第8話 これもトレーニング!?

 翌日、家から出てから突然、愛実がニヤニヤとしたうざい笑みを浮かべてくる。


「な、なんだよ?」

「ん? 別にぃー?」


 俺が尋ねると、妹は含みのある感じではぐらかしてくる。

 う、うぜぇ……。

 謎テンションの妹に苛立ちを覚えていると、昨日と同じ角で、ちょこんとおかれた置物のように待ち構えている桂華ちゃんの姿を見つけた。


「桂華ー! おはよー!」


 いつもと変わらぬ様子で、愛実が桂華ちゃんに向かって突撃していく。


「おはよう愛実」


 愛実のスキンシップを受けながら穏やかな笑みで挨拶を交わした桂華ちゃんは、おもむろに視線を俺の方へと向けた。


「おはようございます。お、お兄さん……」

「おう……おはよう……」


 お互い、ぎこちない感じの挨拶になってしまう。

 そりゃ、昨日おっぱいを揉んで欲しいと言われ、バストアップを手伝うことになったのだ。

 いつも通りに接しろと言う方が無理というもの。


「あれあれぇー? 二人ともどうしたのぉ―? なんか様子変じゃないー?」


 そんな俺と桂華ちゃんの交互に見つめながら、愛実がニヤニヤしながらからかってくる。

 こいつ……絶対に知ってて言ってやがるな。

 そもそも、愛実が仕向けた罠だ。

 事の結末を、桂華ちゃんから聞いていても何らおかしくない。


「ほら、とっとと行くぞ。遅刻しちまう」

「はぁーい」

「い、行きましょう」


 俺が二人を促すと、各々反応を示して学校へと向かって行く。

 そこまでは良かったのだが……。


「……」

「……」


 なんだ、この気まずい状況は?

 登校中、俺と桂華ちゃんが隣同士で歩き、一歩後ろを愛実が楽しそうに歩いているという謎ポジション。

 普段なら、俺が後ろで二人の仲睦まじい様子を眺めているというのに。

 ちらりと桂華ちゃんの方を見れば、どうしたらいいのか分からないといった様子で、こちらへ助けを求めるように視線を送って来ている。


「め、愛実? 桂華ちゃんが何か話したそうにしてるぞ。話を聞いてやっても――」

「ダメだよお兄ちゃん。これは、桂華が望んだことなんだから」

「えっ……桂華ちゃんが⁉」


 驚きつつ、桂華ちゃんに視線を向けると、恥ずかしそうに身体をもじもじとさせながら、上目遣いにこちらを見据えてきていた。


「お兄さん……失礼します!」


 そして、桂華ちゃんは覚悟を決めたように、俺の元へと近づいてきて、ガシっと腕にしがみついてきたのだ。


「ちょ……はっ⁉ け、桂華ちゃん⁉」


 突然のスキンシップに、動揺を隠せない。


「こ、これもトレーニングの一環です!」

「……へっ?」


 桂華ちゃんの言葉に、俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。


「だ、だから……これは私のバストアップのためなんです」


 顔を真っ赤にしながら言い放つ桂華ちゃん。

 俺がちらりと後ろを振り向くと、愛実が何度も首を縦に振っていた。

 確かに、愛実が俺の腕に抱き付くようになり始めたのは、丁度受験期に入ってからの事。

 つまり、愛実がバストアップを始めた時期と類似しているわけで……。


「め、愛実ちゃんから聞いたんです。異性の人に胸を押し当てて歩くことで、刺激されて女性ホルモンが分泌され、バストアップに効果があると」

「それ、マジで言ってる⁉」

「はい……ちゃんと愛実ちゃんにも聞きましたから」


 胡散臭ぇ……。

 俺は、目を細めて愛実に疑念の視線を送る。


「今回に関しては、私は嘘ついてないよ? ソースはちゃんとあるし」


 愛実の口ぶりから、本当のことを言っていることが読み取れる。

 嘘をついている時は、こいつの場合ちょっとだけ面白がって発言するのだが、今は至って真面目な口調だった。

 でもこれ……


「めっちゃ恥ずかしいんだけど……」


 周りからの視線も突き刺さる。

 これじゃあまるで、カップルと勘違いされてしまいそうだ。


「け、桂華ちゃん。あんまり無理しなくても――」

「む、無理なんてしてません! さっ、このまま学校に向かいましょう! 遅刻しちゃいますよ!」

「お、おう……」


 桂華ちゃんの必死さに気圧されて、俺は説得することが出来ず、彼女のなだらかな胸部を押し当てられながら、学校へ登校する羽目になった。

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