
「これは?…」
「ウィルの手作りのお菓子です。これを食べて元気出してください、おとうさま」
アルミホイルに包まれたお菓子をダグラスに差し出す。
「ウィルソンの…お菓子…。ありがとう」
お菓子を受け取り優しく微笑む。
お菓子作り…小さい頃から好きだったもんな…。
「こっちもだいぶ片付いたよ」
掃除を済ませたウィルソンがリビングに顔を出す。
「ありがとう、ウィルソン。アリシアちゃん」
ダグラスは2人に礼を言い、立ち上がる。
「出かける支度をするから、2人は外で待っていてくれ」
ダグラスはテーブルに置いてある黒淵メガネをかけた。
「わかったよ、父さん」
ウィルソンとアリシアは玄関のドアを開け外に出る。
(ありがとう…ウィル…)
「!…リズ?…まさか…」
リズの声が耳に届き…、弱々しく…消えていった
…。
「え…どうしたのウィル…」
アリシアが聞く。
「リズが…、今息を引き取った…」
「そんな!身体は無事で助かるって…」
動物病院の女性からはそう説明は受けたが、近くに居ないはずのリズの声が耳に届いた…。
最期の別れの言葉が、霧のよう消えていった…。
ウィルソンはその場にしゃがみ込み、泣き崩れた…。
「ごめんな…助けてやれなくて…、ごめんな…」
「ウィル…」
アリシアがウィルソンの肩を擦する。
今まで我慢して溜め込んでいたものが、崩落していくような感覚…。
「兄さん…、団長…、レオン…、リズ…、近くに居たのに…助けてやれない…」
命の大切さに大きいも小さいも無い…。
ずっと一緒に行動を共にしてきたパートナーのリズを失った。助かると思って安心していた心の糸がプツリと切れ、感情が崩壊した。
僕はちっとも強くなんかない…、皆の前で泣けば心配を掛けてしまう…。馬車の屋根の上や宿舎のキッチンの隅で1人で泣いていただけだ…。
アリシアが後ろからウィルソンの頭を抱き寄せ、頭を撫でた…。
「よくがんばったね…、いい子いい子…。えらいね…だいじょうぶだよ~」
私がお母さんに泣きつくと、いつもこうして慰めてくれてたなぁ…。こんな優しい気持ちになれるんだね…。これが"母性?"ってことかな?
プッ!プッ!と短いクラクションが鳴る。
「おーぃ、泣き虫ウィルソ~ン。そんなとこで泣いてると轢き殺すわよー」
物騒なことを言う聞き慣れた声に、ウィルソンは顔をあげる。
ワインレッド色のオープンカーのハンドルを握るカリーナの姿があった。
「…カリーナ…」
「なんだその顔は…。どうした、"夫婦喧嘩"に負けたか?」
ウィルソンは1人動物病院に戻り、リズの状態を確認。受付をしてくれた女性もリズが息を引き取ったことは気が付かなかったようだ…。
後日、リズの亡骸を引き取りにくると女性に伝え、動物病院を後にした。
_____________
「ごめんねカリーナ…」
「大丈夫よ、途中までだけど、乗せてあげるわよ。大事な旧友ですからね」
カリーナの運転する4人乗りのオープンカーに乗せてもらえるとこになった。
アリシアは助手席に、ウィルソンとダグラスは後部座席に乗る。
「カリーナさんはこれからどこに行くの?」
アリシアがカリーナに聞く。
「"シンクローズ"って西の街の新築の別荘の下見にね。旦那さまが先に行って待ってるみたい。1時間半くらい掛かるかなぁ…」
「別荘!すごい!」
アリシアは目をキラキラさせる。
「ウィルソンたちはリザベートに行くんでしょ?ウィルソンのお屋敷の方が立派よ?やったねアリシアちゃん!お姫様みたいね」
「私が…お姫様…」
カリーナにはリザベートのお屋敷に住んでいたことは話してたんだっけなぁ…。よく覚えてるな…。
「シンクローズからリザベートまでだと2時間くらいかな?…さすがにリザベ-トまでは送って行けないや…悪いね」
「そんなことないよ。ありがとうカリーナ。すごい助かるよ」
「良い友達を持ったなウィルソン」
「そう…だね」
父親に仲間を誉めて貰える日が来るなんてね…。
なんだか気恥ずかしい…。
「お、ここだここだ」
一般道路を走るカリーナの車は道路を外れ、草原を突き進む。
「おい、カリーナ…。こっち道じゃないだろ…」
「え?何いってんの?道じゃん?」
草原を抜け林の中に入る。
「カリーナさん…だいじょう…ぶ?」
アリシアがシートベルトをギュッと握る。
「大丈夫よ。"私の行く所に道はできる"ってね!」
街まで1時間半ってそういうことか!!
こんな高級車で轍(わだち)もない林の中を良く走れるな!しかもオープンカーだぞこれ!
「飛ばすわよ~、しっかり掴まって~」
「飛ばすな!」
ウィルソンが叫ぶ。アリシアは目を回す。
ダグラスがシートベルトにしがみつきうずくまる。
いつの間にか、さっきまでの悲しみはどこかに吹き飛んでいた…。
そういえば…、カリーナはいつも僕が悲しい顔をしていると、その何倍もの明るさと突拍子もない行動で元気付けてくれてたっけ…。
#寄り添う心
無事、事故にもならず怪我もなく、カリーナの目的地である"シンクローズ"に到着した。
「いや~、楽しいドライブだったね~」
カリーナは運転席に座り背伸びをする。
「…死ぬかと思った…」
「私も…」
「…良かったじゃないか…、無事に着いて…」
他の3名は、無事生き延びていることが奇跡のようだと安堵のため息をつく…。
カリーナはシンクローズの中心街のバスターミナルに駐車してくれた。
案内図の看板にはシンクローズ周辺の路線が書いてある。
バスで一般道路を走っていれば、3時間はかかるルートをショートカットして1時間半で到着したようだ…。
"ピルルルルルル"と着信音が鳴る。
「ぁ、電話だ…」
カリーナは座席の下のカバンを漁る。
シャンパンピンクカラーのガラケー(ガラパゴスケータイ)を取り出した。
顔と同じくらいの大きさのストラップ…というか、クマのぬいぐるみが付けられていた…。
「ぁ、もしもし、ダーリン?…あ、うん。今着いたとこ。…えへへ~、早いでしょ!」
電話の相手は旦那さんのようだ。
「うん…、もう少ししたら着けるかも。
え?…ぁ、お花屋さんね、はーぃ…はーい、わかったー、待っててね~、じゃね~バイバーイ」
カリーナは電話を切った。
「…ってなわけで、ダーリンから電話かかってきちゃったから、今から行かないと…」
「そうだね」
アリシア、ウィルソン、ダグラスはシートベルトを外し、車を降りた。
「ありがとうカリーナ。すごい助かったよ」
「いいってことよぉ。困った時はお互い様なのよ。ウィルソンもあんまりアリシアちゃん泣かすなよ~。いや、逆か?」
「大丈夫!ウィルが元気ない時は私が"いい子いい子"するね!」
「こいつ泣き虫で弱っちぃけど。よろしく頼むね、アリシアちゃん!」
「うん!」
パチン、とアリシアとカリーナはハイタッチをした。
「お父さまもお身体に気をつけて」
「ありがとうお嬢さん」
カリーナは車のエンジンをかける。
「じゃあな、ウィルソン。がんばれよ!お父さまのために…。応援してるぞ!」
「カリーナも…がんばれよ」
ウィルソンとカリーナはグータッチを交わす。
カリーナは車を走らせた。
「バイバ~イ。カリーナさーん」
アリシアは大きく手を振った。
時刻は9時36分。商業施設と一体になったバスターミナルにはリザベート行きの他にも、キルト行き、サンクパレス行きもあった。
リザベート行きのバス停の前にはすでにバスが到着し、出発を待っている。
9時42分発-11時21分着のバスに乗ることにした。
料金所の電光掲示板には"大人820G子人410G"とある。
アリシアが料金所にお金を払う。
「ごめんねアリシアちゃん…こんなに出してもらっちゃって…」
「遠慮するなよウィルソンくん。このためにお母さんからお金貰ってきたんだぞっ」
アリシアはペロッと舌を出し、ウィンクした。
…なんかキャラ違くない?
カリーナの話し方を真似して寄せているのかな?
