第25話 凜花の狙い

 学校の授業を終えて、俺はふわふわとした気分で帰宅した。

 そのまま自室へと向かい、ベッドへポフッとダイブする。

 傾いた陽光の光が差し込む中、部屋の明かりもつけずに、俺は沈思黙考。

 そして――


「だぁぁぁぁー!!」


 枕を顔に埋めて、叫びながら身悶えるようにゴロゴロ、ゴロゴロとベッドの上を行ったり来たりする。


 ドンッ。


 勢い余って壁にぶつかったところで、俺はローリングを止めた。

 どうして俺がこんな深夜テンションみたいになってしまっているのかというと、昼休みに凜花に言われた罰ゲームの内容が原因。


「私と……デートしなさい!」


 どうすりゃいいんだよぉぉぉぉー!

 何でも言うことを一つ聞くとは言ったけど、予想の斜め上が来ちゃったよ。

 まさか、デートしろとか言われるとは思わないじゃん!?


 てか、そもそもデートってどうすればいいの⁉

 やっぱり、男の方からプランとか考えてエスコートした方がいいのかな?


 デート経験がない俺にとって、デートという言葉を聞いただけで、このてんぱり具合。

 正解など分かるわけがないのである。


「はっ⁉ そうか!」


 そこで、俺はとあることに気づいた。

 陰キャボッチの俺に、凜花が一つ何でも言うことを聞く権利で、普通デートなんて申し込んでくるわけがない。


 きっとこれは、ドッキリに違いない!


 そう思い込んだ途端、俺の中で妄想ワールドが炸裂する。



 ◇◇◇



 デートだと思い込んだ俺が、浮かれた様子で待ち合わせ場所へと向かう。

 待ち合わせ場所に到着すると、そこには凜花だけでなく、クラスメイト達が俺を待ち構えていた。


「おい見ろよ、佐野の格好!」

「うわぁ、佐野君、流石にそれはないない!」

「タキシードに花束とか、少女漫画の令嬢様でも迎えに行く執事かよ」

「これは傑作だわ! 記念に写真撮っとこ」

「あーそれいいね! 何ならインスタにアップしちゃう?」

「いーじゃん。みんなで共有していいねして拡散しようぜ」

「オッケー」


 パシャ……カシャッ。

 まるで、記者会見場かと勘違いするほどのシャッター音が鳴り響く。

 大量のフラッシュを浴びて、俺は完全に動物園のパンダのような見世物状態になってしまう。


「し、死にたい……もう学校登校できないよ……」


 俺が身を縮こまらせて立ち尽くすことしか出来ぬ中、当事者である凜花が制服姿で現れる。


「佐野君、本当にあなたって人は……私とのデートでそこまで浮かれてしまうとは、ふふっ、気持ち悪いですわね」


 こうして、俺のデートは黒歴史として語り継がれることになり、高校卒業まで永遠にいじられることになるのであった。



 ◇◇◇



「なるほどな、凜花の奴。俺を徹底的に叩きのめそうってわけか。上等だ、こうなったら、俺だって負けてたまるか!」


 俺は早速、ネットで『初めてのデート』で検索を掛ける。

 そして、デートで気を付ける点や、無難な服装などをチェック。

 クローゼットを開き、今手持ちにある衣服を吟味して、当日着ていく服をチョイスしていく。

 気づけば、陽はとっくの昔に沈み、外は暗闇に包まれていた。


「よしっ……出来たぞ!」


 完成したコーディネートは、ベージュのトレンチコートを羽織り、グレーのニットセーターを身につけ、ズボンは黒のスラックス。

 カバンは黒のリュックという、濃色多めのファッションが完成した。


「まあちょっと根暗感は否めないけど、他の服が論外だから、これで挑むしかねぇ」


 俺が姿見で自身の服装を確認していると、ピンポーンとインターフォンが鳴り響く。


「……こんな時間に誰だ?」


 両親なら鍵を開けて普通に家に入ってくるだろうし、新聞の集金か?

 そんなことを思いながら、階段を下りて玄関の扉を開けると、そこにはジャージ姿の南央が立っていた。


「慶悟……お腹空いた!」


 南央はフラフラーッと玄関へと入ってくるなり、上がり框にへたり込んでしまう。


「南央⁉ 何してんだよこんなところで……」


 突然の訪問に目をパチクリとさせていると、南央がキョトンと首を傾げていた。


「何って? 模試の復習一緒にするって言ったでしょ?」

「あれ、今日のことだったの⁉」

「当たり前じゃん。早いに越したことはないの! だけど、私部活終わりでお腹ペコペコなの。だから、何かお恵みを下さい」


 俺は思わず、くしゃくしゃと髪を掻いた。


「分かったよ。今から作るから、ちょっと時間かかるけど待ってろ」

「ほんとに⁉ ありがとー! やっぱり持つべきは、ご飯を作ってくれる幼馴染だね!」


 そう笑みを浮かべる南央を見ると、なんだか今まで悩んでいたことが馬鹿らしくなってきてしまう。


「ほら、土埃外で払ってから上がってこい」


 俺はそう言って踵を返して、キッチンへと向かって行き、南央のために夕食を作ってあげるのであった。

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