妄想世界に屁理屈を。

@sukunabikona0114

第1話 羽を食え

空気が美味しく、緑いっぱいで、パワースポットと呼ばれるのも納得な場所だった。




ここは恋愛運アップで有名な神社で、足場の悪い山のてっぺんにあるにも関わらず、たくさんのカップルが訪れていた。




柚螺ユラぁ〜、男3人で恋愛神社なんてやっぱ浮いてんじゃん」




右からめんどくさそうに茶色がかった短い髪を掻きながら、友人である面堂紅汰メンドウコウタが話しかけてくる。

その右耳には彼女とお揃いのピアスが輝いていた。



「彼女持ちのお前にはわかんないだろーけど、俺らの夏休みが青春になるかそれとも男同士でむさ苦しい思い出になるかどうかがかかってんだよ!なあ柚螺!」



左からやけに熱く語ってくるのはもう一人の友人、李介リスケである。



そう、僕こと一ノ瀬柚螺イチノセユラ坂田李介サカタリスケは、夏休みまであと2週間を切っているというのに、女の影すらないのだ。


高校2年の夏は1度しかないのに、こんなことでいいのか!と李介が今回の恋愛運アップの神社参拝を提案した。



「去年は紅汰も彼女いなかったから、寂しくなるのが嫌なだけでしょ〜?心配しなくても僕が一緒に楽しい夏休み過ごしてあげるからさ!」



必死そうな李介に、笑顔でそう返したらブンブンと頭を振られた。



「柚螺は色素薄い系で可愛い顔してるから変な気起こす前に彼女が欲しいんだよっ!」



え、恐ろしいことを言うな。



たしかに僕は色素が薄いいわゆる塩顔系で、クラスの女子からよく「かわいーよねー」など言われてしまうタイプの男だ。


可愛いじゃなくてかっこいいが欲しいし、こういうタイプって悲しいことに恋愛圏外なことが多い。



「たしかに、お前性欲とかなさそーだよな」


「し、失礼な!!!僕はちゃんと男だし、す、好きな子だっているもん!」



神社の鳥居の前にきたので一礼して鳥居の端を歩いたら、ポケットの中のスマホが震えた。



「わ!!縁ちゃんから連絡!」



「早速ご利益じゃん!!!」


百瀬縁ちゃん、同じ図書委員で、僕の片思いの相手からのメールだった。


長い黒髪をおさげにして、控えめだけど好きなものには一直線の女の子で、まあ僕は今日この子との恋愛成就を目的にやってきたってわけだ。


しかし、山なので電波がわるくて内容の確認ができなかった。




「えー!せっかく縁ちゃんからの連絡なのに!」




スマホをぶんぶんと宙にかざし、電波を拾わないか試みる。



「っあ」



バランスを崩し、石畳に滑りその先の山の岩の苔にすべり、安全のために張ってあるロープが勢いよくちぎれーー



「「柚螺!!!!!」」



友人二人の悲鳴を背に、僕はスマホを抱えたまま、山をゴロンゴロンと結構な速度で転がり落ちていった。








「っいってて…」





ようやく止まったのは、平坦な野原であった。


木々が生い茂り、しめ縄が張り巡らされた祠が、ポツンと立ててあった。


こんな祠、マップにあっただろうか。


パワースポット巡りをしにきたのだからくまなくチェックしたはずだが、記憶にない。



ていうか結構下まで落ちてしまったかもしれない、身体中擦り傷だらけだ。


春で半袖ということもあり、結構派手に擦り傷や切り傷を作ってしまっている。




「あ、スマホ」




手に持っていたはずのスマホがない。


見渡してみると、例の祠の横に落ちていた。



祠の周りには守るように古そうなしめ縄が四方に張り巡らせてあり、侵入するか下から手を伸ばすかしないとスマホは取れなさそうだった。



侵入は流石に罰当たりな気がしたので、腕を伸ばししめ縄を二の腕に食い込ませながらスマホを目指すことにする。



__が、



ぷつん、と、あっけない音を立ててしめ縄が千切れてしまった。





「え!?嘘でしょ!?」




やばい、やってしまった__思考が一気に真っ青になっていると、フワッと瞬間甘い匂いが漂う。何かの花の匂いが風で流れてきたのだろうか。




しかしまあ、なんともあっけなくちぎれてしまった。



結ぼうにも先端がボロボロでどうしようもない。


あとで上に登ったとき、神社の神主さんにでも報告して謝るしかなさそうだ。



なんとかスマホを取り返し、どのくらい落ちてしまったんだろうかと上を見上げると、



「おい」




朱色の髪が視界にちらつく。



ハッとして見上げると、やけにヒラついた朱色と金色の和装の女が僕を覗き込んでいた。



「ひっ」




全く気配がなかったのとあまりにも浮世離れしていたので、ビビって後ずさってしまった。


「やっぱり見えてんよな…ちょっとぉ、しめ縄、どうしてくれんだよぉ」




女は、美しい見た目からは想像つかないヤンキーみたいな話し方で怒ってきた。




しめ縄、ちぎったの速攻でバレてる。しかも怒ってる。



「あ、あのですね、頂上付近の神社から転がり落ちてしまいまして、それで事故でしめ縄を…も、申し訳ありません!」



「…あ〜〜〜も〜〜〜」




美しい朱色の髪の毛をくしゃくしゃとむしるように掻き、相当困ってイラついているのがわかった。




「あの、本当にごめんなさい!僕にできることならなんでもするので…!」




「…なんでも?」




朱色の髪の女の人は、ニヤリと笑った。




「お前、今なんでもするっつったな!?じゃあこれ食ってくれ!」



目も綺麗な宝石のように朱いその人は、どこからともなく赤く輝く羽を取り出し、根元のふさふさした方を容赦なくちぎって渡してきた。





「え…と、羽を食え、と?」