「…これやっぱり私じゃない…」
違ったらしい…。
3人はバスに乗り込んだ。
30名ほど乗ることの出来るシャトルバス。
「もうすぐリザベートに帰れるね」
「そうだね」
座席に座り、シートベルトを締めた。
アリシアが窓側、ウィンソンが隣の通路側、通路を挟んで反対側がダグラスだ。
出発を知らせるアナウンスが車内に流れる。
「…ねぇウィル…」
「…うん?」
「私は…もっとあなたの事を知ってないといけないと思う…」
「ぁ……」
うまく表現出来ないけどこのままじゃダメだ…。
「…私もリズワルドに入ったんだから。これからもずっとウィルの傍に居るって決めたんだから…」
「アリシア…」
ウィルに悲しい顔をさせないために…、私が出来ること…。
「だから私に…全部話して。あなたの悲しみを解ってあげたいから…。だから―」
「ありがとう…アリシア」
僕は何も考えず、アリシアを強く抱きしめていた…。
"小さな女の子だから"と気を遣って話さないようにしていた、僕の方がバカだ…。
こんなに近くで寄り添ってくれているのに…。
寂しい思いをさせてしまっている…。
この子を離したくない。
頼っても良いんだって…。
そう思える人に出会えた。
強く抱きしめたその小さな身体が、とても大きな心で包み込んでくれた気がした。
アリシアはウィルの背中に腕をまわす。
ウィルソンの肩に乗せた顔は幸せを噛みしめているような優しい表情をしている。
あぁ…やっぱり…ウィルにぎゅ~ってされるの…、すごく落ち着くなぁ…。やっぱりこの人が私の王子さまだよ…。
あなたと一緒に居たい…。私も強くならないとね。
「ずっと一緒だよ…ウィル…」
「そうだね…ずっとそ―」
ファアーン!とバスのクラクションが鳴り、
ビクッ!っとなった2人は我に返り、顔を真っ赤にして距離を取る…。
(ふふ…、青春しているなぁ2人とも…。私にもあんな初々しい時代があったな…)
隣の席に座るダグラスが2人の様子を見て微笑んでいた。
バスは走りだし、ターミナルを出る。
シエルたちが待つリザベートに向かう。
#悲しみ乗り越えて
カリーナの脱退から3年が経った夏の終わり。
海岸沿いの"シアラット"という街を訪れた、リズワルドサーカス団。
今回の遠征メンバーは、ゴードン団長、ライアン、シエル、マイル、ウィルソン、クロヒョウレオン。
シアラットの中心街の小劇場を借りて公演を行えることになった。
時刻は14時15分。
ホテルのチェックインを済ませ、午後の客寄せの時間。
ウィルソンとライアンはレオンを連れ小劇場前の公園を訪れた。
レオンにはリードは付いていない。
人間の年齢では70歳を越える大人のクロヒョウなので、急に暴れたり、逃げるようなことはしない。
街の人々はレオンの姿に釘付けになる。
「人気者だな、レオン」
「さすがに目立ち過ぎだよね…」
(悲鳴を上げられると後処理が大変だがな…)
レオンの声が耳に届く。
漆黒の毛並みは太陽の反射でキラキラ輝き、すれ違う人々を魅力する。
多少のリスクは考慮しなければ、観客は増やすことは難しい。
「ここにしよう」
「そうだね」
小さな子供たちが砂遊びをする砂場前。
ウィルソンは石のベンチにマジックの道具が入ったトランクを置いた。
「みんなー、これからお兄さんたちが面白いものを見せるから楽しんでいってねー」
ライアンが砂場で遊ぶ子供たちに声を掛ける。
「え!なになに?」「うわ!なんか黒いの居る」
子供たちが集まる。
子供の心を掴めば、その子供は親にサーカス団のことを話す。
2日後の小劇場公演の集客に繋がる。
ライアンはトランクから"クラブ"を3本取り出し、ジャグリングをする。
ウィルソンはトランクから白のお手玉を3つ取り出しジャグリング。
「すごいと思ったら拍手お願いしまぁす」
ジャグリングをしながらベンチを離れ、2人は5mの間隔を取る。
「「はい!」」
かけ声と共にフォーメーションチェンジ。
客寄せの時は特に打ち合わせはしていない。
パートナーが何を使って、次にどんな行動をするかも、一緒に旅をする中で理解出来るようになる。
レオンはまだ砂遊びをしている子供の注目を集めるため、子供を背中に乗せて砂場の外周を走り回る。
ライアンとウィルソンの息の合ったジャグリング。
「はい、ここから混ぜて行きまぁす」
クラブ3本とお手玉3つを混ぜ込んだジャグリングをする2人。
形状の違う物を一定の速さで投げてキャッチするのはお互いの息が合って初めて出来ること。
ライアンは足を開いて股の間でキャッチするなど小技を見せる。
子供連れの女性は、おぉ~、と感心する。
公園には親子やカップルなどで人口が増え、
午後の部の客寄せは大成功だ。
客寄せが終わりトランクに道具をしまうウィルソンとライアン。
「大きな黒猫さん…、触ってもいい?」
レオンの近くに4歳くらいの女の子がやってきた。
砂場に居た子供ではなかった。
客寄せが終わってから公園にやってきた1人の少女。
ウィルソンが女の子に近寄る。
「うん。いいよ。クロヒョウのレオンって名前だよ」
地面に寝転がっていたレオンはすっと立ち上がる。
女の子の身長とレオンの頭の高さは同じぐらいだ。
レオンは頭を低くして女の子に撫でさせた。
「ふかふかであったかい…」
女の子はにっこり笑う。
「背中に乗せてあげたら?」
ライアンが提案する。
「そうだね。…背中乗りたい?」
「うん!乗る!」
女の子はぴょんぴょん跳ねる。
ウィルソンは女の子を抱き上げ、レオンの背中に乗せる。
「大丈夫?レオン」
(良いさ、これも大事な仕事だ)
「ふかふかでくすぐった…」
「落ちないように掴まっててね」
「うん!」
レオンはゆっくり砂場の外周を歩き、元の位置に戻る。
「どうだった?」
「たのしかった!ありがとう!」
女の子は笑って礼を言った。
ウィルソンが女の子を抱き上げ、地面に降ろす。
女の子はその場でぴょんぴょん跳ねた。
すると女の子は着地した瞬間、レオンのしっぽを踏んでしまった。
レオンは痛がる様子もなく、しっぽをシュッと足の下から引き抜いた。
女の子はバランスを崩し転んでしまった。
「大丈夫!?痛いところない!?」
ウィルソンは急いで女の子を起き上がらせる。
「うわぁ~ん!いた~い」
泣き出してしまった…。
(すまないウィルソン…。怪我はしていないようだが…)
レオンは身体を丸め、女の子を包む。
「ごめんね…。痛いの痛いのぽーい」
ウィルソンが泣き止ませる。
「ほらー、見て見てー」
ライアンが変顔をする。両手の人差し指で瞼を吊り上げ、親指で豚鼻にする…。
「…………ふふ」
女の子は笑ってくれた。
「ごめんね。歩いて帰れるかい?」
「うん」
女の子は手を振り公園を出て行った。
「冷や冷やしたね~」
「…そうだね」
(…子供相手は何が起こるか予想できんからな…)
午後の客寄せが終了し公園を後にした。
ウィルソン、ライアン、レオンはシエル、マイルと合流し、ホテルに戻る。
____________
時刻は16時40分。
チェックインをした海岸沿いのホテルは、オーシャンビューが望める露天風呂付きのリッチな客室だ。そこの大部屋に3泊することになった。
「露天風呂だってよ!すげー眺め!」
「天気も良いし最高ね-」
はしゃぐ双子姉弟。
「ウィルも入りましょ-」
シエルがウィルソンを呼ぶ。
「わかった、待って水着用意するから」
宿舎を出る前からこのホテルに泊まれることを楽しみにしていた双子姉弟は、水着持参で露天風呂に入ることは決めていた。
シエルとマイルはもうすでに服の下に水着を着ている。
「ライアンも一緒に入ろうー」
「え!…俺は…1人でゆっくり入るよ…」
「あらそう…」
ライアンと双子姉弟はあまり遠征で一緒のメンバーになることがない。
ライアンはシエルのフランクな対応に合わせるので精一杯だ。
