第四葉 集団就職
「あの当時はよ、全国から東京に向かって義務教育出たての子どもがよ、集団で来るんだよ。東北から着いた列車からさぁ、まだ幼い顔した子どもらがよ、親元を離れてよ、ぞろぞろ降りてくるんだよ。そしたらさ、旗持ったやつが整列させてさ、歩いていくわけ。丁度俺が上野駅に着いたそのときに、それを見てさぁ、俺もう泣けて泣けてさぁ・・・・・・。」
転坂は電話口ですすり泣きをはじめた。里山は静かに次の言葉を待った。
「俺は何してるのかって! あんな小さな子どもたちがさぁ・・・・・・」
里山は、「小さな子どもたちが、」と書き留めた。
「それから俺は現場叩き上げの職人として生きてきた。自分の会社も持った。小さいけどな。あの当時は経済に勢いがあったからな。人も勢いがあった。政治も今みたいにデタラメじゃなかったしな。みんな、それぞれ政治的な立場は違っても、自分の主張を堂々と語っていたな。いまそんなやつどこにもいないだろ。俺は現場修行中の職人見習いだったから学生運動のことは外の話だったけど、でもあいつら自分の主張があって、ちゃんと言えてたよな。そう思うと、今の子どもたちが気の毒だよ。自分を見失ってさ、流されてるんじゃないか? このままだと騙されてまた戦争にかり出されて、うちのオヤジみたいに死んじまうよ、きっと・・・・・・」
里山は、「学生運動、戦争」と書き留めた。
「お前、三島由紀夫って知ってるか?」
里山は、急いで「三島由紀夫」と書き添えた。
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