第六葉 書く力、書けるようなもの

 里山は、「書く力、書けるようなもの」と書き留め、しばし考えた。

 「転坂さん、これはわたしの考え違いかもしれないけれど、・・・・・・」

 里山は静かに語り始めた。

 「転坂さんはお母さんから親らしいことを何もしてもらえなかったと言われましたけれど、転坂さん自身はお母さんのことを子どもの頃からずっと気遣ってこられたのではないでしょうか? 学費のかからない高校へ進学されたのも、本当は学びたい心を静かに殺して家出されたのも、すべてはお母さんの負担を減らしたかったからではないですか? 働きながら夜間の大学に通われ、もともとあった文学の素養をさらに培われ、今の人生を豊かに生きておられる。今の世を生きる若い人たちへ伝えたいことも持っておられる。違いますか?」

 転坂は、先ほどの勢いを失って反撃を止めた。

 「正直に言えば、心を殺したというのはそのとおりだよな。そのとおりだ・・・・・・」

 「あとは、・・・・・・」

 里山は、転坂の心の在りかを推し量りながら続けた。

 「・・・・・・、書くだけではないでしょうか?」

 

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