部屋には団長の姿はない。
団長は今朝のチェックインの後、別遠征組のリーガルから連絡があり、この街を離れている。
「はぁ~、気持ちい~」
「ライアンも入れば良いじゃん。なぁ?」
「シエルに緊張してるんじゃない?」
3人仲良く温泉に浸かる。
「え?わたし?」
「…まぁ、確かに姉さんとの絡みは少ないな」
「そんな気にしなくて良いのにね、水着着てるんだし…」
6歳の時から双子姉弟と一緒にいるウィルソンにとってはシエルの身体を性的な目で見ることはないが、接点の少ないライアンからしてみれば、
シエルの豊満な胸にはやはり戸惑うようだ。
「3人仲良く入ってると三兄弟みたいだな!」
「そうだね」
「そうだねじゃない!わたし男じゃない」
_________
―時間を少し戻し、15時20分。
「えっ!サーカス団の人たちに転ばされた!?」
「うん…"痛いの痛いの"してもらったぁ」
「大丈夫なの!?怪我は無い!?」
公園でサーカス団の"大きな黒猫さん"と遊んだことを家に帰って母親に話す少女。
転んで泣いてしまったことも話す。
「ちょっと…あなたぁ!」
話を聞いた母親がイライラを募らせ夫を呼ぶ。
「どうした?」
「今この街に来ているサーカス団にミーアが怪我させられたって!」
「でもママ…」
「なんだと!それは黙っちゃいられないな」
母親はヒステリック気味に怒りをあらわにする。
「私の大事な娘になんてことを…、こんなことをしてタダじゃ済ませないわよ!」
「サーカス団を探しに行くぞ!」
怒りで理性を忘れた母親は娘の話もろくに最後まで聞かず部屋を出る。
母親と父親は庭で飼っている"ドーベルマン"4匹を連れ中心街へ向かう。
番犬として飼われているドーベルマンは近所の住民も近付けないほど凶暴に躾されている。
―そしてサーカス団の泊まるホテルでは…。
ウィルソン、シエル、マイルは温泉から上がり、ライアンと交代していた。
「ここの夕食はビュッフェスタイルみたいよ?」
ドライヤーで髪を乾かすシエルが言う。
「ビュッフェ…ってなに?」
「好きなだけ食べ放題ってことらしいぞ」
「そうなんだ」
楽しみにしていただけに下調べは完璧のようだ。
「おーぃウィルソーン」
浴室からライアンが呼ぶ。
ウィルソンはライアンの声に気付き浴室の扉を開ける。
「どうしたのライアン」
「中庭の方から犬が吠えてる声が聞こえるんだ」
ライアンは浴槽に入ったまま中庭を指差す。
今いる部屋はホテルの4階だ。
オーシャンビューが望めるこの浴室から中庭の様子も見ることが出来る。
「本当だ…、怒っているみたいな吠え方だね…」
大型犬が吠えているようだ。
1匹ではない、複数匹いるようだ。
中庭にはサーカス団の馬車が停めてある。
ウィルソンはベランダの柵から身をのりだし中庭の様子を確認する。
するとドーベルマン4頭が馬車の周りを取り囲み、飼育小屋に向かい吠えている。
飼育小屋にはレオンが乗っているはずだ。
「レオンになにかあったのかな…」
「レオンに吠えてるの?あの犬たち」
「ちょっと僕中庭行ってくるからライアンも後で来てね」
ウィルソンは浴室を出る。
「ちょっとレオンの様子が気になるから外出てくるね」
ウィルソンはベッドに寝転がる双子姉弟に話す。
「レオン?…おぉ、わかった」
「何かあったら教えてね」
「うん」
ウィルソンは部屋を出てエレベーターで1階に降りた。
ドーベルマン4頭を連れた夫婦はこの街に来ているサーカス団の馬車を探すため小劇場前を訪れた。
「ここの公園でミーアが怪我させられたってことか…」
「私、そのサーカス団の人たちを同じ目に遭わせないと気が済まないわ。大事な娘を…」
警察庁長官の夫と専業主婦の妻。
夫の稼ぎが良いことに、庭付きの豪邸に住む妻はブランド物の指輪や洋服で身なりを飾る。
「この子たちにサーカス団を襲ってもらえば、私たちは手を汚さなくて済むわよね?罪にはならないわ」
「お前…本気でそんなこと―」
「あなたミーアが可哀想じゃないの!?」
一度キレると理性を失う妻に夫は逆らえない。
ドーベルマン4頭は公園の地面の匂いを嗅ぎ、レオンの匂いを探る。
#
夫婦がたどり着いのはホテルの中庭。
「あんな所に馬車が…」
「サーカス団が移動に使う馬車だわ」
ドーベルマン4頭の首輪を外し、中庭に放つ。
「頼むわよあなたたち!」
夫婦はホテルを離れ街へ消えて行った。
ドーベルマン4頭は一斉に走りだし、馬車へ近寄る。
「ミーアが言う"大きな黒猫"ってのはここに居るみたいだな」
「獣の匂いだな」
「おい!居るんだろ!出てこいよ!」
飼育小屋のカーテンがなびく。
レオンが顔を出す。
「なんだお前ら騒々しい」
気だるそうに相手をするレオン。
「ミーアに怪我させたんだってな?」
「ご主人がお怒りだ」
「お前に仕返しして良いってさ」
「始末しろってさ」
ドーベルマン4頭は言う。
「ミーア?昼間泣いたガキか?あいつは俺のしっぽ踏んで勝手に転んだだけだが?」
ちっ、これだからガキが絡むと面倒なんだ。
なんでも事細かく親に話しちまうからな。
「で?俺をどうするって?」
レオンがドーベルマンに聞く。
「仕返しってどうするんだ?」
「存在を消すってことじゃん?」
「とりあえず噛みつきゃいいんだな」
ドーベルマン4頭はレオンをどう始末するか考えている。
「生意気言うじゃねぇかガキども。いいだろう、相手してやる」
レオンは走り出し、馬車を離れ海岸へ向かう。
ドーベルマンたちは吠えながらレオンの後を追う。
ホテルを出て中庭にたどり着いたウィルソンは馬車の周りに居たはずのドーベルマンが無いことに気付く。
飼育小屋のカーテンを開ける。
「レオン居る?」
小屋の中は静まり帰り物音ひとつしない。
「あの犬たちはどうしてレオンを…」
ウィルソンは海岸へ向かうことにした。
レオンは海岸へたどり着いた。
そこは高波打ち付ける断崖絶壁の拓けた場所。
「ここなら好きなだけ暴れられるだろう」
ドーベルマンたちがレオンを追い詰める。
「追い詰めた!逃がさねぇぞ」
ドーベルマンの1頭がレオンめがけ突っ込む。
レオンの前脚に噛みつこうとしたが、レオンはするりとかわし、ドーベルマンに後ろ脚でドロップキックを浴びせる。
「ちっ、くそが!」
後ろで待機していたもう1頭も加わり、再びレオンに攻撃を仕掛ける。
レオンはするりと攻撃を受け流す。
「レオン!何してるんだ!」
ウィルソンの声だ。
ウィルソンはドーベルマン2頭に襲われているレオンを助けようと落ちていた木の棒を拾う。
(なに!来るんじゃねぇウィルソン!)
「えっ!」
(おせぇよ!)
気付いた時にはもう遅かった。
ドーベルマンの1頭がウィルソンに向かい飛び掛かる。
「うわっ!」
(ウィルソン!)
レオンも2頭の相手をしていて助けに行くことが出来ない。
(お前もあいつの仲間か?取り込み中だ、邪魔するな)
地面に倒れ込んだウィルソンの背中に乗り、三つ編みを口に咥えグイッと頭を引き寄せる。
「ぐっ…」
(見てみろ、最初は威勢が良かったが、今はあいつらの相手だけで精一杯だ。あれじゃ助けに来れないな)
「レオン…」
昔は"兄貴"と呼ばれ強さに誇りがあったクロヒョウとはいえ、長年サーカス団に携わっている間に野生本能は薄れて行っているに違いない。
もう1頭のドーベルマンがウィルソンの首に噛みつこうとしたその時…。
「邪魔だどけぇ!」
ウィルソンの背中に乗っていたドーベルマンを蹴り飛ばした威勢の良い低い声。
蹴り飛ばしたドーベルマンはもう1頭を巻き込みふっ飛ぶ。
「団長!」
「まったく、ネルソンもお前らもなんてざまだ…」
別遠征組に会いに行ったはずの団長が助けにきたのだ。
「起きろ!襲ってくるぞ!」
ふっ飛んだドーベルマンは体勢を立て直しゴードンに向かい襲い掛かる。
(次から次へと邪魔ばかり!)
