バッドエンドの少年がたどり着いたもう一つの結末

翠雨このは

プロローグ

『戦争も人生も結果がすべてだ』と誰かは言った──

 だとしたら、この戦争がもたらした“結果”は何を生んだのだろう。

 彼らの生きた時間が『不幸せだった』と誰が決めるのか。

 私は“記録者”。

 彼らの日々を観察し、書き記す存在でしかない。


 これから語るのは絶望の運命にあらがい、“幸せ”を探し続けた者たちの“記録”である──



 * * *



 この世界では神と悪魔の永きに渡る戦いがあり、神の勝利によって戦争は終わりを告げた。

 神が人類に代わり世界を統治・管理する事によって新たな秩序が生まれ、世界はようやく平和を手にした。


──そして人類は神の手により、二つの道が示された。


『長命で優れた才能と遺伝子をもった者』は神々が暮らす“空の大地”で暮らす権利が与えられた。

 対して、『短命で才能も遺伝子も優秀な働きを見せない者』と判断された者は、汚染がまだ続く“下層の大地”で暮らすしかなかった。

 成人を迎えた者は神と国が定めた法令により、“能力試験”を受けなければならない。合格した者は空の大地で暮らせる切符を獲得できるという。


 神からの“お告げの日”──。


 今年も神の神殿に成人を迎えた国中の若者が集まっていた。

 神官に名前を呼ばれ、神官から渡される能力試験の結果通知書を受け取った者達の反応は大きく二つに分かれた。


──歓喜の声をあげる者。

──失意の声をあげる者。


 同じ年に生まれ、同じ年を越して来たはずの者達が、ここで天と地の差を知る。


「タスト・レトシルヴァ。こちらへ」


 白い髪をした一人の少年が名前を呼ばれて勢いよく腰をあげた。

 少年の母親が後ろの席で神に祈り、祭壇にあがる少年を見守るなか、少年は高鳴る心臓を必死に抑えて、結果通知書を震える両手で受け取った。

 少年は祭壇から降りて深く息を吸うと、通知書の結果を目にする。


─能力診断テスト結果─


寿命推定予測:残り2年2ヶ月


遺伝子レベル:D


才能レベル:C


空の大地への適正診断結果:


不合格

──────────


 その日、十八年間積み上げてきた少年の将来計画は無惨にも奪われた。

“たった一枚の紙きれ”によって──。

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