何をりこげに言いよんな ~うどん県独立?! 日本中がそりゃあもう大騒ぎさっ~

かがわ けん

がいな小麦

 2XXX年。地球温暖化と増え続ける世界人口によってもたらされた食糧問題により世界は緊張感に包まれた。

 正に一触即発、いつ世界大戦が勃発してもおかしくない状況だ。各国はあらゆる手段を講じて食料確保に奔走した。軍事力を背景に穀倉地帯を押さえんと侵略を目論む国があるかと思えば、逆に軍事協力を背景に友好関係を結んで食料の優先的輸出を得んとする国など様々な思惑が蠢く中、日本は取り残され窮地に陥っていた。

 そもそも食料自給率が低かったことに加え、軍事力行使が制約されている国家だ。札束で食料を確保しようにも最早そのような状況ではない。自国防衛に貢献し得る国でなければ見向きもされなかった。


 このままでは多くの国家が崩壊すると思われたその時、世界に救世主が現れた。

 香川県農業試験場に勤務するケーン・カガワ博士が画期的な小麦の開発に成功したのだ。どんなに荒れた土地でもどんなに過酷な気象条件でも僅かな水でグングン成長する。しかもこれまでより収穫量が20%増加する上に味も抜群という奇跡の小麦。ゴキ〇リとダイ〇ウグソク〇シのDNAからヒントを得たと言う「テラ〇ォーマーズかよっ!」と突っ込みたくなるような小麦は『サヌキドリーム2626ツルツル』と名づけられた。


 これにより世界情勢は一変する。各地で繰り広げられた紛争は無くなり大国のいがみ合いも影を潜めた。何よりこれまで真面に作物が育たなかった地域までが農地となる。食糧事情は20世紀よりも改善し貧困国でも飢餓の心配がなくなった。科学の力によって人々の暮らしは安定し治安状況は劇的に改善されたのだ。


 国家崩壊の寸前まで追い込まれていた日本は小麦の種子販売で驚異のV字回復を成し遂げ一躍世界第一位の経済大国となった。遺伝子を操作した所謂ハイブリット作物は収穫物から次世代の種子を取ることが出来ない。つまり毎年世界中が大枚をはたいて種子を買い求める。日本は産油国並みに莫大な資源を得たのであった。



 ◇◇◇



「ケーン。何がでっきょんな調子はどうだい?」

何もでっきょらんでいつも通りだね、カナメ知事。どしたんな何か用かい?」 

「もう昼は食べたんな食べたかい?」

「まだや」

ぼちぼちにしてその辺にして昼にしまいお昼にしないか。私もまだやけんまだだし、一緒にどんなでどうだい

そやのそうだね。行こか」

 世界を救ったケーン・カガワ博士とジョン・カナメ県知事は幼馴染だ。多忙な業務の合間に視察と称して農業試験場を頻繁に訪れていた。当然役人たちは良い顔をしないが県に莫大な収入をもたらす発端となった農業試験場だけに口を挟めない。こうして二人は度々顔を合わせ友情を深め続けていた。




 二人が向かった先はうどん屋。うどん県民というだけあって昼と言えばうどんだ。

 しかもワンコイン(500円)あれば食べ盛りの高校生でも満腹になるほどリーズナブル。県民の昼食第一候補は常にうどんであった。


「サヌキドリーム2626ツルツルはあれこれ使われとる使われているけど、やっぱりうどんが一番やの一番だね~」

 カナメ知事はうどんを啜りながら器用に話す。うどん上級者は麵を噛まない。ズズッと吸い込んだらごくりと喉で味わうのだ。故に会話を妨げることがなかった。

「まあ、うどんを思い描いて作ったけんの作ったからね

 負けじとカガワ博士も豪快にうどんを啜る。カガワ博士は注文の際必ず熱々でと添える。熱々こそ至高と言って憚らない熱々信者だ。

 対するカナメ知事は冬でも冷たいうどんを好んで食べる。本人はエッジの効いたうどんこそ究極を言っているが要するに猫舌なのだ。その証拠に一人でうどん屋に行った際は汁物のうどんをぬるめでと注文する。


 客の好みに合わせて温度調節してくれるうどん屋などあるのかと思われるかもしれないが香川では当たり前だ。因みに真夏にかけうどんを食べたい時は『そのままで』と言えばよい。麺を湯通しせず汁をかけるので絶妙の温度でうどんが食せる。


ほやけどだけど、香川の土地に合わせてうどん専用小麦を研究しょったらしてたら世界を救う小麦が出来るんやけん出来るんだから、世の中おもっしょいの~面白いよね

「香川はいつ水がのうなるか水不足になるか分からんけんの分からないからね。色々考えよったら考えていたらうまげなんが素晴らしいものが出来たわ」

 世間話をしつつも入店して十分ほどで平らげた。そもそもうどん屋では待ち時間が少ない。しかも県民はあっという間にうどんを平らげる。大らかな県民性なのだがうどん屋だけは時間をかけない。


 この流れだと喫茶店にでも寄って話をするのかと思うだろうが、二人は真っ直ぐ農業試験場に向かう。敷地内のベンチに腰掛けて話し込むのだ。喉が渇けば事務所にある給茶器でお茶を飲めばよい。流石は日本一のケチ県民と言われるだけあって泥濘ぬかりは無かった。

そんでところであの噂はどんなんなどうなんだい?」

 カガワ博士は急に真顔になって質問する。

あれの~あれか。シライ総理は躍起になっとるけどなっているけど流石にできんやろ出来ないだろう

 カナメ知事は遠くを見るような目で呟くように言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る