飛び掛かろうとするドーベルマンの首をゴードンは裏拳で払う。が、怯むことなく再び襲い掛かる。
もう1頭はウィルソンの左脚に噛みつき、首を振る。
「ぐっ!」
ウィルソンは足を取られ、バランスを崩し地面に頭を打ち付け倒れ込む。
そのまま崖の方へ引きずられる。
(このまま海に落としてやろうか)
「ウィルソンを離せ!」
ライアンが追い付きドーベルマンの頭を木の棒で叩いた。
ドーベルマンは足から口を離した。
「大丈夫かウィルソン!」
ライアンがウィルソンの腕を引き、起き上がらせる。
「うん…ごめんライアン…」
レオンが相手をする2頭は体力も衰えず攻め続ける。
ドーベルマンの1頭がレオンの右肩に噛みついた。
レオンも負けずドーベルマンの首に噛み付く。
お互い噛む力は緩めない。
「これでどうだ!」
もう1頭がレオンの腹部に噛み付く。
「ぐふぁ」
反射的に口を離してしまった。
すかさずドーベルマンはレオンの首元に噛みつき首を振る。
グルル、と喉を鳴らし、噛む力が増していく。
噛まれた首元は締めつけられ息が出来ない…。
柔らかい腹部はボロボロに千切れ内臓が飛び出す…。
意識が遠くなる…。
力の入らない身体は成す術なく、引きずられ振り回される。
「レオン!」
ゴードンが叫ぶ。
ゴードンの両腕にドーベルマン2頭が同時に噛み付く。
「ぐっ!くそっ」
ドーベルマンの噛む力は尋常ではない。
腕に食い込むキバは皮膚を貫き肉を裂く。
ドーベルマン2頭はゴードンの腕に食らい付いたまま首を振る。
「くっ、邪魔だぁ!」
ドーベルマンに噛まれた腕をそのまま振り上げ、思いっきり振り下ろし地面に叩き付けた。
衝撃に耐えきれず2頭は口を離す。
「レオン!」
ゴードンが走る。
レオンの首元を噛むドーベルマンは勢い良く振り回し、レオンを海へ投げ飛ばす…。
ゴードンは投げ飛ばされたレオンを抱き寄せ、海へ飛び込みそのまま落ちていった…。
「「団長!レオン!」」
ライアンとウィルソンが崖下見る。
波が岩肌にぶつかり水しぶきが上がる。
「降りよう!」
「うん!」
_____________
ゴードンはレオンを抱き抱えたまま岩場にしがみつく。
「まだだ…しっかりしろレオン…」
「……」
陸に上がりレオンの心音を確認する。
喉元の肉は千切れ、えぐれた腹部から内臓が垂れ下がる。
ゴードンはドーベルマンに噛まれ血まみれの手でレオンの傷口を押さえる。
呼吸が苦しい…、鉄の味が身体を伝う…。
折れた肋骨が肺に刺さっているようだ…。
意識が朦朧とする…。
「レオン…」
(わりぃ…おやっさん…)
…これは…レオンの声か…
突然耳に届いた低い声はレオンのものだろう。
(…最後まで迷惑かけてしまうな…)
「バカが…迷惑なんかじゃねぇよ…家族だろうが…」
絶え絶えの息、弱々しく脈打つ内臓…。
(あんたに拾ってもらえたあの日から…、俺もだいぶ年老いちまったようだ…)
「そうだな…お互い…年を取った…」
20年以上連れ添ってきたレオンと会話をするのは初めてだ…。
「おめぇ…こんなんなるまで俺に心開いてなかったのか?…」
(そんなことはないさ…、大事なパートナーだからな…)
「そうか…」
(最後にあんたと話せて良かった…)
「あぁ…俺もだ…」
(わりぃ…おやっさん…)
「…なんだ…」
(少し…休む…)
「あぁ……………おやすみ…相棒…」
レオンの表情はやわらかく安心した顔をしていた…。
レオンの鼓動が止まり、耳を包んでいたくもりが霧のように晴れていった…。
「「団長!」」
ライアンとウィルソンが駆け付ける。
「おぉ…お前たち…無事みたいだな…」
ゴードンはレオンを背中に担ぎ、フラフラになりながらも立ち上がる。
ライアンとウィルソンはゴードンの両脇に入り身体を支える。
団長の腕はボロボロに噛まれ血が垂れる。
「団長…ごめんなさいこんなに怪我するまで…」
ウィルソンが言う。
「なぁに…お前を助けられて良かったさ…」
「でも…レオンが…」
「見てみろ。こんなにキズだらけなのに…、レオンのやつ…、笑ってやがる…」
「ごめんレオン…助けられなくて…」
ライアンが涙を流す。
「レオンは俺たちを守ってくれたんだ…。ごめんじゃねぇよ…、ありがとうだろうが…」
「「ありがとう…レオン…」」
「そうだ…、それで良い…レオンが―」
アドレナリンが切れ、ボロボロの腕や全身に激痛が走る。視界が灰色に染まり意識が遠退く―。
「「団長!!」」
____________
白い天井、暖色の蛍光灯、黄色のカーテン。
俺は…、生きているのか…。
ここは…、ベッドの上か…。
ゴードンが意識を取り戻したのはベッドの上。
起き上がろうとするが身体に力が入らない…。
天井に向かい伸ばした腕は、包帯で巻かれていた。肘から先が無い…。
「あぁ…あんなボロボロじゃぁな…」
ゴードンは状況を理解した…。
「ぁ、団長…、良かった目を覚ましたんですね…」
声のする窓際に目を向ける。
ウィルソンが居た。
「ウィルソン…か、ここは…どこだ」
「サンクパレス病院ですよ。団長は1週間眠っていたんですよ…」
「帰ってきたのか…」
「団長の腕は…、修復不可能とのことで…残念ですが…」
「そう…だな」
「皆に団長が目を覚ましたこと伝えてきますね」
「おぅ…」
ウィルソンは病室を出て行った。
「わりぃ皆…、俺はもう…長くねぇみてぇだ…」
ドーベルマンに噛まれたことにより"狂犬病"を発症した団長は、高熱と呼吸困難に陥る。
点滴による治療はほぼ効くことはなかった。
主治医の話を聞きに行ったリーガルとキースは、
団長の余命がわずか数日と診断結果を受けた。
団長の余命宣告を受けた2日後。
ウィルソンは病室の花瓶の花を取り替えている。
「なぁ…ウィルソン」
「……はい」
団長に呼ばれ振り返るウィルソン。
「どうした…、湿気たツラしてんな…」
「ぁ…いえ、大丈夫ですよ…」
ウィルソンにも団長が余命わずかなことは聞かされている。
平静を装いながら団長に接するのは心が傷む。
「お前の…"人を笑顔にするピエロ"の夢…。叶えるまで一緒に居てなれなくて…わりぃな…」
「…どうしたんですか…、団長が…僕に謝るなんて…」
ダメだ…。声が震える。
「…シエルとマイルの姉弟は…、色んな国に旅行に連れて行ってやる約束…出来なくなっちまったな…」
「ライアンは…レオンが居なくなって寂しがってないか…」
ゴードンはサーカス団の仲間のことを最後まで気に掛ける。
「団長が謝ること…無いですよ…。皆…元気ですよ…」
団長の言葉ひとつひとつが別れの言葉のようで…、団長を元気付けてあげられる言葉が…
僕には見つからない…。
「なぁ…ウィルソン」
「はぃ…」
「俺の息子のネルソンは…人に甘えるのを恥ずかしがるヤツなんだ…。だから…お前だけでもあいつのそばで…、味方で居てやってくれな…」
「団長…、わかり…ました…」
ウィルソンは団長の包帯で巻かれた腕を両手で包む。
団長は曇りが晴れたような優しい表情をしている…。
「あぁ……これで……心配いらねぇ…―」
……やっと…会いに…行ける……
ウィルソンの掴んでいる腕は力を失くし…。
心電図の針の動きが止まった。
「父さん!大事な話―」
ネルソンが病室の扉を開けた。
病室に響くピーーという心電図の音…。
「ぁ…ネルソン。ごめん…僕は先生を呼んでくるね…」
ウィルソンはネルソンを病室に残し、廊下へ出る。
「そんな…父さん…うそだ…、まだ数日あるって…」
揺さぶっても目を覚ますことはない父に話しかける。
「父さん!…まだおれ…父さんに何もしてあげれていないのに!」
右足のズボンの裾を捲り上げる。
「ほら、見てよ。蛇に噛まれた足もすっかり治ったんだ…。なぁ…父さんが教えてくれたんだ…、…起きろよ父さん!…父さん…」
ウィルソンは病室前の廊下で声を抑え、泣いた…。
数日後、団長とレオンの火葬が執り行われた。
#これが僕の家族だよ
ウィルソン、アリシア、ダグラスの乗せたバスはリザベートに到着した。
「帰ってきたね」
「そうだね」
アリシアとウィルソンは席を立つ。
「父さんは、大丈夫?」
「あぁ…心配ない」
3人はバスを降りた。
バスを降りると警察官が3人バスの出入口で待ち構えていた。
「ダグラス•ウィンターズだな!お前を逃走の罪で連行する!」
警察官の1人がダグラスの腕を掴む。
「ちょっと待ってください!」
ウィルソンが割って入る。
「僕たちはこれからリザベート刑務所に向かいます!必ず連れて行きますから…少し時間をください!」
「ウィルソン…」
「あんたは?」
警察官が聞く。
「ウィルソン•ウィンターズ。ダグラスの息子です!必ず連れて行きます!お願いします!30分だけ時間をください!」
「私からもお願いします!必ず連れて行きますから!」
アリシアも一緒になり警察官にお願いをする。
「解りましたよ…」
逃走を図られないよう、念のため警察官1人がウィルソンたちに同行することになった。
時刻は11時25分。
