第5話:私の歓迎会_3
(……みんな、もしかして同じこと考えてる?)
早瀬さんのキャラがどんなものなのか、よくわかった気がする。失礼かもしれないが、みんなに遊び人だと思われているのだろう。そんなことを言われても、特に気にした様子もなく、早瀬さんも一緒になって笑っていた。
(……気を付けよう)
私は、航河君と指切りした小指を、テーブルの下でそっと握った。
「……でもさぁ、実際のところ、千景ちゃんって彼氏いるの?」
「え、私ですか? 今はいませんよ」
「お、いないの? じゃあ俺、チャンスある?」
「あるわけないでしょう!? いくつ離れてると思ってるんですか! ……まったく」
航河君がまるでお父さんのように早瀬さんを叱っている。これじゃあどちらが年上なのかわからない。
「千景ちゃんは、どんな人がタイプなの? 年上? 年下? タメ?」
「む、難しいですね……。前の彼氏は、年上でした」
「へぇ! 社会人? 同じ学生?」
「社会人でしたね」
「なんで別れちゃったの? 千景ちゃんが振った?」
「ええっと……。その、色々合わなくなってきて……」
「それで別れたの? なにが合わなかったの?」
「あー……っと……」
(この人めちゃグイグイくるな!?)
自分の元カレの話を、こんなに大勢の人たちの前でするとは思わなかった。幾分か広絵には話していたが、ここまで根掘り葉掘り聞かれることはない。
「そ、そうですね……。束縛がちょっと……強かったというか……」
「千景ちゃんしか見えてないって感じ!?」
「え、あ、あぁ……そうかもしれないですね……」
「ふーん。そういうの、良いと思うんだけどなぁ。でも、俺は結構自由にしてもらう感じかな。俺もまぁまぁ遊びに行きたいし、詮索するのもされるのも嫌いだし」
「そう、なんですね」
「千景ちゃん、ヤキモチ妬くほう?」
「ま、まぁ……そうかも?」
「彼氏が女の子とふたりで出かけるのとかどう思う?」
「私はできればその、やめてほしいですね……。要らぬ心配をしたくないと言うか……。勘ぐっちゃいそうで……。でも、自分の友達とか、知っている人だったら、良いよって言えるかも……」
「そっかそっか。まぁ、俺なら千景ちゃんのこと悲しませないと思うけどね? これでもちゃんとオトナだし、包容力もあると思うけどな?」
(ちょいちょい自分のこと、ぶっこんくるよね……!?)
あまりの勢いに、私は引き気味に笑うことしかできなかった。
「あのー、早瀬さん? 千景さん、めちゃくちゃ引いてますよ?」
「え、そうなの?」
「い、勢いが強くて……ちょっとビックリしました……」
「あー、ごめん! ついやっちゃった。気になる子には、やっぱり知りたいこといろいろ聞いちゃうんだよね」
「あ、と……えぇっと……」
(それは私が気になっているということなの!?)
航河君のフォローがあっても、ギリギリのラインを攻めてくるような早瀬さんに、私は上手い返しがなにも言えないでいる。なにを言っても次に繋がりそうだし、なにが返ってくるのかさっぱりわからない。
「コラ、早瀬さん! ダメだよ新人ちゃんに。もし辞めちゃったらどうするの? そしたら間違いなく早瀬さんのせいだからね!?」
「ひぃごめんなさい店長!」
早瀬さんも、相崎さんには弱いらしい。相崎さんのほうが圧倒的に年下に見えるのだが、これは立場の問題だろう。航河君の言葉も肝心の部分は知らん顔していたのに、店長の言葉はちゃんと聞いている。
(なんというか、とっても現金な人だ……)
やはり、年齢ではなく役職が関係しているのだと勝手に分析する。
「千景ちゃん、ハッキリ言っちゃって良いからね? 気持ち悪いとか、ウザいとか、話しかけんなとか」
「それはさすがに凹む!」
「良いの良いの。そういうふうに言われなきゃ、この人一切反省しないんだから」
「広絵が言っても、早瀬さん全然聞いてくれないてすもんね? 冗談とか思ってるんでしょ? ……マジですよ?」
最後の最後、広絵の声のトーンが急に落ちた。
(これはマジでマジのヤツ)
「あー、この広絵さんマジなヤツだなぁ? 早瀬さん、大人しくしないと女性陣にどんどん嫌われていきますよ?」
「航河の言う通りだよな。店長の俺でも、庇いきれないっていうか」
「みんなで俺のこといじめないで!?」
さっきまで調子良く喋っていた早瀬さんが、あっというまにしどろもどろになって撃沈していった。
(頼もし過ぎる、みんな……)
「ま、まぁでも。恋愛ごとで困ったら、気軽に俺に相談してきてね? そのときは、メシでも食いながら話しよう? 恋愛経験は豊富なほうだと思うし、年上の意見あんまり聞ける機会ないと思うんだよね?」
「早瀬さん全然懲りてなくない? ちょっと店長ー!!」
「広絵もそう思う? 俺もそう思った」
「やっぱりそうです? ホラ、見てみてくださいよ、他の人たちの視線。……まるで珍獣を見るような目をしてます」
ちょっと可哀想になるくらい、早瀬さんは弄られ続けている。しかし、確かに他のメンツは、弄りはしないものの、フォローもせずに苦笑いしていた。気にせずにお酒を飲み、ご飯を食べている人もいる。もしかしたら、日常茶飯事なのかもしれない。
(……もしそうだったら、この可哀想、って気持ちは、きっと余計なんだろうなぁ……)
届いたウーロン茶に口をつけ、クスリと思わず笑ってしまった。
「あ、笑ってる千景ちゃん! ちょっと、俺の印象どんどん悪くなってない!? 俺大丈夫!?」
「元からそうだろうから、問題ないと思うよ? それにしても、ナンパしないでって、広絵一番最初に言ったはずなのに……」
「俺も釘刺したんすけどね。それでこれです」
「ふたりとも酷い!」
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