第40話絶望

 いよいよ勝負も大詰めの段階に入り、俺たちは今からブロックの決勝戦を始めようとしていた。決勝戦というより準決勝戦なのだが、この準決勝戦はAブロックとBブロック同時にやるのではなく、分けてやるらしい。今までは同時に進行していたが、ここからは分ける。つまり、俺たちの戦いがAブロックのやつらにまで見られると言うことだ。


 別に見られて困るものでもないからどうでもいいが、こんなに多くの視線を集めるのはちょっとばかし恥ずかしい。先にAブロックから始めるらしく、俺たちBブロックは後半だ。


 だから俺は、篠原の卑怯な戦いぶりを見ることにした。いったいどうやって相手を掌握しているのか、見ものだ。


「それでは間も無くAブロック決勝戦が始まります。さぁ、番号を呼ばれた方は前にお進みください!」


 もう聞き慣れたお姉さんのテンション高い声が室内に響き渡るなか、俺は本当にたまたま、先ほど篠原に文句を言おうとしていたオタクが黒い上着をきたオタクっぽくない格好をした男と喋っている場面を目撃した。気になってその男たちに視線を向けていると、


「ではまず、十八番の方。前に出てください」


 オタクっぽくない男が前に出ていった。あの二人は知り合いだったのか? でも、それにしては格好が違いすぎる。遠目から見た感じも、あまり仲が良さそうには見えなかった。怪訝に思った俺は、今から戦いに出向く篠原に声をかけた。


「おい篠原。もしかしたらお前の作戦、バレてるかもしれねーぞ」


 そう言うと篠原は理由を聞こうとしてくるが、その前にお姉さんに番号を呼ばれてしまった。もしかしたら俺の杞憂の可能性がある。もしそうだったら、篠原は俺のせいで負けてしまう。


 何も言わない方が良かったかなと後悔しそうになるが、それは結果次第。番号を呼ばれ前に姿を現した篠原は、Bブロックのオタクたちから妙な歓声の声を浴びていた。


 まあ、顔だけはやたら整ってるやつだし、この場に似つかわしくないし、もしそんな奴が自分たちと同類かもしれないと思えば喜びたくもなるのだろう。


 ほらあの、有名人と手相が同じだけで喜ぶ女子と同じ心理的な? よく知らねーけど。とにかく、俺は篠原が無事に勝つことを祈って見守る。


 前に現れ、オタクっぽくない男と対面した篠原は、彼の耳元に口を近づけるとそっと何かを囁いた。それはほんの一瞬のことで、ほとんどのオタクたちは気にも留めていなかった。会場はかなりの喧騒で何を話していたのかは全く聞き取れないが、何を言ったかは察せられる。


 篠原に誘惑された男の方は、彼女から声をかけられた瞬間微笑を携え右手を前に出した。「お前の手の内は分かっている」とでも言いたげな、勝ちを確信しているような笑みを……。


「さぁ、それでは行きますよー! 最初はグーじゃんけんポーン!」


 お姉さんの掛け声とともに、篠原はチョキを、そして相手は……。


「おおーっと! 女性の方がチョキを、男性の方はパーを出しました。そこの綺麗なお姉さん! おめでとうございます!」


 自信満々にパーを出した男は、ものすごく意外そうなで、裏をかかれたような驚きと言うより驚愕の表情を浮かべていた。

 あんなに自信満々だったのに、その自信が一瞬で崩された。そんな顔をしている。


 事前に伝えといて良かった。ホッと胸をなでおろすと、篠原がドヤ顔で戻ってきた。


「見た? あの男の顔。自信に満ちた人間が絶望に陥るような顔をしていたわ。今思い出しても笑いが止まらないわね」


 やっぱりこいつは悪魔の生まれ変わりなんじゃないかと思う。でもま、無事に勝てて良かった。篠原が勝ったのだ、俺も負けてられない。気合いを十分に入れると、俺はBブロックの方へ戻った。

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