ウィルソンたちはバス停を離れ坂道を登る。
坂道の先にはお屋敷が見える。
「あれがウィルのお家?」
アリシアが前方を指差す。
「うん、そうだよ」
「ここから見てもすごい大きい!」
アリシアは初めて見るお屋敷に目をキラキラさせる。
坂道沿いに並ぶショップには目も暮れず、これから住むことになる屋敷に心踊らせる。
屋敷の正門前にたどり着いた。
「変わっていないな…3年前と…」
ダグラスが庭園の様子を見て言う。
「マリーが今まで1人で手入れをしてくれていたんだね…。ちゃんとお礼言わないとね」
「そうだな…」
屋敷の庭園は、庭木の剪定から玄関まで続く薔薇のアーチまでひとつの花も枯れることなく生き生きと咲いている。
噴水の水も流れ、キラキラしぶきが舞い虹が架かる。
3人は庭園に入り玄関前を歩く。
「素敵なお庭…本当に綺麗…」
「気に入ってくれた?」
「うん!」
ウィルソンは玄関扉脇のインターホンを押す。
ギーンゴーン…、と鈍い音のチャイムが鳴る。
____________
屋敷のキッチンでは…。
ダイニングテーブルに並べられたマリーの手料理が彩りを飾る。
「あっ、お前それ俺の分のキッシュだぞ!」
「ウィルのお菓子作りの先生が作る手料理だぞ?こんな美味しい料理残すなんてもったいないだろ!」
「残してねぇよ!最後に食べようと思って取っておいたんだよ!じゃぁ、俺もフレンチトーストも~らい~」
ネルソンはマイルの皿に乗るフレンチトーストにフォークを突き刺し口に頬張る。
「あっ、お前!」
マイルとネルソンが料理の取り合いをしている。
「あらあら…、おかわりはまだありますから、ゆっくり召し上がってくださいね」
ティーカップに紅茶を注いでいるマリーは2人の様子を眺めて微笑んでいる。
「はーい、ありがとうマリーさん」
「お前食べ過ぎだよ、遠慮しろよ…」
ネルソンがマイルに注意する。
「ふふ…」
マリーは久しぶりの客人の対応が嬉しくて、つい笑顔がこぼれる。
ギーンゴーン…
チャイムが鳴った。
「お客様ですかね?…見て参りますので、ゆっくり召し上がっていてくださいね」
「はーい。いってらっしゃーい」
マイルがマリーに手を振る。
マリーはキッチンを出て玄関に向かう。
「はーい」
マリーが玄関の扉を開けるとウィルソンとアリシアが立っていた。
「あら、坊っちゃま、アリシアさん。お帰りなさ―」
ウィルソンの後ろにダグラスが居ることに気付く。
「旦那様!お久しぶりでごさいます!」
マリーは深々と頭を下げた。
ダグラスがウィルソンの前に出る。
「頭を上げてくれマリー…。私の方こそ…、今まで1人にさせて…すまなかった…」
「いいえ…私はこの屋敷のメイドですから…、当然のことをしたまでですわ…」
ウィルソンの後ろに立つ警察官が「あと15分だ」と時間を急かす。
「マリー。詳しい話は後で話すから…。これから父さんをリザベート刑務所に連れて行かないといけないんだ…」
「そう…ですね…」
「すまないマリー。もうしばらく私は帰って来られないが…」
「大丈夫です。私は旦那様の帰りをずっと待っていますから…。お身体にお気をつけて…」
「ありがとう…マリー」
「おっ!ウィルお帰り~」
玄関奥の廊下からマイルとネルソンが顔を出す。
「ただいまマイル、ネルソン。後で大事な話があるから、ちょっとお屋敷で待っててね」
「お?おぉ…」
ウィルソンは玄関の扉を閉めた。
3人は屋敷の脇道を入り、ダニエルのお墓のある原っぱを通る。
「ただいま…ダニエル…」
ダグラスがダニエルのお墓に手を合わせる。
丘の階段を降り南門ゲートへ向かった。
刑務所入り口の民家の前に警官2人が待ち構えていた。
「お待たせしてすいません」
警官が腕時計で時間を確認する。
「11時51分…。ダグラス•ウィンターズ身柄確保します」
ダグラスの両脇に警官が付く。
建物に入り地下への階段を降りた。
「あ!ウィルソン帰って来たぁ」
メリルは手に持っていたトランプを地面に置き、ウィルソンに近寄る。
「「ぁ…、ウィル……おかえりぃ……」」
留置室の中にいるシエルとリーガルは元気がない。
「ただいま母さん、父さんを連れて来れたよ」
警官に連れられ、ダグラスが階段を降りてきた。
「…メリル……」
「…お帰りなさい…ダグラスさん…。昔と変わり無いようですね…」
アリシアがダグラスの顔を見てニコっと笑う。
ダグラスはアリシアに応え優しい微笑んだ。
「10年ぶりだな…、すまない…、迷惑掛けて…」
「…ウィルソンは…立派に育ってますよ…。私たちの子供です…」
「そう…だな…」
ダグラスが確保されたことを確認し、看守が留置室の鍵を開け、シエルとリーガルを開放する。
「ごめん。遅くなったね…」
ウィルソンは2人に近づく。
「おぉ…あんたのお母さん…、元気過ぎ…。あんたたちが行ってから…、一睡もしないでトランプゲームの相手をしていたわ…」
「え…そんなに…」
「俺っちも…、元マジシャンだなんて教えてちまったもんだから…、2時間…マジックを見せ続けていたぞ…」
「なんか…ごめん…」
「いいわよ…、ちょっと…ホテルで寝てくるわ…」
「俺っちも…」
2人の笑顔は眠気MAXでクマができ、引きつっている…。
何故ならイシュメルからリザベートへの移動中も一睡もしていないのである…。
シエルとリーガルはとぼとぼと力なく、階段を上がって行った。
「では身柄の引き渡しにご協力、感謝致します」
警官の1人がウィルソンに話す。
「あ、いえ…、約束ですから…」
警官がダグラスを連れ刑務所の奥へ入って行く。
「父さん!」
ウィルソンが叫ぶ。
ダグラスが立ち止まり振り返る。
「必ず…、迎えにくるから…」
「……あぁ…」
ダグラスは小さく応え、頑丈な鉄の扉をくぐる。
バタン、と扉が閉まり、静まりかえる。
「ウィル…大丈夫?」
アリシアがウィルソンの顔を覗き込む。
「うん…大丈夫だよ」
ウィルソンは笑って答えた。
「母さんも…、ありがとう待っててくれて…」
「私は大丈夫よ。無事に帰って来てくれて良かったわ」
「ただいま、おかあさま!」
アリシアがメリルの手を握る。
「ふふ。さぁ、お家に帰りましょう。疲れたでしょ、パンも食べて行ってね」
「わ~い、パン楽しみ!」
階段を上がり、刑務所を後にした。
#
小休憩を取り時刻は16時。
ウィルソンとアリシアはホテルで休んでいるシエルとリーガルを迎えに行き、マイルとネルソンが待つ屋敷へ向かった。
屋敷のリビングに皆を集め話しをするウィルソン。
「父さんの借金を返済するために、皆の協力が必要なんだ…」
「ウィルソンとアリシアちゃんはこの屋敷に残って借金を返すために仕事する…ってことね」
「この屋敷は庭も広いし、客室もたくさんある。キッチンも設備は整っているし、飲食店をするには向いていると思うんだ…」
「マリーさんも手伝ってくれるしね!」
アリシアがマリーと顔を合わせニコっと笑う。
「私もお手伝い出来ることがあれば、なんなりとお申し付けください」
マリーはこの屋敷で飲食店をすることをすんなり了承してくれた。
「私たちもここでサーカスの公演をするのはどう?」
シエルが提案をする。
「俺たちが庭園で公演をして、ウィルは屋敷でお店をすればお客さんたくさん呼べるだろうしな…」
マイルがシエルの案に補足をする。
「"リズワルド楽団第二支部"ってのでどう?」
「第二支部かぁ…」
「3階には寝室が4部屋ありますので、ご自由に使って頂いて構いません」
マリーは積極的に会話に参加する。
「それで…、どうする団長。あとはあんたの決断次第だぞ」
腕組みをするリーガルがネルソンに決断を促す。
「…ここを第二支部にするってことはサンクパレスの本部に居るメンバーから選定するってことだろ?どうやって選ぶ…」
…俺だけの選定で皆が納得するのかよ…。
今までの父さんの指示のように、すんなり受け入れてもらえる自信が無い…。
「サンクパレスで待機してる皆をここに連れてくれば良いんじゃねぇ?今週はこの街で公演をするのは決めてたんだし」
マイルが提案をする。
「この屋敷を第二支部にする宣伝にもなるし、良いんじゃないかしら…。リーガル、あんたはサンクパレスに戻って皆を連れて来て」
「おぅ…、それは良いが…。何で迎えに行く?馬車は客寄せの道具が積んであるから乗って行けないだろ…」
「バスよ、バス」
「バスって!…俺っち金が…。ウィル、サンクパレスまでの運賃いくらか分かるか?」
「サンクパレスまでだと2800Gだったような…」
ウィルソンはアゴに手を付け思い出す素振りをする。
「マジかよ…、シエルお金貸してくれ!サンクパレスに戻れば金はあるから!」
リーガルは拝むようにシエルに手を合わせる。
「しょうがないわね~」
シエルはワニ革のセカンドバッグから財布を取り出す。
「はい、2000G」
テーブルの向かい側に座るシエルがリーガルにお金を渡す。
「わりぃシエル…」
「おい!お前らお金持ってたんじゃないか!」
「「あ…」」
