第10話 光の粒子の正体
神々しいオーラに包まれた光の粒子の集合体が、俺たちの前で立ち止まると、パーンっと纏っていた粒子が弾け飛び、その正体が露わになる。
凛々しい佇まいに、真っ直ぐとした艶やかな黒髪。
大きな瞳にぷるっとした小さな唇、透き通るような白い肌。
制服をきっちりと着こなし、光輝くオーラからは近づくことさえ憚られるような、とんでもない美少女が目の前に立っていた。
「おはよう新治君。ちょっといいかしら?」
我が
昇降口にいた生徒たちのほとんどの視線が、先輩から俺へと移る。
「おはようございます会長。どうかしましたか?」
俺は顔色一つ変えず、悠然とした態度で尋ねる。
すると、霧ケ丘先輩は何も言わずに踵を返して、体育館の連絡通路へと歩き出してしまう。
どうやら、ついて来いという無言のメッセージらしい。
俺が申し訳なさそうに寺山さんたちの方を見ると、二人は穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「生徒会の仕事なら仕方ないよ。また後でね、新治君」
「うん、また後で、寺山さん」
「おう、またな朝陽」
名残惜しくもあるが、会長直々に呼び出しを断るわけにはいかないので、俺は寺山さんと雄人と別れ、霧ケ丘先輩が向かって行った体育館の連絡通路へと足を進めることにした。
何故呼び出されたのか、それは俺が
こんなおっぱい好きでド変態な俺でも、副会長を務めることが出来ているのだから、世間というのはとんでもない変態ではびこっているのではないかと心配になってくる。
恐らく、霧ケ丘先輩に呼び出されたのは、普通に生徒会関連の何かだろう。
霧ケ丘先輩は、あの光り輝くオーラのせいなのか、廊下で声を掛けられるだけで幸せが寄ってくると言う迷信があるほどに、神聖な存在へと奉りあげられている。
よって必然的に、生徒会の仕事でよく会長に声を掛けられる生徒会役員たちは、皆から羨望の眼差しを向けられるのだ。
まあその視線にも、もう慣れたけどね。
それに、俺は普通に接しているからなのか、先輩から神聖なオーラを全く感じないんだよなぁ……。
さっきもオーラは解き放ってたけど、俺だけは平然としてた自信があるし。
教室校舎と体育館の連絡通路へ向かうと、先輩は柱に寄りかかって待っていた。
「何か生徒会の急用ですか会長?」
俺が尋ねると、霧ケ丘先輩はおもむろに柱から背中を離して、ふぁさっと髪を手で払った。
「えぇ、新治君に、今日の午後に行われる全校集会でやって欲しいことがあるの」
「なんですか? 確か、副会長の俺には特に仕事はないから普通に出席してくれと言われたはずですが」
「その予定だったのだけれど、
「トロフィー授与ですか?」
「えぇ、私が賞状を授与するから、新治君がトロフィーを受賞者に渡してほしいの」
普通の高校なら、表彰状授与などは学校長から渡すのが一般的だろう。
だが、
「それは構いませんけど……それなら、俺より
森野とは、生徒会の一人で、主に部活動の取りまとめを行っている役員である。
副会長の俺よりも、そちらの方に任せた方がいい気がするけど……。
すると、霧ケ丘先輩が少し暗い表情を浮かべた。
「先ほど連絡が来て、森野さん、風邪を引いてしまったらしいの。今日は学校を欠席するそうよ」
「それはなんというか、タイミングが悪いですね。分かりました。そういう事なら、俺がトロフィー授与を行いますよ」
「助かるわ。次期会長候補として頼もしい限りね」
会長にそう言われると、少し荷が重い。
というか、遅刻ぎりぎり常習犯の俺に、次期会長なんて務まるのだろうか?
「大丈夫よ。あなたは成績も優秀で、生徒会活動も真面目に取り組んでいるのだから。皆からの信頼も得ることが出来れば、問題なく次期会長当選も確実よ」
「そうですかね?」
「えぇ」
はっきりとそう断言されてしまうと、気恥ずかしさのあまり頬を掻くことしか出来ない。
「まあ、その遅刻ギリギリ癖を直せればの話だけれどね」
「ぜ……善処します」
釘をさされて肩を丸める俺を見て、会長はふふっと微笑む。
会長は、皆からも慕われている完璧超人な美少女。
自分が後釜の生徒会長として慕われるとは到底思えない。
そんな完璧超人な会長にも、唯一の残念な所がある。
俺の視線の先、会長の腕組みする胸元に、抱えるものが何もないこと。
ブレザー越しに見えるのは、見事なまでの真っ平な平面図。
これが、神の領域に達しそうなほど光り輝く清楚系美少女たる霧ケ丘みどりの最大の弱点にして最大の欠点。
超が付くほどの貧乳であること。
一部男子からは、『胸以外完璧超人』と揶揄されている。
俺が胸元に憐れむような視線を向けているのに気が付いたのか、霧ケ丘先輩が恥じらうように身を捩った。
「な、何かしら?」
「あっ、いえっ……何も……」
俺が胸の前で手を振って取り繕うと、霧ケ丘先輩は多少疑念を残しているようだったが、髪を払って平然とした態度を取る。
「それでは、この後の始業式、よろしく頼むわね」
「はい、わかりました」
用件を終えた霧ケ丘先輩は、俺の横を通り過ぎて、教室へと向かっていく。
通り抜ける際、ふわっとフローラル系のいい香りが髪の毛から漂ってきた。
ホント、胸以外は完璧なんだよなぁ――
まあ、俺の好みかって言われたら、そうではないけどさ。
キーンコーンカーンコーン。
すると、朝のSHR開始のチャイムが校舎内に鳴り響く。
「やっべっ! 遅刻とか洒落になんねぇっての!」
俺は急ぎ足で、教室へと向かった。
どうか、遅刻扱いになりませんようにと願いながら……。
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