第14話豚の餌

 特になんの説明もされないまま調理室に連れてかれた俺とハム子。


「なんで調理室?」


 ハム子が疑問に思っていたことを質問すると、篠原は胸を反らせドヤ顔で。


「『男をつかむなら胃袋をつかめ!』って言うじゃない。金剛先輩に美味しい料理の一つや二つ振る舞えば、きっとオトせるわ」


 自信たっぷりに言う篠原だが、俺とハム子は二人して顔を合わせる。そんな簡単に人の心が動かせるなら世の男女は苦労しねえよと、そう言ってやりたいが、なんだかあんなに自信満々だと言いずらい。


 まあ別に、実際悪い案ではないと思うし、やるだけやってみて諦めるのも悪くないか。それに、金剛先輩とやらはいい人ではないらしいし、失敗した方がハム子のためにも……。

 なんてことを考えていたら、篠原が早速仕切り始めた。


「それじゃあハム子さん。早速だけど、料理を作って見せてくれる? 材料は私たちが用意したから、好きなものを作ってくれて構わないわ」


 篠原に言われたハム子は、「任せろ!」とやる気満々で材料を切り始めた。てかハム子にはもうつっこまないんだ。それでいいのか、ハム子……。


 俺がハム子を憐れんでいる間に、ハム子は順調に料理を進めており、気がつけばフライパンで野菜を炒めていた。もしかしてこのハム、見た目の割に料理できるのか!? もしかしてハイスペックピッグなのか!?

 心の中で失礼極まりないことを考えていると、俺たちの眼前に料理が出された。


「ほら、出来たぞ!」


 出来たぞ……と言われ、出されたそれは、料理としての体裁を保てていなかった。なんだこれ? さっきまで野菜炒めてたよね? どこ行ったの?


 これは食べ物じゃないなと思ってしまったが、そう思ったのは俺だけではないようで、篠原は声に出して目の前の料理もどきを貶し始めた。


「えーと、これは何? 生ゴミ? それとも豚の餌? もしかして自給自足?」


「ふッふふッ!」


 篠原の容赦ないディスりに、思わず笑ってしまった。コイツ、いいパンチ打つな。

 料理を作った者の前で、その料理を貶す奴と笑う奴。側から見れば、俺たち最低だな。これはまた昨日のように怒られるかな。俺は笑い声をなんとか収めると、ハム子を一瞥する。

 しかしハム子は、怒るでもなく悲しむでもなく、落ち込んでいる様子だった。


「うるせーなー。料理なんかしたことなかったんだよ。だいたいお前ら、人のこと馬鹿にしてるけど、料理できんのかよ」


 ハム子が「どうせ出来ないだろ」と挑発交じりに言うと、篠原はガタッと椅子から立ち上がり。


「私を誰だと思っているの? あの篠原美佳子よ! 料理程度、お茶のこさいさいよ」


 胸に手を当てて、自信満々に言い切る。

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