ネルソンは昨日南門ゲートで慌てて馬車の駐車料を払ったことを思い出し怒った。
「まぁいいわ。いってらっしゃいリーガル。あんたが皆を連れてくるまでに、私たちはこの街で客寄せをしておくから」
「OK、分かったぁ!」
リーガルが椅子から立ち上がる。
「お気をつけて、リーガルさん」
リーガルの隣に座っていたマリーも立ち上がりリーガルの椅子を引き、ニコっと笑った。
「ぉ…、い、行ってきます…」
リーガルは少し照れながらリビングを出て玄関に向かった。
「それじゃぁ、私たちは客寄せね。この屋敷に誰が残るかは後で皆で決めましょ」
「そうだな、それで決まりだ」
シエルとマイルが椅子から立ち上がる。
「そうだな…、やってみるか!」
ネルソンが納得し、やる気を見せてくれた。
「私は何をしたらいい?シエルお姉ちゃん」
アリシアがシエルに聞く。
「アリシアちゃんはねぇ、お屋敷でマリーさんのお手伝いして欲しいかな」
「お手伝い?…」
「では、アリシアさんは私と一緒にお客様用のお菓子を作りましょうか。客寄せを観たお客様がお屋敷に来られるかも知れませんから」
マリーがアリシアに提案をする。
「うん。私お菓子作り頑張る!」
アリシアは目をキラキラ輝かせ、やる気を見せる。
「さぁ、行きましょうアリシアさん。では皆さま、客寄せお気を付けて行ってらっしゃいませ」
ぺこっとマリーはお辞儀をし、アリシアをキッチンに案内する。
「じゃ、私たちも行きましょうかウィル」
「うん、行こう」
ウィルソン、シエル、マイル、ネルソンは屋敷を出て市街地へ向かった。
____________
坂道を下りる途中。
「あ、そうだ。ウィル、これあんたのお母さんから…」
シエルはセカンドバッグから白い封筒をウィルソンに手渡す。
「お母さんから?…」
「"母親からのラブレター"らしいわよ」
「ら、ラブレター??」
「あとで時間がある時にでも読んであげたら?」
封筒の中央には"Dear ウィルソン"と書かれている。
「…うん、そうするよ。ありがとう」
ウィルソンはワイシャツの胸ポケットに封筒をしまった。
「そういえば、キルトの街でカリーナに会ったよ」
「えっ!そうなの?元気だったカリーナちゃん」
「うん、元気だった。全然変わってなかったよ、結婚もしてたみたいだし」
「へぇ、カリーナちゃん結婚したのかぁ。抜かされたな姉さん」
「そう…ね、カリーナちゃんと"どっちが先に結婚するか"って言い合ってたなぁ…、懐かしい…。
私も負けてらんないわ!すぐにスラッと背の高いイケメンの彼氏を作ってみせるっ!」
シエルは拳を握りしめ、彼氏作りへの闘志を燃やすのであった。
4人はホテル前に停めてあるサーカス団の馬車に戻り、客寄せの道具を各自用意する。
シエルとマイル、ウィルソンとネルソンのペアでふた手に分かれてお屋敷で公演をするとこを告知するために街中を歩き回る。
「お屋敷で飲食店をやるって言うけど…。いったい何の店やるんだよ」
ネルソンはウィルソンに聞く。
「サーカス団の皆もそうだけど、カリーナやアリシアちゃんも僕の作るお菓子やパイは美味しいって誉めてくれるんだ…。パイ専門店なんてどうかなって思ってる」
「パイ専門店かぁ…。ミートパイとかミルフィーユなんかも出して良いわけだろ?シエルなら泣いて喜ぶな」
「そうだね」
こんな風にネルソンと話すのは初めてだ…。
顔ひっ叩いちゃったけど…。本音をぶつけた分、分かり合えたのかもしれないな…。
「専門店を名乗る以上はどこの街にも負けないぐらい飛び抜けないとな!」
意外すぎるほどネルソンは、僕が飲食店を始めることを応援してくれているようだ…。
その応援がからげんきな感じがして、
嬉しい反面ちょっと気味が悪い。
____________
一方、市役所付近で声掛けをするシエルとマイルは…。
「マイルはどうしたいの?」
「何が?」
「これからどうするかよ」
「そんなの決まってんじゃん」
「「ウィルに付いていく!」」
2人同時に声を合わせる。
「俺たち3人で"ウィル、シエル、マイル"だからな」
「そうね、ウィルソンのことを"ウィル"って呼ぶようになってから、気付けばいつも一緒に居たものね、私たち…」
「これからもあいつの成長を見届けてやらないとな。3姉弟だから…」
アリシアにマリー、サンクパレスで待つキースやライアンたちも、ウィルソンのことは大切な家族だと思っている。
大切な家族の大事な決断、背中を押してやれるのも俺たち家族だけだから…。
別れるにしても一緒に居るにしても、
涙なんか似合わないさ…。
笑って見送ろう。
#
次の日。
リザベートの街にきて3日目の朝。
昨日の夜はウィルソンとネルソンがホテルに泊まり、シエルとマイルはリーガルたちの帰宅を待つためにお屋敷の3階の寝室を借りた。
アリシアはお菓子作りに夢中になりすぎて、キッチンで寝落ちしてしまったそうだ。
今日の朝にはリーガルが馬車でライアンたちを連れて帰ってくる。
その時間に合わせ、ウィルソンとネルソンはお屋敷に向かうことにした。
「そろそろ来るかなぁ」
玄関前でアリシアがまだ見ぬ仲間の来訪を楽しみに待っている。
「もうすぐ着くと思うよ」
ギーンゴーン…、とチャイムが鳴る。
玄関の扉を開けると見慣れた顔の仲間たちの姿。
ライアン、キース、ライザ、リオン、アイラ、そしてリーガル。
「皆ありがとう、来てくれて…。アイラさんまで来てくれたのはちょっとびっくりしたけど…」
アイラさんは宿舎の飯炊き係の"韓国系黒髪美女"の36歳。
トランプのマジックなら少しできる。
野菜の皮とか無駄に捨てるとレードルでよく頭を叩かれてたな…。
「ウィルソンがこれからお店をするって
聞イタからァ、私もお手伝い出来たらなァと思ッテネ、来たヨ」
「聞いたよウィルソン!すごいお屋敷だねぇ!飲食店ここでやるんでしょ?ちょっと遠いけどぉ、すぐ飛んできていつでも食べに来てあげる!」
リオンはサーカス団の楽器奏者の20歳。
アコーディオンとバイオリンを演奏し、陽気な音楽でお客さんを楽しませる。
今日はバイオリンケースを持って来ているみたいだ。
「リオンちゃんもありがとうね」
「ウィルソンの作る飯は美味い。だから
飲食店をやるのは大賛成だ。頑張れよ!」
ライザは自慢の身体能力をフルに使った中国雑技をパフォーマンスとする27歳。
僕はあまり絡みが少ないけど、親指だけで腕立てをしてるのをよく見かける。
「ライザさんもありがとう」
「ウィルソン~、サンクパレスを離れちゃうなんて俺は寂しいよぉ」
ライアンが悲しそうな声で言う。
「まぁ、そういうなライアン。いつでも会いに来れるんだからさ、なぁウィルソン」
キースがライアンの肩に腕をまわし慰める。
「そうだね、いつでも来て良いんだから…。リーガルもありがとう、皆を呼んで来てくれて」
「なぁに、お安い御用さ」
「すごぉい!こんなにお仲間さんが居るなんて!…私はアリシア•クラーベル、8歳です。
入ったばかりですがよろしくお願いします!」
アリシアが元気に挨拶をする。
「リーガルから聞いてるよ。可愛い看板娘が新しく入団したってね。本当に可愛い…。すりすりしたいぃ!」
リオンがアリシアに抱きついて頬同士を
くっ付けてすりすり…。
「ぉ……おぉ…」
アリシアは嬉しいのか戸惑っているのか複雑な表情をしている。
「みんな、12時からの公演にはまだ時間があるから中でゆっくり休んでよ」
ウィルソンが皆を屋敷の中へ案内する。
____________
「皆さんから慕われているのですね…。すごいです坊っちゃま」
「そう…なのかなぁ」
キッチンでは、リビングで待つ皆に紅茶を用意するウィルソンとマリーが居た。
「えぇ、信頼されている証拠です。アリシアさんもお仲間さま方も…、坊っちゃまの背中を押すために協力してくれようとしています」
「そうだね…。サーカス団の第二支部にするっていう話にまで発展するとは思わなかったけど…」
このお屋敷で父親の借金を返すために、僕はサーカス団を脱退してお店をするっていう話だったのだけれど…。
「坊っちゃまはその期待に応えなくては行けません。旦那様の代わりに借金を完済するのは容易ではありません…。やり切る覚悟はありますか?」
優しく落ち着いた声で話すマリー。
ウィルソンの意志の強さを確認するために、これは避けては通れない会話なのである。
「僕はやり切るよ何年掛かっても。覚悟はある。長いこと離れていたけど…父親を助けてあげたい、息子として」
「そうですか…。私はずっと坊っちゃまの傍におります。いつでも頼ってください」
「ありがとうマリー」
マリーは優しく微笑んで応援してくれた。
自分の父親を助けてあげられない今の僕では、
説得力が無いから。
アリシアに僕の気持ちを話すのはもう少し先になるだろう…。
アリシアの気持ちに応えるために…。
僕がずっとそばでアリシアを守ってあげられるように…。
「アリシアさんには…、ちゃんと言葉で伝えてあげてください…。彼女はずっと待っていますよ」
