第26話 寺山さんの意志

 数日後の休日。

 俺は見慣れた廊下で、待ちぼうけを食らっていた。


 寺山さん特訓2Days目である。

 何故俺の家で行われているかというと、丁度家族が誰もいなかったため。

 母ちゃんは職場仲間と一緒にお出かけしており、愛実も桂華ちゃんと遊びに行っている。


 生憎、寺山さんと上白根の家は、ご両親が在宅中とのことで、俺の家で特訓を行う流れになったというわけだ。

 今か今かと廊下を行き来しながら二人を待っていると、不意に部屋の扉が開かれる。


「お待たせ新治」


 顔を覗かせたのは上白根。

 上白根は、白いジャージ姿というラフな格好をしている。


「おう、入っていいか?」

「和泉ー! 新治入れるよ?」


 上白根が部屋の中にいる寺山さんに確認を取る。

 そして、OKが出たのだろう、上白根が部屋の扉をさらに開いてくれた。

 俺はヘコヘコとお辞儀をしながら、部屋へと入る。


「……」


 部屋の中に入った途端、俺は目の前に広がる光景を目の当たりにして、言葉を失ってしまう。

 なぜなら、寺山さんは白いビキニ姿に身を包んでいたのだから。


「て、寺山さん⁉ えぇーっ!?」


 俺は思わず、某アニメのマ○オさん風な叫び声を上げてしまう。


 好きなタイプの女の子が、自室で水着姿になっているという光景。

 これ、なんていうエロゲ!?

 どこで手に入るの⁉


 俺のテンションが有頂天になって興奮していると、後頭部にバシンと衝撃が走り、意識を現実へと引き戻される。


「デレデレすなこの変態! ごめんね和泉。新治がスケベで」

「ううん、平気だよ」


 状況が読み込めぬまま、俺が上白根に説明を求める。


「これは一体どういうことだってばよ⁉ どうして寺山さんが水着姿なわけ⁉」


 着替えるとは言っていたけど、ビキニになるとは聞いてない。


「ミスコンの練習に決まってるでしょ。アンタも知ってると思うけど、ミスコンって水着審査あるじゃない? だから、水着姿でポージングを取れるぐらい出来なきゃいけないのよ」

「あぁ、なるほど」


 ようやく合点がいき、俺は納得した。

 可愛美うちの高校のミスコンでは、確かに水着審査がある。

 水着審査では、美貌だけではなく、身体のラインといったスタイルや容姿面だけでなく、色気なども判断基準に入ってくるため、必然的に審査員からは舐めまわすような視線で見られるのだ。


「つまり、水着姿をジロジロと見られることに対する練習って事か」

「そういうこと。和泉には、これからこのムッツリスケベの変態達に見られることに慣れてもらうの。本番当日は、何百人っていう大衆の前で見せつけなきゃいけないんだから」


 当日は可愛美の生徒だけでなく、外部からの観覧客も多く訪れる。

 そんな一般大衆の前で、水着姿を曝け出すなど、寺山さんにとっては高難易度ミッションにも程があるというもの。


 とここで、俺はとある疑問が浮かんでくる。


「てかさ、一つ聞いていいか?」

「何よ?」

「上白根は気合が入ってみるみたいだけど、寺山さんはミスコンに出場さえしちゃえばいいわけで、優勝を狙ってないのであれば、別に堂々とパフォーマンスをする必要はないんじゃないのか?」

「何言ってんのよ! 出るからには、優勝を狙うに決まってるでしょ!」

「いや、上白根はそうかもしれないけど、そこは寺山さんに聞かないと分からないだろ? それで、寺山さんはどうしたいの? 出場するだけなら、それなりのパフォーマンスをして、残念でしたで終われば、友達にも同情されるだけで、妬まれることもないだろ?」


 俺が尋ねると、寺山さんは手を前に置きながら、コクリと頷いた。


「うん、それはそうなんだけどね……」


 そこで、寺山さんは一つ間を置き、今度はスっと顔を俺に向けて、きりっとした目で見据えてきた。


「出るからには全力で取り組みたいの。だって、他にも出場したかった人は沢山いるんだもん。それなのに、中途半端に取り組んだら失礼に値するでしょ? それに私、勝負ごとに関しては、どんな勝負だろうと絶対に他に人には負けたくないの」

「それが、寺山さんの気持ち?」

「うん。もうこれは、私の信念を曲げたくないっていうエゴかもしれないけどね」


 寺山さんは、スポーツをやっているからか、勝負事や何か一番を決める大会において、敗北は絶対にしたくないらしい。

 負けたくないという熱意が、ひしひしと伝わってくる。

 比べて俺のエゴといったら、理想のおっぱいの女の子と付き合って、揉みしだきたいという何とも邪な願望しかない。

 なんだか、寺山さんと比べてしまうと、陳腐で申し訳なさすぎる。


 まあ、勝負ごとに勝ちたいという信念は、俺にはない価値観だ。

 けれど、寺山さんがその信念を曲げたくないというのであれば、俺が出来ることはただ一つ。


「分かった。そこまで言うなら、俺も寺山さんが優勝できるよう、全力でサポートしていくよ」

「本当に? ありがとう!」


 感謝の意を伝えてくる寺山さんに、俺は待ったをかけるように、制止の手をあげた。


「ただ、俺も男だし、時々エッチな目で見ちゃうと思う。そこは理解して欲しい」

「うん、それも覚悟の上だよ」


 どうやらすでに、寺山さんの決意は固まっているらしい。

 であれば、俺がすべきことは決まっている。

 寺山さんの胸を、視感しまくってやるぞ!(ゲス)


「本番当日も、俺みたいな変態紳士ばかりかもしれないけど、寺山さんがその気なら、そういう奴らの前でも恥じらいを克服して、堂々とパフォーマンスが出来るよう、全力で手伝うよ」

「ありがとう新治君。新治君なら、そう言ってくれると思ってたよ」

「だから……絶対に優勝出来るようにしよう!」

「うん!」


 こうして、寺山さんの意志を改めて再確認して、俺と上白根を加えた三人による、『寺山さん、ミス可愛美コンテスト優勝大作戦』の猛特訓が幕を開けたのであった。

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