なんの鳥の羽なんだこれ、菌とか大丈夫なのか。



羽を食うなんて何を言い出してるのやら。


聞き間違いとしておこうとするも。



「飲めこのカスが」


「カスっ……!」


「日本語わかんねーのかー?それならカスだろーが」


「んな……!日本語として成り立ってないの!羽は飲まないの!どこの漢方だよ!」



口が悪すぎるやつにむかついてしまったけど、事実そうでしょ。


羽を飲むなんて聞いたことない。




「飲んだらここから出させてあげる」




急に戦法を変えてきた。



正直言って、たぶんここから上の登山ルートまで4、5mくらい。



斜面だし、よじ登るのもちょっと無理な高さだ。


なにかルートでもあるなら教えてほしい。


だって見渡す限り森林で、途方に暮れてたのだ。


……だけどなぁ、羽、飲むのかぁ……。




「うーん……これなんの鳥の羽ですか?流石に抵抗あるんだけど……」



羽を飲むなんて、さすがに無理だ。



鳥インフルエンザとか怖いし。




「…じゃあ、引きちぎって口に含むだけでいい」



「えー…」



それも嫌だけど、仕方ない。



潔癖症ではないけど、菌とかついてるかもしれないから抵抗はあった。




けどまあ、口に含むだけなら後でうがいでもすればいいだろう。


羽なんか食べたことないから戸惑う。


…が、これで解決するのならお腹を壊す程度で収まるだろう。



羽のふわふわしたところを適量むしって、口にほおりこむ。



こんな綺麗な羽なのだから、味でもついてるかと期待もしたけど、なんの味もしない。




「……?」



よくわからず口の中で転がしてみる。



髪の毛を食べたみたいな感触に違和感を覚え、美味しいとかは特になく、想像通りの無味無臭、毛束を食べた感覚そのまんまだった。



「あの、食べましたけど」



そう言って前を向くと。もう彼女はいなかった。




「え…」



また足音ひとつ立てずに消えた。



どういう事だと周りを見渡す。







『おーい、ここだよ、ここ!ここにいるんだから見えねーよ〜!』






そう言うが、一体全体どこにいるのやら。




そこここを見渡し、探してみるも、声がどこからするのかすらわからない。




『ここだよここ!お前鈍感だな〜!おまえの“中”だよ!』






「は!?」






思わず叫んでしまった。



そしてその衝撃で飲み込んでしまった。



自分の体をまさぐるも、何も違和感はない。



ただ、確かにこの声は……







自分の中から聞こえている…。




「ひ、ひぃぃい!!!」





唐突な展開に尻もちをつき、後ずさりした。




これはいわゆる、憑かれてるってやつ???





『私は幽霊とかじゃない。もっと神聖なやつだから、中に入れてても問題は何一つないぞ!』



「で、でてって!でてってください!!!」



『あたしゃーあの祠に封印されてたんだよ』




祠。僕がしめ縄を崩壊させた、あの…。




「封印って…」



『あ、悪いことしたとかじゃねーよ?私は吉兆があると復活する仕組みの神様なんだ』



「か、神様!?」


神様がこんなにフランクなの!?!?



『霊力っていって、信仰で集まる力?みたいなものがあるんだけど、それが実体化するにはちょーーっと足りなくてよぉ。


それが集まるまで封印されてたんだよ』



神様をあんな古びた祠に封印してていいのか?



『霊力が集まりきる前にお前が祠の封印をといちまいやがったせーで、あたしは実体化もできねぇ、世間に降臨することも出来ねぇ……


このままあの壊れた祠にいたら集まった霊力は流れちまうし、お前の体を借りるな?』





決定事項みたいに言いやがった。




「いや、借りるって…何に使うんですか僕の身体を!」





『霊力を集める器として使うだけ。中に私を入れて置いてけろ?』




「けろじゃない!!!幽霊…じゃなかった、神様中に入れて生活ができるか!!」




『案外行けるよ〜ていうか元はと言えばお前が悪いんだからな』



うっ。


確かに僕がしめ縄をちぎったのがわるい、けど…。




『あたしのことはアカネ様でいいからな!お前は?』



「一ノ瀬柚螺ですけど…なんの神様なんですか…」




『そうか!柚螺か!!敬語もいらねーぞ!言うてそんなに怒ってないし?仲良くやろーぜ!』




中でニコニコ笑ってるのが感じる。このひと、陽キャすぎる。







『あたしは鳳凰っていう神だ、聞いた事くらいはあるだろ』







「え!?あの1万円札の!?」





『えっ、今1万円札になってんの!?』




相当長い間封印されてたのか、知らなかったらしい。



『ヤダーあたし有名人じゃん??』




「どんなことする神様なの?」





『主に吉兆が訪れる前触れに復活するんだ。


全員で4人いる。何年かずつズレて復活していくんだ。あたしが末っ子だから、1番最後だな』



よくイラストとかは目にするけど、そういう神様だったんだ。




『鳳凰は中国生まれの神様で、全鳥類の中の長だ。…国はいつかは荒れるものだ。



私たち鳳凰は国を作る土台を整える、地盤とも言うなー。――私たちのような神は“発生”する。』



「発生?」




クスリと妖艶に笑って。



『人間に願われて、請われて。そうあってほしいという願いは命を神をも生む。“世界の創造”を願われたんだ、私たちはよ』




ここらへんで僕の頭はショートした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る