「え!?ぁ…うん…」
マリーからの急なアリシアについての話に、ウィルソンは顔を赤くして戸惑った。
「ふふ…、お似合いですよ。お二人とも」
アリシアは昨日、マリーと何を話したのだろう…。
ティーポットと人数分のカップをトレーに乗せ、皆の待つリビングに向かった。
___________
時刻は11時40分。
リズワルド楽団が集結したリザベート公演はパレード形式で行われる。
ウィルソンたちが乗ってきた馬車とキースが操縦する馬車の2台でふた手に分かれて、パレードとして練り歩く。
南門ゲートから出発するのは、ウィルソン、シエル、マイル、リーガルが乗りパフォーマンスをする馬車。
一方、北門ゲートから出発する馬車には、キース、ライアン、ライザ、リオンが乗る。
最終目的地はウィンターズのお屋敷。
お屋敷の庭園では来客用の丸テーブルが並べられ、マリー、アイラ、アリシアとウィルソンの母のメリルが手作りのお菓子や紅茶でおもてなしをする。
パレードで街の人々を屋敷に誘導し、メンバーが集結した屋敷の庭園でフィナーレパフォーマンスをするという流れ。
前日の客寄せ及び告知の際、街役場の広報部にお願いをし、広告チラシの配布と放送が行われた。
その甲斐あって、南門ゲートから屋敷まで、北門ゲートから屋敷までの沿道を人々がパレードの始まりを待っている。
「楽しみだけど…すごい緊張するねぇ…」
「私も一度にこんなに大勢のお客様を相手にするのは初めてですが…、頑張りましょうアリシアさん」
アリシアにとってはこのお屋敷が初舞台となる。
庭園のテーブルには子供連れの母親や老夫婦などへのお客様が席を埋め始める
マリーもこのお屋敷の賑わう様子にはびっくりしている。
「私たちも付いてるわよ。頑張りましょうね」
「ウィルソンのタメに-、ガンバルゾ!」
メリルもアイラも協力的で頼もしい。
「うん!頑張るぞー!」
アリシアが大きく背伸びをする。
リズワルド楽団の集大成が今、始まる。
#
12時の教会の鐘がなる。
南門ゲート前のリーガルと北門ゲート前のキースが鐘の音と同時にトランペットでファンファーレを吹く。
先頭の馬に鞭を打ち合図を送る。
馬車が動き出す。
北門ゲートのキース組は…。
キースは左手で手綱を引き、右腕には白フクロウの"マット"が乗る。
マットの口には小さな木のカゴが咥えられている。
「そーれいけー!」
キースのかけ声と共に右腕から大きく翼を広げ飛び立つマット。
口に咥えられたカゴから金と銀の紙吹雪が舞う。
「ぅわぁ~」と子供たちの歓声が上がる。
すかさずキースはトランペットを咥え軽快なファンファーレを演奏をする。
マットは前方20mほどの距離を飛び、Uターンをしてキースの右肩に戻る。
客車の屋根に登ってバイオリンを演奏するのはサーカス団の楽器奏者のリオンだ。
彼女が演奏しているのは
"パガニーニ作曲No,24奇想曲"。
難易度の高い指の運びの曲ではあるが、軽快なステップを踏みながらでも音が途切れずに、安定してバイオリンを弾くことが出来るのがリオンの持ち味だ。
世界的に有名な曲であるNo,24の演奏に、観客たちは聴き酔いしれる。
キースたちが乗る馬車には飼育小屋はない。
ライオンやゾウなどを乗せて運べるのはリーガルたちが乗る馬車だけだ。
その代わりこの馬車の2両目は、紅白のテント小屋を模した開放型の荷台になっていて、小さなステージのように使用出来る。
その荷台でパフォーマンスをするのはライアンとライザだ。
ライアンはボーリングのピンのような"クラブ"を4本使いジャグリングをする。
ライザはヘルメットを被り、逆立ちをしヘッドスピンをしながらサッカーボールを落とさないように右足から左足へと空中に蹴り上げる。
「よっ、ほっ、はっ」と2人の掛け合いで
サッカーボールとクラブを入れ替えながらジャグリングをする小技を見せ、観客を湧かせる。
キースたちの馬車は役所前のバス停を通りすぎ、坂道へ差し掛かる。
______________
南門ゲートを出発したリーガル組は…。
宿泊していたホテル前を過ぎるところ。
リーガルは右手で手綱を握り、左手で頭に被ったシルクハットを手に取る。
シルクハットにふっと息を吹きかけると中から白い鳩が3羽飛び立った。
客車の上にはシエルとマイルが乗り、双子姉弟ならではの息の合ったしなやかな動きの組体操を披露する。
ウィルソンは馬車の後方でマリッサの背中に乗り、お手玉4つを使いジャグリングをする。
お手玉はジャグリングをするうちに、リンゴ、本、オレンジ、ウィルソンの被るピエロ帽と姿を変える。「あれ?帽子、どこいった?」とピエロは奇想天外なジェスチャーで観客の笑いを誘う役回り、お客さんの笑顔が一番嬉しい。
マリッサは首元に取り付けたバケツ、水を鼻で吸い上げ、霧のように空中に噴射する。
光の反射により馬車全体に虹が架かる。
馬車はホテル前を過ぎ、中心街への坂道に差し掛る。
すると沿道の人混みの中から声がした。
「シエルさーん、マイルさーん」
シエルとマイルはその声に気が付き、声がした方を見る。
「「カリーナちゃん!」」
シエルとマイルに手を振り名前を呼んだのはカリーナだった。
シエルが屋根から飛び降りカリーナに抱き付く。
「久しぶり~カリーナちゃん!変わりないみたいで元気そうだね」
「シエルさんも元気そうですね!」
「姉さん!まだ途中だよ!」
屋根の上からマイルが呼ぶ。
「カリーナちゃんも一緒にどう?」
「はい!」
シエルは客車の屋根に、カリーナは飼育小屋の屋根に登る。
これがいわゆるOBあるある、"飛び入り参加しがち"というやつだ。
カリーナはモスグリーン色のガウチョワンピース姿だ。
「えっ!カリーナ?」
後方のウィルソンが気が付いた。
カリーナは ふふーん、とニヤリとした笑みを浮かべ無言でウィルソンに手を振った。
"Amazing grace,how sweet the sound
That saved a wretch like me"
カリーナが歌い出したのは"アメイジング•グレイス"という有名な曲だ。
5年前の歌声のように元通りには歌えないけど…、ここまで歌えるようになったよ。
見ててねウィルソン。
"I once was lost
but now am found
Was blind but now I see"
観客たちも突然の歌姫の登場に驚いたが、その歌声は透き通り観客たちを魅了する。
リーガルたちの馬車がショップが立ち並ぶ坂道を登りキースたちの馬車と合流する。
____________
馬車の到着を待つ屋敷の庭園では…。
正門から玄関までの直線70mの石畳にバラのアーチが10mの間隔を開け6本立ち並ぶ。
玄関からみて左側にお客様用の丸テーブルを8台。
右側をサーカスの公演用の野外ステージにする。
屋敷の庭園には客足が少しずつ増えている。
「4番テーブルに4名入ります!」
メリルが正門を入ってくるお客様をテーブル席に案内する。
「「はい!」」
メリルの指示に合わせ、アリシアとマリーが4名分のティーカップと紅茶を用意する。
アイラは前日作ったお菓子を4つバスケットに入れ、用意された紅茶とティーカップをトレーに乗せ、客席まで運ぶ。
「いらっしゃいませ、フィナンシェと紅茶セットです」
アイラがテーブル席のお客様にお菓子の乗った皿を配る。
「ここのお庭初めて入るけどとても綺麗ねぇ」
「お茶会にはぴったりね」
席に座るご婦人たちがアイラに話し掛ける。
「ハイ!ありがとうゴサイマス!私もここのお庭大好きデスヨ。ごゆっくりティータイムをお楽しみクダサイ」
アイラはご婦人たちに笑顔で応え、席を離れる。
2番テーブル席から5歳ぐらいの女の子がアリシアとマリーの元に歩いてきた。
「お菓子2つください」
女の子は空になった皿をアリシアに差し出す。「はい、どうぞ~」
アリシアが女の子の皿にトングを使いフィナンシェを2つ取り分ける。
「このお菓子とっても美味しいよおねぇちゃん!」
女の子がにこっと笑いお菓子の感想を聞かせてくれた。
「ありがとう!」
アリシアも女の子ににこっ笑顔で応え、お礼を言った。
手作りのお菓子を誉めてもらえるのってこんなに嬉しいんだ…。頑張ってお菓子作って良かったぁ…。
「良かったですね、アリシアさん」
マリーがアリシアに目線を合わせ顔を覗き込む。
「うん!」
「あっ、馬車が見えてきた!」
坂道を登る馬車を見つけ、メリルが飛び跳ねる。
馬車は観客たちを引き連れ、屋敷の正門に向かってくる。
「「皆さま、これからこのお庭でサーカス団のショーが行われます。ぜひ楽しんでいってください!」」
メリル、アイラ、アリシア、マリーが並んで立ち、テーブル席に座るお客様に馬車の到着を知らせる。
坂道を登り切り、庭園に入ってくる2台の馬車。
お客様が拍手で迎え入れる。
馬車の周りを付いて歩く観客たちをメリルとマリーが客席側へ案内する。
