第36話 け、結婚⁉
突如として出してきた三保葵先輩の婚姻届に、リビングの空気が凍り付く。
一方で、婚姻届を出してきた当の本人は、頬を朱色に染めてこちらを上目遣いに見据えてきている。
予想をはるかに超越する出来事が目の前で起こり、俺は固まってしまっていた。
ようやく我に返り、俺はぶんぶんと首を横に振る。
「いやいやいや、結婚とか意味が分かりませんって! ていうか、俺まだ18歳になってないから出来ないですし!!」
「そんなことは分かっているわ。でも、事前準備なら問題ないでしょ」
「大ありですよ⁉」
いきなり結婚とか、話しが飛躍しすぎてて理解が追い付かない。
「い、いいいきなり結婚とか、あなたは何を言ってるんですか⁉」
すると、隣で座って話を静かに聞いていた桂華ちゃんが、席を立ち葵先輩に向かって指差していた。
「お兄さんと結婚とか、なんて羨まっ……じゃなくて! 非常識すぎます!」
桂華ちゃんの言う通りだ。
付き合ってすらいないのに結婚の申し込みとか、常軌を逸している。
「えぇ、そうかなぁー。私はお兄ちゃんがそれで幸せなら、それでいいと思うけど?」
「愛実!? お前何言ってるんだよ⁉」
「えっ? だってお兄ちゃんがだーい好きなおっぱいだよ? しかも、国民のおっぱいって言われてる神乳だよ? それを独り占めできるチャンスが目のまえにあるのに、お兄ちゃんはがっつかないワケ?」
「そ、それは……」
確かに、今思えば、俺が巨乳好きになった元凶である女の子から結婚を申し込まれているのだ。
もし結婚すれば、当然、葵先輩のおっぱいに、あんなことやこんなことをし放題ということで……。
うひっ。
「お兄さん! 愛実の口車に乗せられてちょっと揺るがないでください!」
とそこで、正気に戻るよう、桂華ちゃんに思い切り肩を揺らされた。
俺ははっと我に返る。
いくらおっぱいが魅力的でも、ダメなもんはダメだよな。
俺には、寺山さんという好きな人がいるんだから。
「いやっ……でも待てよ。ここで保険を掛けといて、18歳まで他の人のおっぱいを触りまくるという手もあるな……」
「愛実ちゃん。お兄さんが下衆な考えに呑み込まれちゃってるよ!」
「まあ、お兄ちゃんはおっぱい星人だからねぇ」
「呑気に言ってないでどうにかして!」
俺が邪なことを考えていると、今度は葵先輩が畳みかけてくる。
「もちろん、18歳までは朝陽の自由にしていいわ。他の女の子のパイパイをチューチューしてなさい。でも18歳になった暁には、私のおっぱいを毎日触り放題やりたい放題していいわ。朝陽がシたいこと、何でも叶えてあげるわよ。もちろん、おっぱい以外のもっと先の事だっていいわ♪」
「ま、マジすか……」
俺の妄想が捗ってしまう。
脳内では、あられもない姿になっている葵先輩がいて――
『わ、私を滅茶苦茶にしてぇー♡』
と、シーツを被りながら蕩けた声で言っていていた。
その爆発的な破壊力に、俺は思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまう。
「お兄さん! 正気に戻ってきてください!」
俺は桂華ちゃんに思い切り頬を抓られ、現実へ再び意識を呼び戻される。
「はっ⁉ 危ない、危ない……また俺は夢の世界に」
「危ないどころかもう片足突っ込んでましたよ!」
「ありがとう桂華ちゃん」
桂華ちゃんにお礼を言って、俺は先輩に向き直る。
「先輩の熱意は伝わりました。ですが今すぐに結論を出すわけにはいきません。家族の説得も必要ですし、一旦保留という形にさせてください」
「えぇ、もちろんよ。ただ、一週間もしたら私の元へあなたの方からくる羽目になると思うけれど」
「どういうことですか?」
「さぁ? どういうことでしょう」
葵先輩は、妖艶な笑みを浮かべつつ、すっと立ち上がった。
「さっ、用件も済ませたことだし、私はそろそろお暇するわ。その婚姻届は答えを聞く時までちゃんと保存しておいて頂戴。もし破り捨てたりしたら、どうなるか分かってるわよね?」
「破り捨てたりしませんよ。ちゃんとファイリングして保存しておきます」
「よろしい。それじゃ、いい返事を待っているわ」
朗らかな笑みを浮かべて、葵先輩は荷物を持って玄関へと向かって行ってしまう。
「私、お見送りしてくるね」
愛実が機転を利かせてくれて、後を追うようにして玄関へと向かって行く。
リビングには、ローテーブルに置かれた婚姻届。
そして、何とも言えぬ気まずい沈黙の中、俺と桂華ちゃんだけが取り残された。
「お兄さんは、葵先輩と婚約する気なんですか?」
「まさか、こんなの俺一人で決められることじゃないよ。それにきっと、葵先輩の遊び半分でやってることだろうし」
「そうでしょうか。私には、そうは見えませんでしたけど……」
心配そうな声を上げて、俺を見つめてくる桂華ちゃん。
「安心して、桂華ちゃんが思っているような事にはならないから」
「はい……」
俺が桂華ちゃんの頭を優しく撫でてあげるものの、彼女の表情が晴れることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。