第七葉 書けるものならば

 転坂は、低く唸った。そして、また低く唸った。

 「書けるものならば、光よりも先を書いてみたい」

 「光より先、ですか?」

 「そうだ、光より先だ。おかしいだろう? 光より先は光が届かないから真っ暗だ。なにも見えない。目にはなんにも見えないんだ。なのにどこへ行くというのか・・・・・・。 でも、それを書いてみたい」

 「すみません、難しくてよく分かりません」

 「そうか、お前にも分からないことがあるか。実は、俺にもよく分からん」

 転坂は前にも増して哄笑した。

 「いや、忘れてくれ、忘れてくれ。トルストイでさえ光の中を歩む程度なのに、光の先を行こうなどとはおこがましいわな」

 「なんだかよく解らないですけど、とりあえず書いてください」

 転坂は、またテーブルを叩き始めた。

 「またっ! またそれを言う! それじゃあ言わせてもらうけどな、本当に書きたいのはお前の方じゃないのか? どうだ、図星だろう? 俺は書けない。だからお前が書け。俺の代わりに書いてくれ」

 里山は嘆息した。

 「転坂さん、それでは意味がありません。あなたが書いてこその作品ではないですか! はぐらかさないで真面目に考えてください。わたしは真面目にお勧めしているのですよ」

 その瞬間、転坂は「あっ!」と叫んだ。 

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