長い間、時間の止まっていたこのお屋敷が、今ではこんなに元気で溢れた賑わい歓声と拍手が飛び交う。
それはこのお屋敷のメイドとして庭園の手入れをしてきた私にとっても思いがけない出来事で…、あの時私が手放した…、身体も弱くて小さかった坊っちゃまが…、たくさんの人と絆を深めて築いたウィルソン坊っちゃまの"家族の形"…。
奥様…、見ておられますか…。
ダニエル坊っちゃま…。
人を笑顔にするピエロに…、なりましたよ…。
おかえりなさい…、坊っちゃま…。
#
時刻は13時40分。
お屋敷での公演に終演が近く。
庭園内の噴水の石段に立ち、リオンのバイオリン演奏とカリーナの歌声のデュオによる"星に願いを"は庭園に集まった観客たちを魅了する。
"When you wish upon a star ,makes no diff'rence who you are,anything your heart desires will come to you"
脱退して5年経つとは思えないほど、息の合ったバイオリン演奏と歌声。
この再会もウィルソンの家族思いの優しい心が、引き合わせてくれたもの。
ウィルソンとアリシアがキルトの街のホテルに泊まらなければ、カリーナがこうしてリザベートの街に来て、ショーに参加することもなかったのだから…。
ウィルソン、マリッサ、シエル、マイル、ライザはカリーナとリオンが演奏する隣で、ゆったりとした曲調に合わせ曲芸を披露する。
スティックリボンを舞わし、側転や逆立ち、ブレイクダンスを織り混ぜながらパフォーマンスをするシエルとマイル。
ウィルソンが6歳でサーカス団の門を叩いてから傍にいて支えてくれた2人のおがけで、こうして今まで続けて来られた。
大切な姉弟であり、良き理解者なのだ。
それはこれからも変わることはない。
マリッサの上に座るライザがバランスボールに立つウィルソンに3本のフラフープを投げる。
最初の2本はウィルソンが両腕を伸ばし頭の上に上げ、輪投げのようにフラフープをくぐる。
最後の1本は両腕を横に広げ、フラフープは首にネックレスのように掛かる。
バランスボールの上に立つことは非常難しく、体幹を鍛えなければ出来ることではないが、それは厳しくもずっとそばで稽古をつけてくれたゴードン団長のおがけである。
リーガルはアイラと一緒に2番テーブル席のお客様に向け、トランプのマジックを披露する。
観客たちは巧妙なテクニックで繰り出すリーガルのマジックに目を丸くして驚いている。
ライアンとキースは6、7、8番テーブルのお客様に向け、白フクロウのマットの紹介をする。
子供連れで来ていた7番テーブル席のお父さんが代表としてパフォーマンスに加わる。
お父さんは頭の上にリンゴを乗せる。
ライアンとキースは客席と5m程の距離を取り、三角形になるように立つ。
マットがキースの腕からお父さんの頭の上のリンゴ目掛け飛び立つ。
マットはリンゴを咥えライアンの位置に戻る。
「ぅわお!」とお父さんは叫び子供とお母さんに笑われる、微笑ましいひとときが流れる。
アリシアとマリーは3,4番テーブルのお客様にお菓子と紅茶のおかわりを提供するため、アリシアはフィナンシェの入ったバスケットを持ち、マリーは紅茶のティーポットの乗ったトレーを持ち移動する。
「ありがとう、紅茶もお菓子もとっても美味しいわ。ご馳走さま~」
「はい!ありがとうございます!」
アリシアはにこっと笑いお礼を言う。
お客様からの"美味しい"の声はとても嬉しい。
「楽しいですねアリシアさん」
「うん!とっても楽しい!これからこのお屋敷でこんな暮らしができるなんて素敵!」
「はい!私も楽しみです」
アリシアとマリーは顔を見合わせて笑った。
リズワルド楽団の全員参加で行われたリザベート公演は、たくさんの笑顔と拍手と喝采で大成功を収め、無事終了した。
_____________
時刻は16時20分。
2時間に及ぶ庭園での公演は無事終了し、
お客様も帰り、片付けの終わった庭園内は静まり返る。
屋敷の正門前にサーカス団の馬車2台が屋敷に背を向ける状態で駐車する。
話し合いの結果、リズワルド楽団の第二支部として活動をするメンバーが決定した。
これから第二支部に配属になるのは、
ウィルソン、アリシア、シエル、マイル、キース、白フクロウマット、リオン、雌象マリッサに決定した。
「じゃ、私たちもサンクパレスに戻って荷物まとめて、バスで戻ってくるからね」
「うん、また後でね」
シエルがウィルソンにこれからの行動について話す。
これからこの屋敷で生活をすることになるため、
数日分の必要となる荷物を、一度サンクパレスの宿舎に帰り持ってくることになる。
ウィルソン、アリシア、マリー、そしてカリーナが馬車で帰る仲間たちを正門前で見送る。
「ライアンもリーガルさんもライザさんも、いつでも待ってるからね!悲しい顔は無しだよっ!」
カリーナがサンクパレス本部に就くメンバーを励ます。
「おぅ、ありがとうカリーナ。カリーナも元気でな」
「久しぶりに一緒に公演ができて楽しかったよ、ありがとうカリーナちゃん」
リーガル、ライアンがカリーナの言葉に応える。
「私も楽しかった、ありがとう」
カリーナはアリシアの両手首を持ち、大きくアリシアの腕を振る。
ちなみにカリーナは屋敷に住むわけでは無い。
カリーナにはキルトに旦那さんが待つ家があり、シンクローズにも別荘がある。
この屋敷のお店がオープンしたら週1で通いに来るらしい…。
「ほらっ!団長から一言は」
シエルがネルソンの背中を押す。
「………」
ネルソンは無言でうつむく…。
「…く……、ウィルソン•ウィンターズ!」
メンバー一同静まり返る。
「…お前の作るお菓子…美味かった…。
…俺も…団長としてでっかくなるから!
お前のお店に負けないぐらい…、
立派なリズワルド本部にしてみせるから!
…お前には支えてくれる家族が付いている…、
それは離れていたって変わらない…、
そのことは…忘れんなよ…。
…お前のこれからの人生に……幸あれ…」
ネルソンとウィルソンの頬に涙が伝う…。
しかしこの涙は悲しい涙ではない…。
それはとても温かい…、
大切な家族の旅立ちを祝う、祝福と感謝の涙…。
「「がんばれ!ウィルソン•ウィンターズ!」」
…「ありがとう、みんな…」
_____________
屋敷の裏にある原っぱの、白樺の木が2本立つ間。
兄ダニエルのお墓。
そのお墓の脇にリズの小さな骨壺と花束を置き、
お墓の前に座るウィルソンの姿が。
シエルから預かった母親からの手紙を読んでいる。
"Dear 16歳のウィルソン へ
この手紙を読んでいるということは、
私はあなたに会えたということでしょう。
おかえりなさいウィルソン。
そして16歳の誕生日おめでとう。
あなたは今、どんな男の子になっていますか。
お友達はたくさん居ますか。
ガールフレンドはできましたか。
元気で暮らしているのであれば、
お母さんは幸せ者です。
私が16歳であなたを産んだ時から
16年も経ちますね。
離れて暮らしていてもあなたは
これからも私の宝物だよ。
大好きなウィルソン へ 母より "
母親の想いが綴られた誕生日を祝う手紙…。
母親の愛情が伝わっ―。
「お?読んでる読んでる」
「ぉわ!」
背後から声がしてビクッとした。
咄嗟にお尻の下に手紙を隠す。
「私が書いた手紙なんだから、
隠すことないでしょエッチぃ!」
母親のメリルがウィルソンの顔を覗き込む。
「にやにやしちゃってぇ…。
どうだったぁ?感動したぁ?泣けるでしょ?」
母親が息子をからかっている…。
「…ありがとうお母さん。大切にしまっておくよ」
「どういたしまして!アリシアちゃんがお屋敷で呼んでるわよ~」
「うん、わかった。行ってくる」
ウィルソンは立ち上がり、お尻の土を手で払う。
「それでね、ウィルソン」
「なぁに、お母さん」
「お店の名前はもう決まったの?」
「うん。お店の名前はね―」
―3か月後。
カランカラーンとドアは開きお客様が来店する。
「いらっしゃいませ-、"パイユ•ド•ピエロ"へようこそ~」
橙色のエプロンを纏ったアリシアとマリーが玄関でお客様を出迎える。
「2名様ご来店です」
シェフのウィルソンがリビング前で出迎える。
「いらっしゃいませ、ご予約のお客様ですね。
お席へご案内します」
天井にはシャンデリアが輝く。
リビングルームにはこの店自慢のアップルパイを求めて来店するお客様でテーブル席を埋めていく。
ここはサーカス団のピエロがシェフをする、
パイ専門店「パイユ•ド•ピエロ」。
「それではごゆっくり素敵なティータイムを…」
これからの未来への希望を胸に、
お客様に笑顔を届ける、サーカス団のピエロと小さな少女の出会いの物語。
この物語は2人の始まりのお話である。
-fin-
第3章 終 After.story へ 続
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